表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/117

草むしり

 太郎は一日、朝早くからおきて庭の草むしりをつづけていた。木戸から命じられたからだ。季節は春で、昼近くになると温度はあがり、太郎の額に汗がふきだした。むっとするほどの草いきれがたちこめ、あたりには冬眠からさめたカエルや、ちいさな昆虫がはいだしている。


 やあーっ、というかけ声が遠くの道場から聞こえてくる。

 美和子が師範相手に武道の稽古をつづけているのだ。彼女の声は高く澄んでいて、すぐわかる。ときおり竹刀の音がまじる。今日の武道の練習は剣道だった。

 合気道、剣道、薙刀などさまざまな古式武道を美和子は習っている。よほど性に合っているようで、どの武道でも美和子は師範代クラスの腕前を誇っていた。


 テレビは結局駄目になってしまったな……と、太郎はふと思った。

 男爵の計画に、木戸が猛反対をしたのである。



 

「テレビなど、この真行寺家に必要ありません! そのような汚らわしい機械がこの屋敷に入れるなど、断固として反対いたします。もしお認めいただけないのなら、わたしは辞職しますのでそれでもよろしいのなら、どうぞお買いになられればよろしい……」


 そこまで言われ、男爵は計画を進めることができなくなった。木戸の反対に、男爵はうなずかざるをえなかったのである。


 実際、真行寺家の経営のすべては木戸が握っており、かれがいなくてはなにも動くはずはなかった。木戸の辞職という脅しは、男爵の一番弱いところを突いたのである。

 あとで男爵は太郎と美和子を呼んでわびた。



「すまん、木戸にああ言われたのではあきらめるしかないんでな……」

 それを聞いた美和子はにっこりとほほ笑んで答えた。


「いいのよ、お父さま。たぶん、見ても楽しくないと思うわ。よかったわ、テレビが家に来なくなって!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ