高倉ケン太
ふっと太郎は汗をぬぐい、立ち上がった。なにかが目じりを捕らえる。
きらきらと、真行寺家の正門の方向からなにかが日の光を反射している。なんだろうと顔をあげた太郎は、まっしろな高級車が正門をくぐるのをみとめた。車のボンネットに飾られているマスコットに太陽のひかりがさしこみ、反射していたのである。白い車体に、金の縁取りがいやがおうに高級感をただよわせている。車はゆっくりと真行寺家の車寄せに近づき、玄関前で停車した。
ドアが開き、後席からひとりの若者が姿をあらわした。
真っ赤な色彩が目に飛び込んでくる。
若者は全身、真っ赤な学生服を身にまとっていた。
たてた詰め襟、金髪に染め抜いたリーゼント。
太郎はおもわず作業の手をとめ、見入っていた。
高倉ケン太!
間違いない。
つい先日、テレビで見たときとまったく同じだ。上下真っ赤なそろいの学生服で、背中の”男”の刺繍が陽射しにきらめいている。
玄関には木戸が出迎えに出ていた。
木戸は大股に歩み寄るケン太に深々と頭をさげた。
うん、とばかりにケン太はうなずく。木戸の口が「ようこそ」と動くのが見えた。
木戸が開いた玄関に高倉ケン太の姿が吸い込まれる。
立ち上がった太郎は、ふと玄関前に止まっている高級車に目をやった。
運転手が外に出て、羽箒で丁寧に車体の汚れを落としている。
運転手は女だった。
太郎は思わず、庭仕事の道具を取り落としていた。
運転手は山田洋子だったのだ。