集結
やはり通り雨だったようだ。
突然降り出した雨は、降り出したときと同じくさっとあがり、雲間から太陽のまぶしい光があたりを照らし出した。
ふたりの巨漢がにらみ合っている。
ひとりは勝又勝。
もうひとりは風祭俊平。
ふたりの身体からは、しろい蒸気が立ち上っていた。
全身にちからをこめ、激突に備えているのだ。体中には力強く血液が流れ、体温は急上昇して服にしみこんだ雨を蒸発させている。
ふたりともぴくりとも動かない。
いや動けない。
ちょっとでも身動きすれば、それが決着につながるという予感に相手の出方をうかがっている。
うおおおお〜っ!
突然、俊平が雄たけびをあげた。
地鳴りに似た、あたりを圧する音声に、からからと乾いた音を立て、コンクリートの破片が廃墟となったビルから路面にころげ落ちる。
ぐわああああ〜っ!
負けじと勝も雄たけびをかえす。
ぱりん、と音を立て、あたりの窓ガラスが割れて弾けとんだ。
ばさばさばさ……と羽音をたて、このあたりに住み着いている烏が驚いて集団で飛び上がった。
ふたりを中心として、同心円にほこりが舞い上がる。闘気が目に見える形で、あたりの空気を舞い上がらせているのだ。
いざ対決! と、ふたりはじりっと足を動かした。
そのとき……。
「お兄ちゃん!」
がくっ、と勝はたたらを踏んだ。
へ? という顔でふり返る。
たたた……と、一心に走ってくる少女が目に入った。
勝の目がおおきく見開かれた。
「茜……?」
お兄ちゃ〜ん! と、大声をあげ茜は表情を泣き顔でぐしゃぐしゃにして飛び込んでくる。勝の胸に顔をうずめ、泣きじゃくる。
「お、おい……茜、お前どうして?」
茜は顔を上げた。
「馬鹿! お兄ちゃんの馬鹿! 探したんだよお……」
よお……の語尾が泣き声でかすれた。
勝は苦い顔になった。
ぐっと茜の肩を掴んでいる腕を伸ばし、言い聞かせる。
「ちょっと待て! いまおれが何をしているか、判んねえのか?」
だってえ……と茜はぐずった。
その時、砂利を踏んで近づいてくるふたりの足音に勝はそちらに注意を向けた。
かれの目がさらに見開かれた。
「真行寺美和子……」
つぶやいた。
「なに、いまなんと言った?」
それまであっけにとられ、ふたりのやりとりを聞いていた俊平が緊張した表情になり、勝の見ている方向に目を向ける。
「その女か……一度お目にかかりたいと思っていたんだ」
にやりと笑った。
その笑いに、美和子は眉をひそめた。
ぎらりと俊平の口もとが日差しを反射する。
かれの歯はすべて義歯になっていた。しかも鋼鉄製の。
かれらが顔を合わせたのは偶然のようだが、しかし偶然の要素は少ない。
すでに島のトーナメントが始まって数日経過している。それまで大多数の参加者が落伍し、参加者は十数名に限られていた。参加者の数が減るにつれ、島のあちこちに用意された宿泊所、食堂はその数を減らしている。少ない人数のためにすべての施設を開く必要はないからだ。
とうぜん、その施設を利用する参加者たちの活動範囲もせばまっていく。勝たちが施設を利用するかぎり、顔を合わせることは必然でもあった。
バッジ獲得者上位の者がここに集結したわけだ。