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 洋子と幸司は、高倉邸の玄関に座り、空を見上げていた。

 ざあざあと音を立て、大粒の雨が降り続いている。

 膝を抱え、ふたりは無言で雨を見つめていた。


「これからどうしようか……」

 ぽつり、と幸司がつぶやいた。うん、と洋子はうなずいた。

「あなた……幸司さん。なにか計画はあるの?」

 その言葉に幸司はにっこりと笑顔になった。


「決まってら! きっと美和子お嬢さまは真行寺家を元通りにするから、そうなったらおれはもとのコック見習いに戻るさ! そうして、いつかお嬢さまにおれの料理を食べてもらうんだ!」


 幸司のあけっぴろげな言葉に、洋子はほほえましく思ったのか、かたほうの頬に笑窪をつくった。

 ふわん、ふわんと甲高い音を立て、一台の救急車が正門前に止まった。洋子と幸司はその方向を見やる。


 わっ、とばかりに記者がそのまわりを取り囲んだ。車内に運び込まれているのは、木戸のひょろ長い身体であった。取り囲んでいる記者はマイクを突きつけ「なにか一言!」と繰り返している。木戸は無言で車内に運び込まれた。

 救急車のライトが旋回し、人垣をかきわけるようにして走り去る。

 記者たちは傘の用意をしていなかったのか、雨の中ずぶぬれで立ち尽くしている。


「あいつ……どうしちゃったんだろう?」

 幸司はつぶやいた。


 あれ、と洋子は立ち上がった。

 雨の中、ひとりの人物が正門から近づいてくる。

 すらりとした上背、タキシード。長い髪の毛を、後頭部でまとめている。

 かれは玄関にいる洋子と幸司に気付いた。

「やあ、きみらは?」

 声をかけたかれを、洋子は熱心に見つめていた。

 おずおずと言葉をかける。

「あのう……もしかして、あなたは太郎の、つまり只野太郎の……?」

 かれはにっこりと笑顔になった。

「そう、わたしは只野太郎の父親。只野五郎だ!」

 やっぱり、と洋子は顎をひいた。

「高倉コンツェルンの歴史を調べたことがあるんです。その時、あなたの写真が創業の歴史のときにかならず入っていました。名前から、もしかして太郎のお父さんかも、と思っていたんです」

 うん、と五郎は手で後頭部をなでた。

「そう、高倉コンツェルンをここまで育て上げたのはわたしだ。執事としての経験がそれを可能にした。しかしいまでは後悔している。高倉コンツェルンはある意味、怪物のようになってしまった……」


 ぐっと顔を上げた。

「コンツェルンの歴史を調べた、といったね。なぜそんなことを?」

「わたし執事学校でメイドの訓練を受けたんです。じぶんが奉公する家の歴史を知ることは大事だと教えられていましたから」

「執事学校?」

「はい、わたしは山田洋子といいます。太郎とはクラスメートでした」

「ぼくは田端幸司です。真行寺家の見習いコックをしていました!」

 なるほど……と、五郎は肩をすくめた。


 ちらり、と洋子を見つめる。

「きみはいいメイドになりそうだな」

 誉められ、洋子は顔を赤らめた。


「でも、あたし、この高倉家を辞めようと思っています」

「なぜだね?」

「主人である高倉ケン太さまに、どうしても忠誠を誓うことが出来ないからです!」

 五郎の顔に理解が浮かぶ。


「そうか、番長島で受けた洗脳処置だね。たしかにあれは主人としてやってはいけない禁じられた方法だ」

 そこで五郎は何かを決意するような表情になった。

「これからわたしがやろうとすることは、ある意味ケン太の破滅につながることだ。あの正門にいる記者を見たかね?」

 そう言って親指を立て、正門を指し示す。

「あの記者たちに、高倉コンツェルンの……というよりケン太のやってきたことだな……を教えるつもりだ。膿は出すだけいいんだ。それで高倉コンツェルンは生まれ変わることができるだろう。また、そうでなくてはならない」


 洋子を見る。

「きみ、手伝ってくれるか?」

 彼女は息を吸い込んだ。

「やります!」

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