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老召し使い

 挨拶がおわって太郎の初仕事となった。といっても、本格的な召し使いの仕事はあたえられず、庭の草むしりとかトイレの掃除などの雑用である。しかし太郎はそれらの雑用を誠心誠意、かたづけていった。執事学校でそれらの雑用は授業の一環としてやっていた。太郎にとっては、どんな仕事も執事になるための必要な過程であった。


 一日目、二日目とすぎていって、太郎は屋敷の召し使いの仕事といってもいろいろあるんだと感心した。


 召し使い仲間にひとり、高齢の老人がいた。年令は七十をこしているだろうか。腰は曲がり、歯はすっかり抜け落ちて入れ歯になっているが、それでも元気な老人で名前を谷村といった。谷村老人の仕事とは、屋敷内の窓の開け閉めそれだけである。


 窓の開け閉めといっても、真行寺家の部屋数は百をこし、それらの部屋の窓を夜明けとともにひとつひとつ開けていくのだ。夜明けから昼過ぎにかけ、ようやく屋敷中の窓が開け放たれる。

 そして昼からは開けた窓を閉めていく。すべての窓が閉め終わったころには夕暮れになっている。これを週に一日続けているのだ。


 なぜこんなことをするかというと、窓を締め切りだと空気がこもり、家具や壁にわるい影響をあたえる。一周間に一回は窓を開け、外の空気をいれることが建物を長持ちさせる秘訣なのだが、なにしろ真行寺家の屋敷はひろく、部屋もおおい。窓の開け閉めだけで、専門の召し使いを必要とするのだ。


「わしは十八の年からこの仕事を続けてきたんだよ」

 そう言って谷村老人はひゃっ、ひゃっと空気の漏れるような笑い声をあげた。

「もちろん、はじめたころはここと違う屋敷だったがね。この真行寺のお屋敷が建てられて、窓の開け閉め係が必要となって呼ばれたのさ。ここのだんな様とは若いころからの親友で、それでこの仕事を世話してもらったのさ。引退? うんにゃ、わしは死ぬまでこの仕事をやるつもりだ。子供や孫はそろそろ隠居しろとうるさいが、わしがやらんで誰がやるね?」

 太郎は昼休みに庭の芝生で老人の世間話の相手になっていた。厨房からだされた昼のまかないを口にしながら、ふたりは話を続けている。喋るのは老人がほとんどで、太郎は相槌をうつだけだったが。


 昼休みの時間が終わり、太郎は仕事に戻ろうと立ち上がった。老人は太郎を見上げ、声をかけた。

「ありがとうよ、わしのような年寄りの相手をしてくれて」

「いえ、ぼくのほうこそ楽しかったです」


 一礼して太郎はその場を立ち去った。

 仕事はまだまだ残っている。

椎名誠の「アド・バード」を読んでいます。

異様な世界観と言語感覚は圧倒的。

ぼくもいつかこんな小説を書いてみたいですなあ……

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