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取材要請

高倉邸の広大な敷地には飛行船がその巨体を横たえていた。朝もやがあたりに漂い、高倉邸はぼんやりとしたシルエットになって浮かんでいる。


 突き出たように高々とした建物に明かりが灯っている。ここには高倉ケン太の執務室があった。執務室にはどっしりとしたデスクが備えられ、その引き出しをつぎつぎと開けてケン太は腕いっぱいに書類をかかえ、それを部屋の暖炉に投げ込んでいった。暖炉には炎が燃え、投げ込まれた書類はつぎつぎと灰になっていった。炎に照らされたケン太の表情は焦燥のため悪鬼のように歪んでいた。


「くそ! なんてこった! こんなはずじゃなかったのに……」

 ノックの音がして、ケン太はぎくりとふり返った。

「なんだ!」

 叫ぶ。ドアが開くと、メイド姿の洋子が立っていた。洋子は無表情でふかぶかと頭を下げると口を開いた。

「杏奈お嬢さまはお部屋でお休みになられました。あとはいかがいたしましょうか?」

「ドアに鍵をかけておいたろうな? あいつは当分、出すつもりはないから、見張ってろ! いいな、外へ出すなよ」

 念を押すケン太に、洋子はゆっくりとうなずいた。引き下がろうとした彼女は、思い出したようにふり向いた。

「なんだ、なにかあるのか?」

「はい、正門前に人が集まっております」


 なにい……とうなったケン太は大股でデスクに戻ると、側のスイッチに指を近づけた。

 スイッチを入れると、部屋の壁がぱくりと反転し、そこにテレビ・モニターが現れた。モニターには屋敷のあちこちが映し出されている。番長島にあった、監視カメラと同じ仕組みである。

 素早くケン太はスイッチを操作し、モニターに正門前の映像を映し出した。

 鉄門に数十人の人間が集まっていた。かれらは手にマイクを握り、その背後に手持ちのテレビ・カメラを担いだスタッフが控えている。鉄門の内側に高倉家の召し使いが数人立って、外側の人間と押し問答をしていた。召し使いたちの中に木戸の姿もあった。木戸は召し使いたちの背後に立ち、傲然と腕をくみ、険しい顔で外を眺めている。

「なんだ、あれは……」

「テレビ局の人だそうです」

 洋子の答えにケン太のこめかみに血管がういた。

「テレビ局だと……いったい、何のようだ?」

 つぶやき、音声のスイッチを入れた。たちまち騒ぎがスピーカーから流れる。



 

「入れてくれ、おれたちは大京テレビの人間だ。ぜひ、高倉ケン太氏にインタビューを申し込みたい」

「ケン太さまはお疲れで、ただいまお休みになっておられます。インタビューの申し込みなら、代表部に……」

「待てないなあ! 今朝はどこの新聞も、昨日のトーナメント開催中に流れた、あの書類のことでおおわらわなんだ。是非、あの書類の真偽についてかれのコメントを聞きたい。これは重大なことだぜ。高倉コンツェルンの真行寺家乗っ取りの疑いが濃厚だからな」

「そこにいるのは木戸さんだな! あんた、高倉ケン太のスパイだって噂だぜ。あんなことをした理由は、高倉コンツェルンの重役の椅子を約束されたからかね?」

 罵声を浴びせられた木戸はぴくりと眉をあげた。しかし返事をせず、ただ無言で立っているだけだ。返答する必要をみとめなかったのだろう。

 

 

 くそ、とうめいてケン太は音声のスイッチを切った。

 足音荒く窓際にくると、窓ガラスをおおきく開く。

 朝霧は朝日と共に薄れていき、あたりの景色がじょじょにはっきりとしてきた。にじんだ朝日が高倉邸のすみずみまで金色に染め上げていく。

 顔を窓外に突き出したケン太は、妙な物音を耳にした。

 

 ぐおおん……。

 

 なんだろう、とケン太は首をかしげた。音は空から聞こえている。

 と、ふいに霧の中から一機の飛行機が姿をあらわした。

 わっ、とケン太は首をすくめた。

 飛行機は執務室のある建物をぎりぎりにかすめ、旋回していった。ひどく旧式の飛行機である。その横腹に、高倉コンツェルンの紋章が描かれていたのをケン太はみとめた。

 その時、朝霧はすっかり腫れ上がった。

 しらじらとした空を背景に、飛行機はゆったりと高倉邸の上空を旋回している。

 エンジンの轟音がとだえた。

 ぷすっ、ぱすっというたよりない音に変わり、飛行機のプロペラが停止した。

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