食欲
「もっと飯をもってこい! 足りねえぞ!」
宿泊所にたどり着いた勝は、一階の食堂で席につくや茜に命じ、料理を持ってこさせた。テーブルに山盛りにされた料理をあっという間に平らげると、追加を茜に命じる。
「お兄ちゃん、そんなに食べて大丈夫?」
茜はあきれて勝に話しかけた。勝は面倒くさそうに骨付きのチキンを持った手を振り回した。
「おれは腹が減っているんだ! さっさと手当たりしだい、持ってこないか!」
はいはい、と茜は小走りに料理が並べられているバイキング・コーナーに向かうと、勝の言葉どおり「手当たり次第に」トレーに乗せ、運んだ。
目の前に運ばれたあらゆる料理を、勝は次から次へと口に運ぶ。ろくに咀嚼もしない。
がつがつと肉を、魚を、米を、そしてサラダを食らい、ピッチャーになみなみと注がれた一リットルの野菜ジュースで胃袋に流し込む。
驚異的な食欲である。
そしてさらに驚異なのが、食料を腹に詰め込むたびに体力が回復しているかのようである。食事がダイレクトに身体に受けたダメージを修復しているようだ。
傷跡がふさがり、血色もよくなる。顎が動くたび、血液が生産されているようで、食後のデザートのころには普段の顔色に戻っていた。
そんな勝を、茜はあきれたように見ていた。
「お兄ちゃん、すごい回復力ねえ……あんな怪我だったのに」
「なに」
勝はまだ口をもぐもぐさせながら肩をすくめた。
「こんなのたいした事じゃない。島に残っている奴はたいていこうだ。そうでないと、残っていられないがね」
そう言ってにやりと笑った。
そんな兄を茜はテーブルに肘を乗せ、顎に手の平をつけて見つめた。
あきれた……これじゃ家へ帰るのは、当分先のことみたい……。