トーナメント?
大京駅を出ると、まぶしい日差しがアスファルトの路面に踊っている。小姓村を出たときは雪雲が重くたれこめていたのを思えば、ずいぶんと季節が違う。あらためてじぶんの故郷が北国にあることを太郎は思った。
それに人!
なんという沢山の人だろう。
目の届く限り、さまざまな服装をした男女が、じぶんだけの目的を胸に足早に行き交っている。
自動車のクラクション、エンジン音。その騒音に混じって、店先からは客をよびこむ店員の声、音楽がやかましい。それらの音とひかりに、太郎はくらくらとなっていた。
太郎はビルの壁に一枚のポスターが貼られているのに気づいた。ポスターには海原が描かれ、波の向こうにひとつの島が浮かんでいる。しかしふつうの島ではない。しらっちゃけた崖の上に、廃墟のようなビル郡がごつごつとしたシルエットを見せている。暗く、どんよりとした雲を背景に、その島はどこか不気味な印象をはなっていた。
その島にかぶさるように真っ赤な色である文句が書き連なれていた。それは──
番長島トーナメント
今年も開催決定!
参加者募集中!
お問い合わせは「高倉コンツェルン事務局」へ
と、あった。
ほかに優勝者への賞金が書かれている。その金額はまさに天文学的で、いったいこれはなんだろうと太郎は首をひねった。トーナメントというからには、なにかの勝敗をあらそうのだろうが……。
「おい、お前もトーナメントに出るのか?」
いきなり背後から声がかかり、太郎の肩にだれかの手がおかれた。
えっ、とふりかえると視線の先に、まさに見上げるほどの巨体をほこるひとりの男が太郎の顔をすごい顔つきで睨んでいる。
太い眉、ぎょろりとした鋭い眼光。その顔には無数の古傷が交錯している。男はぼろぼろになった古い学生服を身につけていた。とはいえ、学生には見えない。頭にはいったい何年洗っていないかわからないほど汚れた学生帽を被っている。足もとはこれまた真っ黒に汚れた下駄を履いていた。
男はぐい、と太郎の肩を引くとじぶんが前に出てポスターに見入った。その唇がゆがんで、笑いの形をつくった。ぐふぐふぐふ……というような奇妙な笑い声をたてる。まるで洞窟の向こうから聞こえてきそうな、低い笑い声だ。男はふたたび、太郎をじろりと睨んだ。
「どうなんだ、このトーナメントに出るつもりで見ていたのか?」
い、いいえと太郎は首をふった。
ふん、と男は肩をすくめた。はじめから太郎が参加するとは思ってもいなかったようである。たんに、聞いてみたかっただけのようだ。と、いきなり腕をあげ、男はポスターをいきなりべりべりと壁から引き毟ってしまった。それをくるくると丸めると、胸のボタンを開けて中へねじこむ。
ひとつ肩をゆすり、男は歩き去った。その場にいた通行人にくらべ、頭ひとつかふたつは飛びぬけているかれの背中は、まるで海上で波をかき分け進む船のようだった。がらがらと、下駄が歩道の敷石でやかましい音をたてている。それを見送った太郎はひとつ頭をふっていまの出来事を記憶からふりはらった。
ともかく真行寺男爵の屋敷に急がねば……。
中古ビデオのワゴン・セールで見つけた「ガンバス」
西部の銀行強盗二人組みが、恩赦を条件に第一次世界大戦の戦場へ送られ、戦闘機のパイロットになるという娯楽作品。
主演の二人も、特撮も頑張っているのに、演出がどうしようもなく駄目!
もったいない!