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1話 A New World Starts

 A New World Starts


 二九九九年七月のある水曜日、俺は大都市の前に立っている。そして俺の後ろにはだれかいる。


 ここにくるのは初めてだ。科学とは無縁の田舎者の俺にしてはまったく新しい世界なのだが、迷子になっていて堪能できていない。姉の地図を頼りにギルドを探していたはずなのだが……

 地図には泉とビルが描いてあり、一つ目のビルを右に曲がるとギルドに着くはずなのだが、都市の裏に出てしまった。裏だが、大都市の前に立っている。

 しかも、灼熱の太陽が俺を焼こうとしている。一気に汗が出てくる。家から持ってきた必要品を詰め込んだ布の袋が重く、人がほとんどこない裏だからなのか泥道で歩きにくい。

 もうこの地図は頼れないし、完全に迷子だ。

 でも、運がいい。俺の後ろにだれかいる。地図をポケットにしまい、背を向けたまま道を尋ねた。

「あの、すみません。この都市のギルドってどこにあるかご存知ですか」

 でも、返事がない。さすがに後ろ向けで質問するのは失礼だったのかもしれない。

 振り返ってもう一度質問しようとすると、手があった。いや、道の上に手だけが置いてあったわけでなく、だれかが俺を殴ろうとしていた。

 ぎりぎりの所でかわし、後ろに一歩下がった。父さんの訓練のおかげでこれくらいなら余裕で避けられる。必需品を入れた袋は落としてしまったけど。

 殴ってきた奴は化け物のような声で答えた。

「道なら知ってるぞ、地獄に行くための道をな!」

 声だけでなく容姿も化け物のようだ。本当に地獄へ連れていかれそうだ。ふつうの人間より大きい胴体、角が生えていてもおかしくないような頭、ゾンビのように腐っている皮膚、所々穴があいている腕や脚。肌の色も泥道のような不潔な色だ。

 しかも人間の言葉が話せる生物なんて見たことがないぞ。

 もしかして新種見つけちゃったのか。ならば、名前は発見者が決められるはず……

「お前の名前はけんたろうだ!!」

「俺はバリだ! 勝手に名前つけるんじゃねぇ!」

 けんたろうは名前が気に入らなかったのか、また右手を振りおろしてきた。

「そんな遅い攻撃が俺にあたるはずもない」

 実際その攻撃を後ろに跳んで避けた。攻撃は泥道に当たり、泥が宙を舞った。

 だが、次の瞬間さっきとは比べにならないスピードで次の攻撃が繰り出された。けんたろうは高速で俺に近づき、彼の拳がヒットした。両手で防御するのがやっとだ。早すぎだろ。しかも一撃が並はずれて重く、おもいっきり後ろに吹っ飛んでしまった。

 その後も高速の攻撃は続き、防御することで精一杯だった。こんな拳もろに食らったら、一発で気絶しそうだ。

 五分ぐらい俺は殴られ続けた。さすがに甘く見すぎた。というかもう限界がきている。視界はぼやけてきて、体もボロボロだ。もう立っているのもやっとのことだ。ほとんどすべての攻撃を防いだ俺の両手は痺れて、うごかすこともできない。体中が痛む。

 悔しい。攻撃をすることもできずに、こいつにやられ死ぬのか…… 

 化け物は嬉しそうにとどめの拳を振った。

 その瞬間、俺の体はなにかに乗っ取られたような不思議な気分になった。

 それより奇妙なのが、目の前に一人の女性が化け物以上の速さで(というか彼女が目の前に現れるまでなにも見えなかった)介入して、両手で握っている大剣で化け物を切った。化け物の右肩から左の腰まで大きな傷ができた。

「ぐああぁぁぁ!!!」

 化け物は傷を手で抑え、叫び始めた。これは痛いだろうな……

「覚えていろよこのくそ女が!」

 化け物は彼女との力の差を察したのか、そう言うとかなりの速さで逃げていった。

 正直恥ずかしい。調子にのりすぎて舐めすぎていた。俺もこの化け物との力の差が分かったときに逃げればよかった。

「逃げたか。だが、まずはけが人だな。そこの君大丈夫か」

 彼女は振り返りながら、言った。

 この女性は誰なんだ。黒のロングヘアで、スタイルがよく、美人だ。たぶん俺より年上だろう。彼女は大剣に負けない気迫を放っていた。

「かっこいい……」

「なんのことだ。それよりも大丈夫か」

「あ、はい。大丈夫です」

 と言っても少し休まないと歩けそうにもない。

「そうか。あの化け物世界各地で出現してるらしいから気を付けろよ。あと、こんな所でなにをしているんだ」

「ギルドを探してます。姉の地図を頼っていたら、迷いました」

 ポケットから地図をだし彼女に見せた。彼女は少し笑いながらいった。

「はは、迷ってたのか。これはうちのギルドだよ。なんか用でもあるのか」

 なんでこの地図を理解できるんだ。女ってのはわからん。

 って、え? 今うちのギルドだって言った?

「あなたはこのギルドの人なんですか!? 実はギルドに入りたくて、探してたんです!」

「そうだよ。あと、名前はミルだ。そして、よろしく」

「え、なんでよろしく……」

「ギルドに入りたいんだろ。ならばこれから一緒に戦うこともありえるだろ。だから、よろしく」

 まだ入ってもないのに仲間扱いしてくれた。ミル先輩天使ですか。

「私も丁度ギルドへ帰るところだ。もちろん一緒に来るよな」

「もちろん行きます、ミル先輩!」

 ミル先輩は少し頬を赤めていった。

「先輩やめんかい。照れるだろ……」


 そのあと、小型のスプレーを渡され、それを足と手にかけた。すると痺れと痛みが柔らいた。スプレーの中には神経に働きかけ、回復する液体が入っている。あくまで痛みが消えただけなので、ギルドで手当てをする。と先輩は説明してくれた。このスプレーには驚いた。

 科学はこんな奇跡のようなこともできるのだな。

 今は大都市の中を歩いて、ギルドにむかっている。先輩のあとを追っているだけなんだがな。

 しかし、この都市はほんとにすごい。さっきは必死にギルドを探していてあまり反応できなかったんだが、都市全体が冷房化されている。こんな大規模に冷房化するなんてすごすぎだろ。しかも回りはビルしかない。車もいなかとは違い、空中を走っていた。

 さすがは世界一の規模と発展している都市『ルガ』

 初めて見るものばかりで胸が高まる。ここに住むかもしれないのだから。

 なんでこんな科学が発展しているのに、初めてのものばっかなんだよって思うかもしれないけど、俺の住んでいた所は科学とは無関係だった。というか我々には必要なかった。もちろん人から科学のことは聞いたりはしていたが、見るのは初めてだ。

 瞬間、誰かの殺気を感じ背中がぞっとした。後ろを向くと黒いフードをかぶっていて、顔が見えない少年が立っていた。背の高さとは反対に威圧的な存在感だ。

 だが、先輩に呼ばれたので、彼女の元へ急いだ。

「ほら、着いたぞ。ここが我々のギルド『BAGRバッグ』だ」

 目の先にはほかのよりも少し低い、けど横に長いビルがあった。

「よし、さっそく入るぞ」

 そういうと、自動ドアを通り中に入った。ちなみに、自動ドアを通るのも初めてだ。

 入ると、最初に見えたのが受付だった。そこには、一人の女性が立っていた。

「BAGRへようこそ。依頼をしたい場合は右から奥へ進んでください…… ってミル! 任務おつかれ~ 後ろの子はだれだ~ 婿さんでも連れてきたのか」

「ありがとう。ギルドに入りたいって言ったから、連れてきたのよ」

 クールだった先輩は女の子口調で答えた。

「ギルド関係者は右の奥に進んでください~」

「はいはい」

 そういうと、先輩は受付の左を通って、奥へ進んだ。俺も遅れずに付いった。その時、受付の人に「よろしくね~ またあとでね」と小声で言われた。奥へ進んでいくとエレベーターがあった。   

 すると先輩は「地下二階」と歩きながら言った。扉が開き、中に入ると周りは水で覆われていた。水が実際にあるわけじゃない。エレベーターの表面には超薄型のモニターがあり、それが海の映像を流しているのだ。

 これぐらいは知っている。しかし、先輩は前には画面があるのに歩くのをやめない。

「先輩前画面がありますよ!」

 遅かった。先輩は画面と衝突してしまった。と思ったら、先輩は海の中に消えていった。えっ。

「なにを言ってる。これは立体映像だから、通り抜けられるよ」

 先輩の言葉を信じて海の中に飛び込んでみた。

 すると、海を通り抜けた。前にはこっちを向いた先輩が立っていた。

 本で読んだのとは全然ちがうじゃないか……

 この階の壁は木でできていた。先輩の後ろには木製の扉があった。これも3Dじゃないだろうな。

「さぁ、ここがギルドの中央部屋、リビングだ。入るぞ」

 先輩は振り向き、木が擦れる音を響かせながら、扉を開いた。扉の向こうには…… 

 だれもいなかった。

 濃い茶色の木製の部屋はかなり広く、それぞれに四つ蝋燭が掛かっている大黒柱がいくつも並んでいる。柱の間には所々にテーブルとイスが並んである。一番奥には入口と同じ扉が見えた。だが、それ以外は柱が邪魔して何も見えない。

「あれ、おかしいな」

 先輩が疑問を問いかけた瞬間、すべての蝋燭の火が消えた。同時に目の前になにかが転がる音がした。途端爆音が響き、閃光が発された。目をやられ、強い耳鳴りがする。


 目と耳の調子が戻ると、蝋燭が点いている部屋の地面に寝転んでいて、両腕と両脚を縛られていた。木製の床の冷たさが感じられた。

 回りにいる四人の男に厳しい目線を向けられている。一番若そうなのがどなり始めた。

「ミル姉さんに手出して、生きて帰れると思うなよ!」

 それにつられて、ほかの男もつぶやきはじめた。ころすころすころすころすと。

 いや、あの、落ち着いてください。

「俺は無実だ! なにもしていない!」

「嘘をつくな! くそガキが! お前に弁解の余地はない!」

 すると、ミル先輩が奥に見えた扉を開けて近づいてきた。

「新しい仲間になるかもしれない子になにをしている」

「えっ。こいつはミル姉に手出したんじゃ」

「違う。うちのギルドに入りたいらしいから連れてきた。縄を解いてあげて」

 その男は縄解きながら言った。

「変態かと思ったごめん。だが、俺たちのギルドに入るにはテストを受けてもらう。弱そうなクソガキには間違いないからな。あと、俺の名はスカイだ」

「テスト?」

「ルールは簡単。俺に一発入れたら合格だ」

「簡単じゃないだろ」「いきなり難しすぎる」とほかの三人は言っている。

「もちろん挑戦するよな?」

「はい、もちろん」

「んじゃ、スタート」

 いきなりですか。その男はスタートを宣言した途端目の前から消えた。いや、飛んだ。たぶん彼の肩に付いている装置で飛んでいるのだろう。他の三人の言った意味が今分かった。スカイは宙を舞いながら言った。

「一応制限時間は三十分だからな」

 そこらへんにあるイスをスカイ目がけて投げてみた。予想通り簡単に避けた。

「そんなもん俺にはあたらんぞ」

 相手は余裕そうに言った。


「そんなもん俺にはあたらんぞ」

 俺は挑発した。このガキは正直弱い。基礎体力も低いし、戦略もなく、魔法も使えそうにない。

 俺たちのギルドは結構自由だから、仲間がいろんな奴を連れてくるけど、ミル姉さんは初めてだ。正直期待していたのだがこれではな。

 飛んでいるだけじゃつまらないし、少し遊ぶか。殺しちゃいけないってルールもないしな。

 俺は突然高速で降下し、ガキに一発入れた。さすがに俺の武器を使ったら殺しちゃうから使わない。柱の間を高速移動で通り何発も入れた。

 避けようともしない。本当に弱いな。

 最後にでかいの入れて終わりにするか。そう思い、ガキに接近した。

 次の瞬間、目の前からガキが消えた。それと同時に俺の頬にガキの拳が当たった。拳自体には威力はないんだが、あまりにも不可測だった。なにをしたんだこのガキ……


 今日サウンドバックになるのは二度目だな。

 でも、一発入れてやったぜ。スカイは殴られてもびくともしないから、少し悔しいけど。

 スカイは拳から離れ少し宙に浮かんで、告げた。

「なにをしたのかは知らないが、一発入れられた。合格だ。これから宜しくな」

 よっしゃ! 

「はい! よろしくお願いします!」

 拍手をしながら、ミル先輩が部屋に入ってきた。

「ナイス。奥の部屋でギルドの申込書だけ書いてきて。その後みんなに自己紹介だ」

 奥の扉を開くと前の部屋より一回り大きい部屋に着いた。中心には高い天井に届く巨大なキャンプファイヤーがあり、その周りをカウンターがいた。何もない手前以外は物などが置いてあり、ある間隔ごとに板がカウンターを分けていた。

 申込書を渡され、手前のカウンターで記入した。名前はクロカ。年は十六。職業なし。武器なし。使える魔法は……


 ミル先輩とスカイを含めて二十人ぐらいの人がリビングのイスに座っていて、俺を見ている。

 これから自己紹介するから当たり前なのだがやはり緊張する。

「一応だが、ギルドのみんなはここにいる人だけじゃないからな。ボスだっていないし」

 そうミルは説明してくれた。小さくうなずいて、返事をした。息を飲んで、始めた。

「俺の名前はヒョウガ クロ。ギルドに入って強くなるため魔法村『マジ』から来ました。使える魔法は…… 時間です。よろしくお願いします!」

 頭を下げて、言い終えた。

 スカイは「ヒョウガ…… なるほど。ミル姉はすごいの連れてきたな」と静かに呟いた。




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