初仕事
「今日からお前を美和子お嬢さま付きの召し使いとする。しっかりはげむように」
ことさら厳粛な表情をつくり、木戸は太郎を自分の個室に呼びつけ宣言した。木戸の目の前に立つ太郎の表情は変わらない。木戸には屋敷内で贅沢な個室をあたえられていた。高い天井に、おおきな窓にはどっしりとしたカーテンが垂れ下がり、見上げるほど高い書架にはぎっしりと書物が並んでいる。
木戸はうなずいた。
「これはお嬢さまが望まれたことでもある。お嬢さまはお前が年令も近いこともあり、親しみを覚えられているようだ」
太郎はそれを聞いても微動だにしなかった。すぐれた召し使いは、その心中を表情に出すことはしない。太郎はその教えを忠実にまもっている。
「だが、あくまで召し使いとしてだぞ。お前はお嬢さまがどのように親しげな態度に出られても、じぶんの立場を忘れることのないよう言っておく」
はい、と太郎は答えかるく頭を下げた。
ふん、と木戸は鼻を鳴らして立ち上がった。窓に近寄り、外の景色に見入る。背中を見せたままつぶやく。
「行ってよし。お嬢さまはじぶんの部屋にいらっしゃるだろう。挨拶してこい」
もう一度はい、と返事して太郎は木戸の部屋を退出した。ドアを後ろ手に閉めるとほっとため息をつく。そっと手を開き、見入った。
手の平にはびっしりと汗が浮いていた。
いけない……こんなことでは召し使い失格だ!
一息吸い込み、深呼吸すると太郎は歩き出した。
この間テレビで「トリプル・エックス2」というのを観た。アクション物だけど、主演のアイス・キューブってのが髭を生やした出川哲郎に見えてしかたなかった!