第三話
俺に気づいた男達はゆっくりと俺の方に振り返った。
きっと俺の今日の運勢は最悪だろう。
少女は両手を合わせてごめんなさいのポーズをしているが、そんなんで許されると思っては大間違いだ。
後で真の男女平等主義者であるこの俺が、鉄拳制裁をくわえてやる。
「おい兄ちゃん、なんか用か?」
「見せもんじゃねぇぞ?」
男達は、かなりいきり立ってるようだ。
額に青筋を立てている。
色々と立たせるのが好きな連中だ、俺にそっちの気は無いから、下半身のアレをあまりこっちに向けないでほしい。
しかも五人全員で。
これ以上見てると目が腐ってしまいそうだ。
「早くどっか失せろ!」
俺を睨みつけながら男は言った。
しかし全く怖さを感じない。
ズボンが膨れ上がってるだけで迫力が減るのだから実に不思議な話だ。
ーーーゾワッ
なにか今、物凄い寒気を感じた。
な、なんだ?
なにやら誰かに見られているような……。
気のせいか……?
いや、気のせいじゃない。
先程から、何やらネットリまとわり付くような視線を向けられている。
獲物を見つけたハイエナというより、どちらかと言えば、ターゲットを見つけたストーカーの視線のようなものを感じる。
しかし少女が男たちに襲われそうになっている時には、周りには俺以外誰もいなかった。
この短時間の間に誰かが来たのか?
いや、それはありえない。
先程からこの辺りの気配を探しているが、隠れてこっちを見ているような奴の気配は感じられない。
そもそも、俺に気配を悟られずに近づくなんてことは、絶対にありえない。
一体この視線はなんなんだ?
ここにいるのは少女と男五人。
しかし、こんな視線を向ける奴はこの中にいるとは思えない。
俺は思考を巡らすために視線を少し下げる。
……ん?
左から二番目の男が下半身のアレを物凄い勢いでピクピクさせている。
(こいつ何やってんだ?)
俺は顔を上げそいつの顔を見ると、俺のことをずっと見ていたようですぐに視線が重なった。
全身に悪寒が走る。
俺の視線を感じた男は、とても嬉しそうな表情になり、俺にウインクをしてきた。
「ひえっ!」
変な声が出てしまった。
どうやらあの視線を送っていたのはこの男だったらしい。
いや待て、俺は確かにこの目で見たぞ。
アレをスタンドアップさせて少女を襲おうとしているのを、確かに俺はこの目で見た。
きっと何かの気のせいだろう、そうに違いない。
俺が一人で自問自答を繰り返していると、それに気づいた男が、何やらモジモジと話し始めた。
「何か勘違いしてるみたいだけど、私どっちもいけるんだ♡」
「なるほど……」
どうやら彼女は二刀流だったらしい。
いや、彼か……。
どうやら男達もその事は知らなかったらしい。
彼の突然のカミングアウトに皆驚いていた。
「俺達、お前とつるむの辞めるわ……」
悲しい声が聞こえてくる。
もし、俺もある日突然友達にカミングアウトされたらきっと友達を辞めるだろう。
友達できた事ないから分からんけど……。
それにしてもこの状況を何とかしないとな。
隙を見て逃げるつもりだったが、いつ間にか俺までターゲットの一人になってしまった。
俺と少女が、下の口の初めてを守るにはコイツらをぶっ飛ばす以外の道はもうないらしい。
あまり気乗りしないがやるしかないか……。
「はぁーーー」
俺は本日何度目かのため息をつくのであった。