許可
今日こそ、今日こそは絶対に先生を納得させる。
ベッドから降り、昨夜に崩れ落ちたばかりの決意を再度固めて決心する。
私がこの世界で生まれてどのくらい経ったのだろうか。記憶力には自信が無いので詳しくは覚えていないが、多分、数十年くらいだろうか。そのくらい長い時間、この図書館に住んでいる。住人は私と先生の二人だけ。齢七歳程の少女と成人男性の二人きりの生活だ。そのまま聞けば、ロリコンの男性に私が監禁されているように聞こえなくもないが、事実なのだから仕方ない。だが、あらかじめ言っておこう。私と先生は至って健全な仲だ。
はあ……と鬱々とした気持ちでため息を吐き出した。
私は好き好んでこのような場所にいる訳ではないが、私がこの世界にいる理由はそれとなく聞かされてきた。
とても大きな力を持っている
知識が足りないから、ここで勉強しなくてはならない
外の人と私達は違う
自覚が足りない
その他にも多々。全くもって意味がわからないが、それを否定できる材料を私は持っていない。正直に言うと、私は先生以外の人を見たことがない。記憶を占めるのは、先生と図書館の中だけだ。当然、本に書かれていることしか知らないし、本に書かれた外の人と私が随分違うことも知っている。だから反論はできない。
だが、そんなことで諦める私ではない。私は長年この図書館に住んでいるせいで、酷く退屈していて、うんざりしている。刺激が無さすぎるこの世界がとてつもなく苦痛なのだ。渇望して当然だろう。
詰まる所、外に出たい。
「…と、言うわけで、私、外に出たいんです。出してください!」
食卓の席で、長々と昨夜にも話した内容を反復する。とても憤慨して意見したというのに、私と対になるよう座るこの男は、きょとんとした顔で私を見つめる。まるで、意味が理解できないとでも言うように。
「またその話?もしかして、朝食で話す内容がそれしかない?」
「違います!」
むすっと頬を膨らませて、皿に盛られたサラダにサクッとフォークを刺す。口に運ぶと、爽やかなドレッシングの味が効いて美味しい。
「私は先生に言われ、この図書館で勉強してきました。数百……いえ、数千冊位は本を読んだと思います。結構な種類の異国語も読めるし、話せるようになりました。我慢強くもなったし、成長もしてます」
先生に言われ、できるようになったことを次々と述べてゆく。
「これ以上、何を望むんですか!」
人を閉じ込めて楽しいですか、と文句を言うと、いきなり先生が押し黙った。そして、じっ、と見つめ、どこか懐かしそうに笑った。
「外に出たい?」
「もちろんです」
何度聞かれても答えは決まっている。
「そっか」
先生は呟くようにそう言って、椅子から立ち上がった。皿に残ったパンを口に放り込み、テーブルに立て掛けてあった杖を手に取った。
「後で図書館の一番上の階までおいで。空色の扉の前で待っているから」
やっと外に出られます。これまでずっと閉じ込めてきた理由はなんでしょう?
これから毎月投稿を目標に書いていく予定です。