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+ 少女ペィジ

 ちょっと、番外みたいなモノを。文香視点です。

 ヤッちゃんを語らせたら、私の右に出る者は居ないと思う。これはもう、崇拝の域に達していて、もはや神である。そのヤッちゃんが私にお礼をいうのである。

「ありがとー、フーコ!お陰で、就職できる事になったよ!!」

 もういっそ、昇天してしまいそうだ。その笑顔は、点描のキラキラが見える気さえする。

「ううん、大したことしてないよ」

 私がした事と言えば、おじいちゃんを孫という立場を利用して籠絡しただけだ。それに、中学からおじいちゃんの作業場で熱心に見習いをしていたのだから、当然だ。私と遊ぶ時間を割いてまで、見習い修行していたのだ。ちょっと口惜しいけど、ヤッちゃんが楽しいなら私は幸せなのだ。一生懸命なヤッちゃんの姿を見たり、描いたりするのは法外の喜びと言える。

「でも、高校一緒の所に通いたかったな……」

「バカフーコ。フーコはちゃんと全日制通えるんだから、ふつーの女子高生しなって。うちは夢の為にこういう進路になったんだからいいんだよ」

 私の心配をしてこう言ってくれるヤッちゃんのなんと優しい事か。おじいちゃんの工房に就職という事は、ホントに近所だし、毎日でも会える。それ以上を望むなんて、私はなんと愚なのだろう。小学校の時引っ越してしまってから、休みぐらいしか会えなかった頃に比べたら、破格の待遇だ。一日一ヤッちゃん。

「お~い、フーコ?聞いてる?」

「はっ!ごめん、ヤッちゃん。聞いてなかった……」

「いやさ、フーコは夢とかないのかって。ほら、うちの夢をフーコが手伝ってくれたわけじゃん。お返しってかさ、なんか出来る事ない?ホールケーキを丸ごと食べてみたいとか、バケツにプリン作ってみたいとか……」

「……それヤッちゃんがやってみたい事でしょ?」

 バケツプリンは固まるか怪しいけど、ホールケーキならいつでも作ってあげたい。

「うん、まぁそうだけど。例えばだよ。フーコはなんかないの?」

「……王子様」

「は?」

「ヤッちゃんみたいな王子様とキャッキャ、ウフフするのが私の夢、かなぁ」

 その時のヤッちゃん引き攣って固まった表情を私は忘れる事がないだろう。そんな顔も、カッコいいと思う。

 ヤッちゃんは片手を額に当て苦い物でも食べた後の様な顔でブツブツ何かを言った後、向き直って私に言った。


「よぅし!わかった。他ならぬフーコの願いだ!フーコに本物の王子が見付かるまで、仮の王子になってやる!」

 十分私には王子様に見えているというのに……でも、その言葉はすごく嬉しい。

「すぐには難しいな。じゃあ、作戦考えとくから!楽しみしてなよ!!」





 そして、4月初旬某日。

「とりあえず、見た目から入ってみたんだけど……どうよ!!」

 自信たっぷりのドヤ顔のヤッちゃんは、以前のヤッちゃんではなかった。ものすごいイメチェンだ。

 染めたばかりの髪の毛は真っ赤でショートになっていた。眉は太目にキリッと、アイラインはハッキリ書き込まれ、フェイスラインもシャドウを使っていると思う。

 ラフなカジュアルを好んでいたヤッちゃんが、鈍い銀のスナップやファスナーのブルゾンに、レースや異素材が付いた赤いインナー。黒のカーゴはペンキのプリントが施されている。靴は合皮の網上げブーツで、ソールが身長をプラス十二センチは上げている。アクセサリーも銀に統一されている。

 ファッション誌でいうならKERA。場所で言うなら、土日祝のりんかい線またはゆりかもめの国際展示場駅。持たせたいアイテムは問答無用でカート。


「うん、待って……今、頭の中整理する、から……」


 あまりの事に何が起きてるのか理解できない。


 なぜなら、あのファッションにどうにも見覚えがある。


「再現度すごくない?この間フーコが描いてた絵を参考にしたんだ!フーコこういうのが好きなのってちょっと意外~」


 言えない。


 あの絵は、他人に頼まれて乗り気しないけど、ネット上とは言え付き合いだからご依頼通りに描きましたよーっていう代物だったんだよ!なんて。


「そういえば、さっき知らない人に『ノゾ』さんですかって訊かれたんだけど、なんだろう?」

 その人だ。私に絵を頼んできたアマチュアの歌い手さん。

 大変だ。このままでは、私のヤッちゃんがNozomiTBのコスプレをした痛い子になってしまう。早く何とかしないと!とはいえ、どう説明したらいいのだろう。

「あ、あのね……ヤッちゃん!その絵なんだけどね」

「フーコの絵って綺麗だよね。あの赤特に気に入っちゃってさ、この色にしたんだ!絶対師匠の血一番継いでるよ。羨ましいー」

「そ、そう?だと嬉しいな!だったら、服まで凝らなくても……」

 脱Nozomi臭!あのゴスパンクだけでも引き離せばなんとかなるかもしれない。

「そっか、こういうのはあんまりか、がんばったんだけどな」

 そんな悲しそうな目で見ないで欲しい。

「ううん、そんなことないよ!ありがとう、ヤッちゃん!!」

 止められなかった……。


 ヤッちゃんあの恰好をやめさせるには、もしかして私は、本当に王子様を探さないといけないのだろうか?




 とにかく、早急に、その辺の適当な話の分かりそうで、面倒のないのを見繕うことに決めた。

 その矢先。

「フーコの王子様には、末永く大事にして貰わないとな。すぐ別れちゃうとか、そんな奴論外だよ」

 なんて、ヤッちゃんが言ってきた。有難いけれど、今すごくハードルが上がった。末永く茶番に付き合ってくれるような人がいるだろうか、果して。


 そのわずかな可能性に掛けて、リコ先輩方主催の合コンに参加した。心細かったのでヤッちゃんにも来て貰った。私に真っ当な対人スキルはない。

 私が目を付けたのは、闘条という人物。彼女いらないって言ったし、食べ物以外は興味がなさそうだった。サンドなんとかって言ってたのは、訊かなかった事にした。何か、ギブアンドテイクな関係を築ければ可能性はある。


 だが、そのあとのヤッちゃんである。

「一通り話してみたけどさ、王子様候補にはトシが一押しかな!フーコって人付合い苦手じゃん。人当たりがソフトな紳士の方が合ってる気がする。さわやかな笑顔なのもポイント高いな」

 それは、ヤッちゃんの主観ではないだろうか。実はああいう誠実、真面目そうなのちょっと無理なのだが。ヤッちゃんの様な、ワンマンと言うか、振り回す系のが好き。むしろ、ヤッちゃんそのもの。

「うーん……その人好きな人が居たっぽいよ?」

「フーコ!狙い目は失恋して傷心の所だと思うんだ。そこをガンガン押さえて行けば、手篭めにするのも容易いはず!!」

 こうなっては、話を聞かないのを私は長い付き合いで心得ている。ああ、あんな絵引き受けなければ、ヤッちゃんが痛い子に見えてしまったり、私の王子(嘲笑)なんか探さずともよかったのに!!NozomiTB、責任取れ畜生。

 そこで、はっと閃いた。絵だ。絵と動画を下げさせればいい。出回ってしまった分は仕方ないが、オリジナルを削除すれば、時間と共に忘れられて行くに違いない。

「……そうだ、そうしよう!」

「おぉ!!フーコついにやる気じゃん!」

「え?!あ、違っ!そういう意味じゃなくて……」

「うんうん、分かる。なんせ、あいつカッコいいモンな。よぉし!いろいろ準備しなきゃだなー」

「ヤッちゃーん!!だから、その人無理……って」

 気のせいだろうか、ヤッちゃんがあの皆上という人の話をウキウキとする姿に既視感。あれは、おじいちゃんに弟子入りした時の目だ。すごく興味を持ったとか、好きなモノに出会った時にする目だ。



 嘘だと言って欲しい。ヤッちゃんに好きな人が出来ただなんて。



 その日、私はついポロッとおじいちゃんに愚痴を零した。

「文香は本当にヤッちゃんが好きだなぁ。文香とヤッちゃんが一緒になってくれりゃ、儂の工房継いで貰えたのになぁ、残念だ」

「おじいちゃん、ヤッちゃんは女の子だよ」

「男だったらの話だよ、文香の婿が工房を継いでくれるのが儂の夢だからなぁ」

 私もそうならいいと何度も思ったけど、ヤッちゃんに対する私の気持ちは愛ではなく崇拝なのだ。

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