第五話
男達を倒し終わった後、少女が俺の所に走ってきた。
「今のどうやったんですか!?」
少女はかなり興奮気味に言った。
「そんなに驚くことじゃねぇだろ」
「いや、普通驚きますよ!特に最後のアレ、どうやったんですか!?空中で二回転してましたよね!?」
「別に大したことじゃねぇよ。あんなん俺の地元じゃ、二歳のガキだって出来る」
(もちろん嘘だけど……)
「二歳って……。言い訳するなら、もっとましな言い訳してください!」
一瞬のうちにバレてしまった。
これは中途半端な言い訳じゃ解放してくれないだろう。
しかし、困ったことに、良い言い訳が思いつかない。こうなれば、俺の十八番を使うしかないか……。
「まぁ、二歳は言いすぎたが、最近の男子はあんぐらい誰でもできんだよ」
「そ、そういうもんなんですか?」
「そういうもんだ」
何やら少女は、納得いっていない様子だったが、それ以上聞いてくることはなかった。
(やっぱ、睨みつけるって便利だなぁー)
「ところでお前、なんでこんな道通ろうとしたんだ?明らかに普通じゃないって分かるだろ」
「うぅ、それはですね。私も普通の道じゃないっていうことは、この道に入った瞬間に分かったんですけど、かなり急いでいて、こっちの道の方が近道だったので、つい……」
少女は、どこか申し訳なさそうに言った。
「……ったく、俺がたまたま通りかかったから良かったけどなぁ、そんなんでもし男達に襲われてたら、たまったもんじゃねぇぞ。俺への感謝の気持ちは永遠に忘れるなよ。お前の子孫にも、俺への感謝の気持ちを受け継いでいけ!」
「そこまでする必要はなくないですか!?まぁ、でも、助けてくれてありがとうございます」
「……ったく、分かれば良いんだよ、ガキが!」
「なっ!?ガキって、見た目同い年ぐらいじゃないですか!ていうか、情緒不安定すぎません!?」
(情緒不安定?こいつ、俺のこと言ってんのか?まさか、な……)
「ところで、そんな急いでどこ行こうとしてたんだ?」
「はぁ〜、急に普通に戻らないでくださいよ。やっぱ情緒不安定ですよね」
(……………。コイツ、可愛い顔して結構きつい性格してやがる。もしくは、天然か、
……間違いなく前者だろうな、さっきからニヤニヤしてやがる。ほんと良い性格してるわ)
俺がそんなことを考えていると、
ゴーン、ゴーン
街に鐘の音が鳴り響く。
街の鐘は、一時間に一回のペースで鳴る。
俺は、ここに来る前に十一時の鐘を聞いているので、今の鐘は十二時を知らせる鐘のようだ。
(ところで俺は、一体なんの用事で街に来たんだっけか?さっきの騒動ですっかり忘れちまった。とても大事な用事だったような気がするのだが……。まぁ、忘れるってことは大した用事じゃなかったんだろうな。久しぶりに動いて疲れたし、今日はもう帰るか……)
「あ?」
俺が帰ろうとした瞬間、少女が青ざめた表情でこちらを見ていた。
「……あの、今って何時か分かりますか……」
「十二時だが、それがどうかしたのか?」
それを聞いた少女の顔が、どんどん青ざめていく。
まるでブルーベリーのようだ。
たぶん、さっき言っていた大事な用事というのに、間に合わなかったのだろう。
少し気の毒になってきた。
「そんなに大事な用事だったのか?」
「今日、本の発売日なんです……」
「本だと?そんなん発売日じゃなくてもいいだろ」
「ダメなんです……。今日発売するのは初回限定版で、たった百個しか生産されていないんです……」
「そうか、それは残念だったな」
(しかし、今日発売ですぐ売り切れる本か……。ん?今日発売ですぐ売り切れる?なんかどっかで聞いたフレーズだな……!
思い出した。そういえば俺は、昨日レオナから買い物を頼まれていた。商品名は適当に聞き流していたから覚えてはいないが、どうやら話を聞く限り、コイツの言っている初回限定版の本で間違い無いだろう。これはマズイな……。あそこまで頼まれて『買えませんでした、てへぺろ☆』で許されるとは思えない。最悪、家から追い出される可能性もある。これは、どんな手段を使ってでも手に入れなくてはならない。例えそれが、犯罪に手を染める行為だとしても……)
作者の事情で、次の話の投稿は少し遅れます。
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