この世界、俺以外全員転生者だったんですが
俺はラウル。ごく普通の村人だ。
今は親父の手伝いの農作業が終わり、一息付いている所だ。
一時は都会に出て、商人にでもなろうかと思った事もあったが、やっぱり俺はこの村が好きで、離れられなかった。
俺の住む村、ルーノ村は田舎で何も無いが、自然に溢れ、日々の暮らしは穏やかで、此処に住む人々の心も豊かだ。
ゆっくりと時間が流れるこの村が、俺は大好きだ。
だから、俺はもう暫くこの村に居たいと思っている。
いや、このまま親父の仕事を継いで農家になって、ずっとこの村で生きて行くのも、悪くは無いんじゃないかと思えて来た。
そういえば、親父って昔から農家だったのか?
親父にも、今の俺の様に人生を考える時期があったのかもしれない。
俺はふとそんなことが気になり、親父に聞いてみた。
すると、返ってきた言葉は余りに意外なものだった。
「俺はな、実は昔冒険者だったんだ。
それで、二回程魔王を倒してきたんだが……」
親父は平然と答えた。
ちょ、ちょっとまて!? 冒険者だったと言うのは分かる。
人間誰しも若い頃は夢を追って、無茶な事をやるもんだ。
親父がそういうロマン的なものに憧れて、冒険者として生活をしていたと言うのは納得できる。
だが、今、魔王って言ったか? しかも俺の聞き間違いじゃなければ、二回! 二回倒したって言ったよな!?
「親父! バカにしないでくれ! 俺は真剣に聞いてるんだ!」
真剣に相談しているって言うのにふざけた事を言われ、俺は正直頭に来ていた。
だが、俺の言葉に対し、親父はこう言い放った。
「いや、すまん、三回だったかな。俺はさ、実は昔、別の世界に居てな、その世界で死んで、この世界に転生してきたんだよ」
……俺は、親父を殴ろうかと思ったが、止めた。
きっとまた酒でも飲んでいるのだろう。
まったく、母さんに言いつけてやる。
――――
「ラウル、父さんの言っている事は本当よ」
ば、馬鹿な……母さんまでそんな事を言うのか!?
しかも、嘘を付いているような表情では無い。
誰もが知っている、当たり前のことを言っているという顔だ。
「私が父さんと出会ったのは、冒険者ギルドで、私は昔受付嬢をしていたんだけどね……
その前は別の世界に居て……」
俺は、それ以上は聞かず、すぐに家を飛び出した。
ちくしょう……俺が何をしたって言うんだ。
それが仮に本当だったとして、なんで今まで黙っていたんだ……
「お、ラウル。どうしたんだ?」
アルフ……そうだ、彼に相談しよう。
彼とは長い付き合いだからな。彼なら真剣に俺の話しを聞いてくれるだろう。
「ほー。すごいなお前の親父さん。俺なんか一回倒すのがやっとだったのに」
「は……?」
俺は我が耳を疑った。なに、何を倒すのがなんだって?
「だから魔王だよ。俺はまぁそんなに強くないからな。
俺の能力、灼熱の右手は火属性だし、ほら、ボスは火属性に耐性持ってる奴多いだろ? 回復アイテム大量に持って行って、なんとかやっと、って感じだな」
一体何を言っているんだこいつは…………
バーニングなに? 能力ってなんだよ……
「そういえば、お前の能力って何だ?」
へ?
「だからさ、神様に貰っただろ? 転生する時」
…………
俺は、無言でその場から走り去った。
何も考えず、ただ走った。
俺が向かった先は教会だ。
村に一つしかない小さな教会だが、ここのシスターはとても優しい人で、子供の頃はよく色々な話をしてくれたし、俺から話をする事もあった。その度に、シスターは俺の言う事を、一つ一つ真剣に聞いてくれたんだ。彼女なら、俺の苦しみをきっと理解してくれるだろう。
「混迷の秤!
あ、ラウル。すみません昔の事を思い出してしまって……」
……俺の居場所はこの村には無かった。
こんな村クソだ。こんなクソ村どうでもいい……
俺は都会に出て商人になるんだ。
今すぐ出て行ってやる。
俺は馬に乗り、都市へ向かった。
すると、馬が突然人間の言葉を喋りだした。
「はぁ……なんで馬なんだよ。俺だってチート能力欲しかったのに……
最弱能力だと思ったら最強でした的な。
美少女ハーレムも作りたかったのに……あんたどう思う?」
俺は馬を乗り捨て、全力疾走で都市へと向かった。
ずっと田舎で生きてきた俺にとって、この都市は途轍もなく巨大で、何もかもが真新しく見えた。
やっぱり田舎には何も無いから、だから皆妄想に取り憑かれて、おかしくなってしまったんだろう。
可愛そうだが、最早俺の知ったことでは無い。
やっぱり田舎なんてクソ喰らえだ。ここには狂人も居ないだろうし。
俺は此処で新しく人生を始めるとしよう。
商人になろうかと思ったが、それには資金が必要だよな。
そうだな、なら一度冒険者にでもなってみようかな?
元冒険者だった偉大な商人は結構多いみたいだしな。
よし、まずは冒険者ギルドへ向かおう。
――――
「登録ですか? ではまず能力をこちらに」
スキル? 特技とかか? うーん取り合えず農作業って書いておこう。
へへ、田舎物丸出しで、ちょっと恥ずかしいな。これじゃ駄目かな?
「あの……」
ああ、やっぱり駄目かな……?
「振り仮名を書いていただけますか?」
振り仮名……って……農作業っと。
これでいいかな?
「いえ、そうじゃなくって……あの、ルビを……」
「え、あの、ルビってなんですか……?」
「「「ざわざわざわざわ」」」
「おい、聞いたか?」
「おいおい、なんだよあいつ……」
「きっととんでもなく弱いスキル押し付けられたんだろ」
「恥ずかしくて書けねぇんだぜ! おい兄ちゃん! どんなスキルなんだ!」
「おい、止めとけって……くくくっ」
な、なんだ……周りの様子がおかしい……
もしかして馬鹿にされているのか……?
「……申し訳ありませんが、スキルを登録していただけない場合は、ギルドへの入会をお断りさせて頂いております。ご了承ください」
「失礼、次いいかな?」
「おい、何だあいつのスキル!」
「ステータスもすごいぞ!?」
「おい、あいつ近藤じゃないか?」
「まじかよ、あのクラスで一番ダメな近藤かよ!?」
「キャー、抱いて!」
俺は、冒険者ギルドを後にした……
周囲から笑い声や、俺を罵る声、俺の次に来た男を褒め称える声などが聞こえてきたが、最早どうでも良かった。
――――
俺は、何なんだ……
この世界はどうなっているんだ……
「私は神。お前の疑問に答えよう」
か、神様!? いや、神! てめぇのせいで、俺はこんな目にあってるんだ!
どういうことか説明しやがれ!!
「……単刀直入に言おう。
この世界のお前以外の全ての生物は、元々他の世界の人間だ」
な、な、なに……そんな……そんな馬鹿な……
「いや~、わしがついうっかり事故で人間を何人も殺しちゃっての。
そいつらに、辻褄あわせでそれなりの能力を与え、この世界に転生させてたら、何時の間にかこんな状態になってしまったのじゃよ」
「ふ、ふざけるな……この世界はてめぇのゴミ箱じゃないんだぞ!?」
「いや~、すまんのう。マジすまん。メチャすまん。
しかし、この世界にまだ転生者ではない人間がおるとはのう……
代わりといっては何だが、お前も別の世界に転生させてやろう。一度わしの元へ来るか?」
ほ、本当か!? た、頼む!
――――
「フォッフォッフォ、こんな感じでよかろう?
そして、これがお前の最強スキル、地獄の農作業じゃ」
こ、これはすごい……力がみなぎって来る。
ククククク…………
「これでてめぇを始末できると言うわけだ! 神よ!」
「な、なんじゃと!?」
俺に力を与えたのは失敗だったな……
わざわざこんな所まで来てやったのは、てめぇをぶちのめす為よ!
さぁ、覚悟しろ、神!
「スキル発動! 地獄の農作業!」
――――――――――
俺は神を耕した。
だが――これは始まりに過ぎなかった。
奴は神々の中でも最弱の存在に過ぎない。奴を耕した事により、更なる力を持った神々に、俺は目を付けられる事になってしまったのだ。
上等だ……向かってくるのならば、全員残らず耕すまでだ――
そして、俺の復讐はまだ終わってはいない。
あのふざけた世界をぶち耕すまで……