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命令

 暗闇の中、洋子はぼんやりとしていた。

 最初のパニックはおさまり、あとは平穏な状態になっていた。じつは医師の調薬した薬品のためなのだが、洋子は奇妙な平安の中に漂っていた。

 

 ──洋子……洋子……聞こえるか? ──

 

 ふいの声に、洋子は身をこわばらせた。とはいえ、あいかわらず全身の感覚はないから、身をこわばらせようとしてのだが。

 

 ──誰? いまのは誰? ──

 

 暗闇の中、洋子は叫んでいた。しかし喉はあいかわらず声を発せようとはせず、思考だけが独走している。

 

 ──ぼくだ……ケン太だ。高倉ケン太……わかるかい? ──

 

 ああ、ケン太さんだ……。洋子は声の正体がわかってなぜかほっとなった。彼女をこういう状態に突き落としたのはケン太なのに、いまは全身でかれの声を欲していた。

 なんでもいい! もう一度声を聞かせて! そうすれば、あたしあなたのため何でもできる!

 

 ──洋子、ぼくはがっかりしたよ。君はぼくを裏切ったね──

 

 そんな……洋子は絶望のふちに落ちていた。せっかくひさしぶりに聞けた人間の声だというのに、その言葉は洋子を打ちのめした。

 

 ──しかしぼくは君にもう一度チャンスをあげようと思う。もし、君がぼくの忠実な召し使いとなるなら、そこから救い出してあげる。どうだい? そこから出たいかい?──

 

 ケン太の言葉は絶望の底からふたたび希望の中へと洋子を引き上げた。

 洋子は熱をこめて誓った。

 

 ──はい、もちろんです! あたし、これからケン太さんの忠実な召し使いになります! もう、ケン太さんの言うことに異議を唱えることはいたしません! ──

 

 洋子は本気だった。

 今や彼女は、ケン太の忠実な召し使いになっていた。熱烈に、ケン太の命令に従いたいという欲求が彼女の全身を駆け巡っている。

 


 

「反応は上々です。脳波も、それを裏付けています」

 精神科医の報告に、ケン太はうなずいた。

「目を覚まさせてやれ。そうしたら、ぼくのところへ来させるんだ」

 はい、と医師はうなずいた。

 ケン太はその場を離れた。

 やらねばならぬことが山積している。

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