番外の物語 英雄編 その1
前回言った通り今回の話はまだまだ本編とは関係ありません。完全なる番外の物語です。でも、他の話とは違って設定もなにも考えずに結構自由に書いたので個人的には書くのは楽しかったですね。
そこは荒野だった。
どこまでも荒れ果てた地が続き、植物もところどころ弱々しく生えているだけだ。気温も決して低くはなく、長袖でいるとかなりの汗をかいてしまうような日もさしている。
そんな果てしない荒野を歩く二人組の旅人がいた。
一人は少女。髪は肩までかかる綺麗な白髪で荷物は腰にポーチをつけており、服装は動きやすい半袖のシャツに下は長めのズボンを捲って半ズボンのように見せている。
もう一人は青年。このような場所であるにも関わらず、長い袖の上と年期の入ったジーンズを着て、荷物を何かもっているようには見えない。
しかし、この青年に注目するべきはその顔と髪である。
頭の髪は半分とまではいかないが白髪に染まっており、残りがおそらくもともとの髪の色である黒髪で染まっている。
顔の右目には特になにもないが、左目には右目にはない大きな傷が縦で刻まれており、おそらくもう光を取り入れることははないのだろう。
そんな異質な青年と少女はただただ荒野を歩き続ける。
しかしその現状が暫く続いたあと、少女の方が口を開く。
「あ~~~つ~~~~い~~~~~!!」
「……お前は長時間黙って歩き続けることが出来ないのか……」
少女の言葉に反応して、青年が気だるそうに言葉を少女に返す。
少女もそれに反応して
「だってだって!暑いものはしょうがないじゃないですか!そもそもなんでこんなところわたしが歩かなくちゃいけないんですか!わけわかりませんよ!教えてくださいよ!」
「……お前がそもそも俺に勝手についてこなければこんなところ歩かなくて良かったんじゃねぇかなぁ……そもそもなんでまだ当たり前のようについてきてんだお前……無駄に根気あるなぁ……」
広い荒野に元気な少女と、少女にたいして気だるそうに言葉を返す青年との会話が響く。
「それは、わたしの村にくる旅人のなかで歴代ナンバーワンに優しくしてくれましたし、それに……」
「それに?」
「わたしの重い荷物ほとんど持ってくれますからね!ついていかないわけがないでしょー!!」
「無理矢理人に押し付けてなにいってやがるぶっ飛ばすぞお前。」
「またまたー!そんなぶっ飛ばす気なんてさらさらないくせにー!!もーやっさしっいなー!」
「……………………」
「あっ!やめてっ!そんな目でわたしを見ないで!わたしそんな子じゃないのー!」
そうしたなんともない、悪く言えば頭の悪い(少女の一方的な)会話(?)がずっと続いたあと
「うぅ……流石に喉乾きましたぁ……」
少女の様子が変化した。しかし、正直なところずっとこの荒野でずっと喋っていたのでそうなるのも想像がつくだろう。
「……確かポーチの中に水筒みたいな、水入れ、持ってなかったか?」
「そんなものもうとっくに飲み終わりましたよぅ!!」
「お前……一体いつの間に……」
青年が呆れた顔で歩き続ける。
そして青年が歩くのを遮るように少女が突然青年の前にでる。
「そもそも!わたしエイユウさんみたいに変人じゃないですから!普通こんなに歩いたら水ぐらい飲みますし、休憩もなしときたらそりゃ空っぽになりますよ!!」
「じゃあ今休憩しよう」
「そういうことじゃなーーーーい!!そして休憩おそーーーーい!!!」
どうやら青年のほうもちょっと普通よりずれているようだ。
「まぁ、エイユウさんが普通よりちょっぴりずれているのは仕方ないとして。」
「そんなずれてるか?」
「ずーれーてーまーすーー!」
少女が光に照らされながら青年に抗議らしきものを続ける。
いつの間にか周りは暗く、夜になっていた。
青年と少女を照らすのは小さいようで大きな灯りを灯す焚き火であった。
しかし、別に焚き火に慣れてはいないのか火が消えそうになったらどこからか出した木の枝を青年が無造作に投げているだけだった。
「エイユウさんはもう少し常識を知ったほうが良いですよ!特に普通の人の体力とか休憩とか!」
「別に勝手についてきてるお前のために休憩する理由がないんだが……あとお前に常識説かれたくない」
「もー!頑固ですねー!エイユウさんは!だから昔のこと引きずるんですよ!もっと元気にいきましょー!」
「…………」
少女のその言葉のあと、青年は急に黙り誰にも言うことなく一人言を呟きはじめた。
「……そうだよな……俺があのとき……いや、それだけじゃなくて……あれも……あれも…………あれも…………全部全部俺が…………」
「あ、あれ?」
青年の様子の変化にさすがの少女も困惑の顔を見せる。
「え、エイユウさーん?」
「…………」
「エイユウさーん?エイユウさーん!」
「……………………」
「エ、イ、ユ、ウ、さーーーーーん!!!」
「おわっ!?」
少女の腹から出したであろう大声に様子を変えていた青年も正気に戻る。
「もー、そういうところですよエイユウさん!」
「そんなところと言われてもな……」
そして青年は少女の相手に少し疲れたのか、わざとらしい素振りで
「そういえば、明日も今日ぐらい歩くからな。そろそろ寝て休んだほうが良いんじゃないか?」
と言う。それに対して少女は少しから元気のような声で青年に言葉を返す。
「えーー!で、でも!明日はちゃんと休憩とってくださいよ!!わかりましたねエイユウさん!」
「わかったよ……わかったからもう寝ろって……」
そんな青年の返答に少し寂しい様子を見せながら
「わかりましたよ……もう寝ますよ……寝袋くださいエイユウさん。」
そう言った少女はまたどこからともなく出てきた寝袋を青年から受けとり、焚き火から少し離れた場所で寝袋に入る。
「そういえばエイユウさーん」
「……なんだ?」
「いつも置いてる雨避けのあれ今日置かないんですかー」
「あぁ、あれか。ま、ここは滅多に雨が降ることはないと聞いたし大丈夫だろう。もし降ったら降ったで体も洗えて悪くはないな。」
その青年の言葉に少女はフフッと軽い笑みを見せて
「……やっぱりエイユウさんちょっとずれてます。自覚、早くしたほうが良いですよ。」
今まで見せてきた元気な姿とは反対に落ち着いた様子で青年に話しかける。寝袋に入ったままではあるが。
「……そうか……そう、かもな…………焚き火、もう消すぞ、良いか?」
「良いですよ。でも、あんまり遠くで寝ないでくださいねエイユウさん……寂しくなってわたし、泣いちゃいますから。」
少女のその言葉のあとに焚き火の火は消され、あたり一面を闇に包んだ。
少女がなにも言わなくなったあと、青年は先ほど少女が頼んだとおりに遠すぎない、しかし近すぎもしない場所で少女とは違った寝袋で夜を過ごす。
………………少しの間、あたりには沈黙が続いた。
「……エイユウさん、起きてます?」
少女がその言葉を荒野の真ん中で青年に対して話しかけるが、返事はない。距離的には聞こえないわけではないはずだが、青年からの返事はない。
「……まぁ、良いです。これから言うことは、わたしの一人言ですから。別に聞いてても聞いてなくても良いです。」
返事はない。
「ねぇ、エイユウさん。エイユウさんの過去には、たくさんのことがあったんでしょうね。楽しいことも、嬉しいことも、けどそれだけじゃなくて悲しくて、悔しくて、辛いこともたくさん。」
…………
「でも、エイユウさん……ひとつ、ひとつだけエイユウさんに今聞いてみたいことがあるんです。」
…………少しの間が空く。
「わたしと一緒にいるこの時間は……楽しいですか?エイユウさんにとってわたしは、楽しく一緒に過ごせている人ですか……?」
自分から一人言だと言っていたはずなのに、いつの間にか青年に対する問いになっていた少女の顔には、少しの不安が募っていた。けど、迷いのない言葉を続ける。
「わたしは、楽しいですよ?エイユウさんと一緒にいるこの時間が、今まで生きてきたなかでなによりも楽しいです。」
はっきりとした言葉で、なにひとつ迷いのない言葉で少女は言う。
……しかし、返事はない。
「…………おやすみなさい、英雄さん……明日も……楽しい1日にしましょうね……」
そうして、少女の口から静かな寝息が聞こえる。
…………それから少女がもう完全に寝たであろう時間に、青年の……英雄と呼ばれた男の言葉にもならない短い言葉が空気を少しだけ振動させる。
「……俺は……」
それからその夜には、もう言葉が交わされることはなかった。
そうしてこのあと二人が起きたあと、青年と少女はまた短く、そして長い旅を続けるのだが、それはまた別の機会に……
いつもならここである程度話をまとめるんですが、この時系列で話なんかまとめたらネタバレの嵐なのでなんというか、楽しく読んでもらえるのが一番かなぁと今回は特に思っちゃいますね。
深く考えずに、今回の登場人物の二人の会話を楽しんでいただけたらと思います。
明日はいつもの本編を投稿する予定なんですがたまにはこういった頭を空っぽにできて、なおかつ世界観は変わってないのも書きたいですね。
あと番外編とはちょっと違うと思うんですけど、姫様とか女騎士の視点で今までの話の裏側とかも書きたいですよね。息抜きついでに。
まぁ無理をしないで、出来る範囲でちゃんと投稿していきたいですね。
さっきの姫様とか女騎士の話とか今回みたいな番外編とか、そんなところを投稿するときにはちゃんと前回みたいに1話前の後書きで書いておきます。
では今回の後書きはこれで終わります。
また明日会い、会い、会い、会えるように頑張ります……