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木戸の熱弁

 その会話を耳にして太郎は拳をわれ知らず、握り締めていた。

 木戸は完全に主人きどりである。

 その肩を、そっと叩く者がいる。

 はっ、とふりむくと田端幸司のまるい顔があった。しっ、と幸司は一本指を口の前にたてた。太郎はうなずいた。

 こっちへこいよ、というように幸司はくいっと頭をかたむけた。

 うん、とうなずき太郎は幸司とともに廊下に出た。

 ほっとため息をつくと、幸司は肩をすくめた。

「聞いたかい? 保証する、だってよ! なんでえ、ご主人さまのつもりなのかよ」

 幸司は知らないんだ、と太郎は思った。

 つもりではなく、実際そうなのだ。いまや、この屋敷、そして真行寺家の財産すべては木戸のものになっている。それを説明すると、幸司は目を丸くした。

「そんなこと……違法じゃないのか?」

 違う、と太郎は首をふった。

 あの手紙にあった法律上の項目は、すべて木戸が合法的に真行寺家の財産を受け継いだことを説明していた。太郎もなにか抜け穴がないかと何度も検討したが、遺漏はない。おそらく、腕利きの弁護士が書類を作成したのだろう。

「畜生! なんてこった!」

 幸司は憤慨していた。ぱしっ、と音を立てて手の平に拳を打ち合わせる。

「なあ、太郎。おれ、ここ辞めるぜ」

「辞める? どうして」

「あんなやつがおれのご主人様だなんて、馬鹿らしくてやれっかよ。コック長は別らしいけどな」

 幸司は肩をすくめ、じろっと太郎を見る。

「おめえはどうすんだ。やっぱりあいつにお仕えするのかよ」

 いいや、と太郎は首をふった。

「ぼくはお嬢さまと”忠誠の誓い”をしたんだ。だから木戸がここの持ち主となっても、お嬢さまにお仕えすることは変わりない」

「なるほどな。でも、お嬢さまがお前にどうやって給料をはらえるんだ?」

「そんなこと関係ないよ。給料がはらえるか、はらえないかなんて。ぼくはお嬢さまの召し使いだ。給料が払えないからって、辞めるわけにはいかない」

 ふうん、と幸司は感心した。

「とにかく、頑張れや。おれはどっか別のお屋敷に勤めることにする。なあに、コックの口はどこにでもあるさ」

 にやっと笑うと、ぽんと太郎の肩をたたきぐるっと回れ右して歩き出した。

「君も頑張れ!」

 太郎のかけ声に、幸司はかるく右手をあげてこたえ出口へと去っていった。

 見送った太郎はそっと厨房の中をのぞきこんだ。

 木戸は召し使いたちに熱弁をふるっている。

 じぶんがこの屋敷のあたらしい主人になったこと、真行寺家のあらゆる財産はかれの管理のもとにおかれ、したがってこれからの給料は木戸の名前で支払うこと。

 太郎はしずかにその場を立ち去った。

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