本当のはじまり
出来れば無理せず1日1投稿はしていきたいと考えてます。一応区切りとかなんというか、そういう部分は何個か考えてあるので、まずは最初の区切りまでは出来れば続けたいものですね。
目が覚めた。
というよりも脳が意識をなんとか保っているという状態だ。
このままなにもせずにいれば俺はまた深く気持ちのいい長い長い眠りにつくことだろう。
しかし、そういうわけにはいかない。脳が意識をもったということは、俺自身が無意識にもう目を覚ます時間だと自覚しているのだろう。
この場合、意識を簡単に覚醒させる方法としては無理矢理にでも体を立ち上がらせてトイレにでもいけば一気に脳が覚醒して、その気がなければ二度寝をすることはないだろう。
もう一つ脳を覚醒させる方法としては声を出して少しでも声帯を震えさせて脳を働かせるか、である。
こちらの方法では無理をすることはなく意識を少しずつ覚醒させることができるが、いかんせんほんの少しずつなので、途中で寝てしまう可能性がある。
とはいえさっきの無理矢理トイレ大作戦では、あくまで無理矢理に体を動かすので動かすまでの覚悟がいる。場合によってはいつまでも覚悟が決まらずに寝る。
俺はこのどっちかからしか脳を覚醒させるしかない……!(他にも方法はあると思うが、このときは強い眠気のせいでこの2つ以外が思い付かなかった)。
無理矢理に体を起こすか、少しでも声帯を動かしてゆっくりと起きあがるか。
……声を出してすこしずつ起きよう。無理に体を動かす必要はないし……ね?
そうして俺は自分自身の聞きあきている声を出『おっはよーう!お兄ちゃん!朝だよー?起きて起きてーー!!』ごめんアラーム完全に忘れてた。
大きく部屋に鳴り響くスマホから鳴るのアラームを止めて、少し時間がたってから俺はふかふかなベッドから上半身を起こした。
まずスマホの画面を見ると時間が『7時10分』と表示されている。
次にまわりを見通すと、部屋にはマンガや小説が詰め込まれた本棚があったり、集中して勉強ができそうな勉強机があったり、最近のヒーロー系のおもちゃの山が積み上げられていた。
そんな毎日見る光景を飽きもせずにすこしの間眺めたあと、俺はベッドの足の方角にある木製のドアに向かうべく立ち上がった。
先程のスマホをポケットに入れ、ドアを開けてすぐ近くにある階段から下に降りて一階へと向かう。別に急な傾斜の階段という訳ではないが、なにしろ階段は角が直角なので手すりを使いながらゆっくりと眠い体を動かしていく。
一階に降りてすぐ目の前にリビングが広がる空間があるのだが、そこでは一人の女性……自分の母親……普通にシワのある年のとった顔……が朝から仕事に向かうべくあたふたと準備をしているところだった。
「……おはよう」
寝起きで眠いなか母親に向かっての朝の挨拶。
自分からしてもしなくてもどうせ相手から挨拶がくるのだが、こういうのは先にやった方が謎の優越感に浸れるからやれるときは先にやっておくことにしている。
「えっ、あっ!おはようおはよう!ごめんね~今ちょっと寝坊して遅刻しそうで急いでるの!」
寝坊してないほうが珍しいと思う。
そんなツッコミを急いでいる相手に挟むのはなんか違う気がするので胸のなかにしまっておく。
そんなしょーもないことを考えているとどうやら母親は準備ができたらしく、今すぐにでも家を飛び出しそうな勢いだ。
「じゃあお母さん行ってくるから!そういえば母さんの届け物昼前ぐらいにくると思うから、よろしくね刀弥!!」
そう言い残した母親は急いで外に出ていった。
たしかバスとか電車で行っていたはずだから、その時間がギリギリなんだろうなぁーと、呑気なことを考えてボーッとしていた。
ここで唐突な自己紹介。神無月 刀弥、20歳。今年で21歳。今日も元気にニートしてまっす!!
大学受験失敗からなにかやり直す気が起きず、また就職もする気がないまま約3年も経ってしまっていたのが今の自分の現状だ。
とはいえ家族は……というか母さんはそれを責めることはなく、逆にその状況を利用し始めた。
家の家事はとりあえずほとんどは自分が担当。そしてさっきのような母さんが頼んだ荷物などもいつでも家にいるという状況を利用して受け取り係になっている。
ちなみに父さんは母さんと離婚している。別に自分の受験失敗が原因とかではなく、普通に自分勝手な父さんに自分も母さんも付き合いきれなくなり自分が高校在学中に母さんは父さんと離婚し、自分は母さんの方についていった。
別に父さんとの連絡の手段がない訳じゃない。連絡先は母さんも自分も知っているが、特に連絡をすることがないし、その必要も理由もない。
ここで話をもとに戻そう。
とりあえず今わかっているのは自分が腹を減らしていることとまだちょっと眠いことと、午前中に母さんの荷物が届くということだ。
ならまず先に朝飯を済まそう。そうしたらまだ微妙に残っている眠気も完全に消えるはずだ。たしかまだ昨日のおかずの唐揚げの残りが冷蔵庫にあったような……
〈ピンポーーン〉
ここでチャイムがなる。荷物が届くにしてもまだちょっとはやい。いつもなら9時か10時ぐらいにくるから。
疑問をすこし頭に残しつつも荷物を受けとる構えでリビングの入り口から出て左側にある玄関に向かい、そのドアを開けた。
「はーい」
「…………!」
開けた、ドアを開けた。そしてすぐに面倒くさいなと思った。思ってしまった。思うしかなかった。
そこにキョトンとした様子で突っ立っている一人の黒髪で髪が長く整えられた女性が立っていた。
「へー、大学もいかないだけじゃなく就職もバイトもしてないって聞いたけど、結構早起きなんだね。正直昼夜が逆転してるものだとおもってたよ、わたし。」
そこには幼馴染……というかわりと家が近くて小中とずっと一緒のクラスだった佐倉 小鳥の姿がそこにあった。
「それともせめて時間だけはしっかりしようとしてるの?いつでも社会復帰できるように?」
正直今まであってきた同じクラスの女子たちのなかで一番会いたくなかった。なぜなら自分にはその理由があるから。
「……ねぇ、聞いてる?せっかくちょっと時間ができたからこうして昔わたしに告白して玉砕した幼馴染に会いに来てるんだけど?」
そう、そうなのだ。
昔自分は彼女に告白した。してしまった。
中学の卒業式の日、幼馴染だから、昔から知りあいだったから行けるだろうという軽い気持ちで彼女にアタックしたら玉砕した。ダメだった。無謀だった。
それからというもの高校が別ということもあって一切会ってはいなかった。というか会おうとしなかった。
そんな彼女が、今、自分の目の前で自分の様子を見に来てくれているのだ。
「ねぇーえー、きーいーてーるー?」
昔告白して、ダメだった女の子が今自分の目の前にいる。そんな状況は……
「……」
「んー?」
「……めん」
「…………どうしたの?」
「……ごめんなさい!!!」
こういう時は逃げるに限るというかそもそもこんな状況でニートしてたやつに何を期待してるんだぁ!!
すばやい動きでドアを閉める!鍵をかける!そして2階に走ってベッドにくるまる!!
我ながら完璧な動きだった。と布団のなかで震えながら考える。
そして落ち着いて今さっきのことを考える。
なぜ今さら彼女は家に来たのだろうか。そもそもまともに会話をしたのはだいたい6年ぶりぐらいで、その間自分と彼女になにか変化はなかったはずだ。
……いや、本当にそうか?もしかして彼女の方はなにか聞いてもらいたいことがあって家に来たのではないのか?母さんから聞いて無事大学に行けていることは知っていたが、もしかしてなにか悩みでもあったんじゃないか?
そんなことばかりが脳裏によぎり、とんでもないことをしてしまったのではないのかと考えるなかで自分はさっきドアを閉める前に一瞬見えてしまった小鳥の寂しそうな顔を思い浮かべながら布団のなかで深くはない、浅い眠りについた…………
不思議な夢を見た。一方的で、夢といえるのかどうかのものを。妙な声からの問いかけらしきものを。
『あなたは』
……ん?ん?ん?
『…………してまで』
なんだって?もしかして俺ちょっと耳が遠くなった?
『…………守る………意志が…………』
なにを、どうするって?はっきり聞こえな……
『……覚悟が…………ありますか……?』
……いきなり……覚悟……か…………
その言葉にだけ無性に心が反応する。
さっきの彼女に……小鳥に対して俺が向き合う覚悟をしていれば……そもそも俺が……ちゃんと浪人してでも大学にいく覚悟ができていれば……
後悔が募る。いくらでも、いつまでも。
そうしてよくわからない声が、先程の妙に落ち着いた声から、少し、ほんの少しだけ元気そうにこう言った。
『そうですか……では……箱をあけてください……あなたに……その覚悟があるのなら…………』
そうして夢は醒めていった。そして最後にこう思った。
…………なんの箱?え待って何の箱かどんな箱かせめてそれだけでも教え……
目が覚めた。
今度は早朝ほどの眠気はない。
そして先程までの不思議な夢のようなものを頭のなかで整理する。
「なんだったんだ……今の……てか箱ってなに……?そこ教えてくれないの……?一番大事じゃないの……?」
違和感に頭を悩ませながらもそういえばと、ポケットのなかにいれっぱなしにしていたスマホで時間を見た。
10時25分
………………なにか忘れてる。
〈ピンポーーン〉
「……荷物忘れてたーーーー!!!」
急いで部屋から一階の玄関へと走る。
階段も危ないとかどうでもいいぐらいの速さで降りていく。
「すいません今行きます!」
この時には荷物の受け取りの焦りやさっきの夢の不可思議なことなどで、もう小鳥が玄関にいないことなど気にもとめなくなっていた。
「間に合って良かった……良かった……」
リビングのテーブルに先程受け取った両手サイズの箱を置いてから、そんなことを呟いた。
さすがにこんなに簡単なことも出来ないのはだめだよなぁ、という気持ちとともに、一つ、小さな、小さな疑問が生まれてしまった。
いつもなら浮かばないような小さな疑問。だけど今さっき、あんな夢を見たこのときの自分だからこそ生まれた疑問。
この箱の中身はなんなのだろう、と。
外から見ただけではなにがはいってるのか書いておらず、想像もつかない。
けど、けど、一度生まれた人間の興味というものはそう簡単に消えるものではない。
いつもおもちゃの箱などを開けるカッターを収納している部屋の隅にある工具箱からカッターを取り出して、
「母さん……ごめん!」
そういって段ボールのテープを切った。別に声をだす必要はなかったのだが。
しかしそれと同時に引き返すなら今だ、と思った。
今なら母さんがこの箱を開ける手間を自分がやっておいたよという言い訳がなんとか通用するだろう。
しかし、この箱には言葉に出せない興味と、きっもこれを開けたらもう戻れないという不思議な感覚があった。
唾を飲む。ここできっと自分のすべてが決まる。
特に理由はないがなぜかそんな気がしたのだ。このままなら今のままでいられるぞ、とも。
しかし……今のままで良いのか?生活費は親に頼りっぱなしで、自分ではなにかする意志がなくて、そしてなによりも小鳥に対して特になにも言えなかった自分自身のままで。
だめだよな。そうだよな。ここでしかもう変われないって言うんなら、ここで俺は俺を変えてみせると誓おう。
他のだれでもない、自分自身に。
そうして俺は、そのパンドラの箱ともとれるその箱を開けた。
……ここでの選択を今でも間違っているとは思わない。しかし、後悔もないかといえば嘘になる。けど、このときはそれしかないからそれに頼った。
……なによりも情けない自分を変えるために……!
目の前が眩しく光り、なにもかもが見れなくなった。
なにが起こっているのだろうという恐怖と、非現実的な状況に内心実は期待をしていたのだ。
これなら自分を変えられる。あの日々の自分とはおさらばだと……!
ようやく視界が開けてきた。
そこには、そこには…………………………
まるで有名な秀吉の黄金の茶室のようなきれいな金色に彩られた大広間。
そして剣を上に掲げて直立不動を貫く白銀鎧の騎士たち。
今までの常識を隅々まですべて壊されたかのように立ち尽くす自分に、ただ一人だけ声をかける少女がいた。
その少女はこんなに豪華な大広間に負けることのない輝きを放ち、屈託のない笑顔で、そして声が全体に響くような声でこう言った。
「召喚に応じてくれて、ありがとうございます。勇者様。どうか、どうか、我らの国を、悪の魔王の手からお救い下さい……」
そういった少女の笑顔にの目にはなぜだか涙が溢れていた。
…………そしてなぜか少女の左斜めにいる恐らく騎士であるとうかがえる(確証はない。ただ剣のようなものを腰から携えていたからそう判断した)女性の自分を見る目が急に鋭くなったと感じた。
…………なんでだろう。
そう考えながら自分はまだ見たこともない異世界での生活に心を踊らせるのであった。
……これからの日々からつむがれる結末を知らずに。
というわけで今回が本当の1話のような感じです。正直無理矢理トイレ大作戦は酷いネーミングだと思いますけど、たまに自分もやっちゃうからなにも言えませんね。今回で結構なヒロイン風な人がちらっと何人か出てきていますが、誰が主人公の最期に思った人なんでしょうね。もしかしたらまだ出てきていない可能性もありますが。もしかしたら主人公が男好きで最期に思ったのは男の人の可能性もありますね。
……まぁ、いろいろな可能性がまだまだ出てくる段階ですね、今は。
下手にぽろっと書いてしまったら困るので今回はこれで後書き終わります。
…………こんなにここ書く暇あったら本編書いた方がいいんじゃないのだろうか。
あと前話の後書きや前書きには書いていなかったですけど、誤字脱字などがありましたら教えてもらえたらとてもとてもありがたいです。