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創設者たち  作者: しおるば
白兎の章
3/4

反逆

また少し時間が経って。王都も川も随分近くなってきた。

日も随分傾いてしまったが、今日中に王都にはつけそうだ。それに出航は暗くなってからの方が青年にとって都合がいい。

さてもうひと頑張りだと一行のスピードが上がった少し後。また商人仲間の足が止まった

「さあ。どうした。船はすぐそこだぞ」

一人また一人と足の止まった商人の周りに集まっては何かを見下ろした

「なんだ。またか」

主人がその輪に入っては呆れた声で「そんなの放っておけ。」と一括すると

仲間の商人たちはわらわらと散っていく。またあの少年だろうか。かわいそうに本当に塩を含んだ水で体を洗い、こんな風も日もよく当たる場所で倒れているのだろうか

青年が首を伸ばし散っていく商人たちで少しずつ見えてきた少年の声の主を見て青年は目を丸くした。

「ううう、痛い。痛い。体が焼けるように熱い。」

見えてきたのは小さな手足でもなく、大きな耳と立派な後足。前足は添えてある程度のかわいらしいもので。どれも人間の子供のものではない。

道理で話がおかしいと思った。青年は倒れた少年の声に近づくとその大きな耳に商人たちに気づかれないような小さな声で囁いた。

「おい。うさぎ。そのまま動かないで聞け。」

「おや。あなたは?」

「いいから。今からいう事をよく聞け。いいか。まず海水ではなくて真水で体を洗え。薬はやれないがその後はこの稲を地面に敷いてその上で寝ていろ。そうすれば治る。」

青年は商人たちの目を盗んで首に下げた竹筒をうさぎに渡し、背負った荷物の中から稲の束をいくつか取り出し、うさぎの下に敷いてやった。

そしてうさぎの感謝の言葉を聞く前に商人が後ろを振り向き自分を呼ばない内に駆け出した。

「おや。行ってしまわれた。」

残されたうさぎはしばらく赤い髪を結った青年の背中を見送りながら言われた通りに真水で体を洗い、稲を敷いてその上に寝そべった。すると体の痛みは引き、真っ白な毛が生え、立派な白兎へと姿を変えた。

元気になった白兎は預かった竹筒の水筒を返そうと青年の後を追おうとして足裏にくしゃっとする感触を覚えて「おや。」と首をかしげた

「こんなところに手紙とな?」

白兎は手紙を拾い上げ古風な文字や異国の文字が混じった覚えた単語をつなぎ合わせたようなその文を読んで今度こそ青年の後を追った


「商人、それと奴隷が1人。うむ。この奴隷の主人は誰だ?奴隷の契約書を見せてもらいたい。それと王都への渡航許可書と商人の証明書の提出も」

船に着き、検問が始まった。あのうさぎは自分のいう事を素直に聞いただろうか。

もしかしたら商人たちの裏切りで、もう人の言葉は信じないかもしれない。

あのうさぎの傷が治ろうがそうでなかろうが関係ないが、自分に恩を感じてもらわなければあのメモを見ても協力してはもらえまい。

主人が腰のバンドに手をつけ、何かを探している。

抜け目のない主人は大事な書類だけは青年に持たせない。特に奴隷契約書とカギは絶対だ。

奴隷についている足かせと彫られている番号は奴隷である証拠で、奴隷契約書と足かせのカギをもつものは主人であるという規定がある。逆に言えば、奴隷という制度はそれだけの規定しかなく穴が多い。つまり奴隷には逃げ道がある、殺すもいい手だ。ただし殺人罪に問われない自信がある者に限る。奴隷であった記録は残るため、これはほぼ不可能だ。殺さず、奪う。これが一番確実だ。ゆえに奴隷にこの2つを持たせるバカはいないが主人ほど巧妙に隠す人もいなかった。

どれだけ探しても見つからなかったし、こんな機会でもなければ青年は一生見つけられないままだっただろう。

これが最初で最後の好機だ。これを逃したら一生奴隷。これさえ奪えば、自由だ。

「ああ、あった。これだ」

主人の手にいくつか紙が握られる。ついそれを見つめる目に熱がこもる。

主人だってこんな好機、青年が逃すはずがないと踏んでいるはずだ。下手な動きをしたら腰の拳銃で撃たれて死んでしまう。奴隷に殺人罪は適応しない。して器物損害罪、ペットと同じだ。

落ち着け。まだチャンスはある。書類の提出が終わったら次は持ち物のチェックだ。

この時、奴らは腰の拳銃も出さなければならない。そこがチャンスだ。

それまでにあのうさぎに来てもらわなければ

「…うむ。書類に不審な点はない。持ち物の検査にも協力してもらいたい。君たちは商人だったな、盗賊から身を守るために拳銃なども持っているだろう。危険物は預からせてもらうが、よろしいか?」

「ああ、いいとも。おい、みんな武器を出せ。あとお前、荷物を検問の人に預けろ。早くしろ。」

主人が冷たい声で青年に命じる。検問に近づいて持っていた荷物を預け、下がるよう命じられるまでの時間は短い。その間に青年は眼球を動かし頭を働かせ、置いてある書類の場所、その中の奴隷誓約書の位置、商人と武器との距離、カギの位置。全てを記憶する。もともと記憶力はいい。

全員の武器は検問によって手元にない。検問の奴らは簡単には人の奴隷に手は出せないだろう。

射殺には主人の許可が必要だ。主人と仲間の商人の動きをほんの少し止め、射殺の許可が下りないように口を塞ぐ、ここまでは何とかなる。荷物検査やボディチェックの対象に奴隷、ペットは含まれない。

服の裏に仕込んだ道具がとられることはない。これは調べ済みだ。

ただ、流石に武器を使うと検問も黙っていないだろう。殺されはしないだろうがそれなりの障害にはなる。

荷物に近づくのは困難だろう。そこであのうさぎなのだが、はやり来ないか。

「よし、荷物に特に気になるものはなさそうだ。武器は王都到着まで預からせてもらうが、他の書類や荷物はもういいだろう」

検問が終わる。あのうさぎ、やはりいう事を信じなかったか。

それともメモを見なかったのか、見たうえで来ないのか。理由はどうでもいい。

どうあれ今ここにうさぎは見当たらない。全て、自分でやらなけらば。

「あの。すみません。ご主人」

「…なんだ。何をしようと、お前の計画は無駄に終わる。…お前の一族と同じように」

かっと青年の心が揺れた。

主人の言葉に心が揺れるのは多分きっと彼が本当に青年の事を蔑み、軽蔑してるからで、同時にそれはこの男が誰よりも大国に忠実だという表れでもある。

だからこそ王都に呼ばれ、王都の地を踏む権利を得られた。

「いえ。ただ、お礼を言わなければと」

「…?なんのことだ。礼など言われる筋合いはない」

礼を言われることさえ嫌悪を示す。主人は心底青年が嫌いだ。

それは青年が国を裏切った血族の生まれで、自分の父と彼が元は友人だった。という話に関係があるかどうかは知らない。

これまでどんなひどい扱いだったとしても、青年はこれだけは言わなければいけない。すべては生きられたからこそだ。

「いままで、ありがとうございました」

うさぎの姿は見えない。こんな捨て台詞まで吐いて、もう主人は宣戦布告としかとらないだろう

仲間の商人もしかりだ。彼らが自分たちに今武器がなく、青年には何か準備があると察するまで時間がない。この人数でどこまで足掻けるか分からない。

それでも、やらねければ…!!

「___っ!!撃て!!射撃を許可する!」


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