第二話
凄い人混みだな……。
俺は今日、魔術都市リリエルに足を運んでいた。
魔術都市リリエルは、俺とレオナが住むガラティア王国の城下町だ。
大国の一つであるガラティア王国には例年たくさんの観光客が訪れる。
今は春休みの真っ最中、街はたくさんの観光客であふれている。
なぜこんな時期にリリエルに来たのか、それは昨日レオナから買い物を頼まれたからだ。
レオナは昨日から、国からの命令で国外に任務で出かけている。
当然レオナは買い物には行けないので俺に頼んできたというわけだ。
普段の俺ならば問答無用で断るのだが、今日発売ですぐに売り切れるものらしく、普段誰にも頭を下げないレオナが俺に頭を下げてきた。
そこまでされてしまっては断るものも断れない。
俺は渋々ながら承諾し現在に至るというわけだ。
それにしても凄い人の量だ。
50メートル進むのにも、一分以上時間が掛かる。
「人がゴミのようだ!」
俺は叫ばずにはいられなかった。
どうやら叫んだせいで周りから注目されてしまったらしい。
すれ違う人たちが俺のことを見てクスクスと笑っている。
これじゃとんだ恥さらしだ。
俺は大通りを曲がり脇道に入ることにした。
べ、別に恥ずかしかったからとかじゃないんだからね!勘違いしないでよね!!
………………。
脇道に入ると一気にひと気が少なくなった。
どうやらここら辺は、あまり治安が良くないらしい。
身体中に刺青が入った男たちが朝から酒を飲んでいる。
そんな奴らがここには山ほどいた。
薬か何かやっているのだろう、そいつらは焦点の合わない目で先程から俺の方をじっと睨んでいる。
魔術都市リリエルにも、こういう場所は存在するらしい。
(絡まれると面倒だ。目は合わせないほうがいいだろう)
俺は気にした素ぶりを見せずにそのまま進んだ。
すると、男たちも俺に興味を失ったのだろう。
各々自分の活動に戻っていく。
それから五分ほど脇道を歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。
「こいつはかなり上玉だな」
「ぐへへ、もう我慢できねぇよ」
「イヤっ!それ以上近づかないで!」
不穏な気配を察した俺は、声のする方に向かってみると、どうやら少女が男達に襲われそうになっているらしい。
少女が四、五人の男たちに囲まれていた。
どうやら男達は朝からとても元気がいいようだ。
男達のズボンは膨れ上がっており、先っぽが体液で湿っている。
( ……それにしてもあの女、かなり上玉だな)
年齢は十五歳ほどだろうか、とても整った顔立ちをしており、肩まで伸びる薄水色の髪が特徴的な少女だった。
そんなことを考えていると、俺の気配に気づいた少女と目があった。
怖くて声がでないのだろう、少女は俺の方を見つめている。
それに対して、俺は笑顔で見つめ返した。
見つめ合うこと数秒。
俺は踵を返し、後ろにひらひらと手を振ってその場を立ち去る。
そのはずだったのだが……。
「なに颯爽と立ち去ろうとしてるんですか!
今完全に助ける流れだったでしょ!?」
少女が叫んだことによって、男達は俺の存在に気がついた。
(声出るじゃねぇか……)
やれやれ、面倒なことに巻き込まれてしまった。
「はぁーーー」
俺は深いため息をついた。