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【第9話】

 手を握り合った握力の差を既に感じ取った僕は、少しでも隙を突こうと、一呼吸半の半端な間合いで右腕に渾身の力を込めた。

 和弥の腕は一瞬ふらついたが、その後は鉄の棒でも掴んでいるかのようにびくともしない。

 僕はその状況が信じられず彼の腕を睨みつけながら力を入れ続けた。

 和弥は本気で力を入れていない様子で、軽く微笑んでいる。しかし、その直後、グイッと大きな力が掛かったかと思うと、あっという間に僕の白い腕はテーブルに叩きつけられた。

 僕は、既にこんなに男女の身体の差が出ている事に驚きを隠せなかった。

「俺の態勢に無理があるんだよ」

 僕は思わず言い訳がましく吐き捨てた。

「あははは、そうかもな」

 和弥が笑って言ったその言葉は、彼なりの優しさの現れだった。

「あ、三浦が来てる」

 病室の前にクラスメイトの由佳里と敬子が来ていた。

「じゃぁ、俺帰るから」

 そう言って和弥は何時もと変わり無い笑顔で帰っていった。

「三浦って、もしかして毎日来てるの?」

 ベッドの横に近づいた由佳里は、興味津々の目で言った。普段から彼と仲がいいのは彼女も知っている。

「まさか。初めてだよ」

 僕はチョットだけウソを言った。

「そうなんだ」

 敬子がそう言いながら、お見舞いに持って来た小さな鉢植えの花を、ベッドサイドの棚に置いてくれた。

 その後、お菓子を食べながら、いかにも女三人、と言うようにキャッキャと盛り上がる。

 病室の窓からは、オレンジ色に焼けた空と雲に覆われて、歪んだ夕日が大奥山脈に沈んでいくのが見えた。




 和弥は中学に入ると、僕とは対照的にみるみる男らしさを増していった。

 身長も170センチを越え、僕との身長差はますます広がる。ただ、部活の関係もあって二人で登下校する事はほとんど無くなった。

 彼はサッカー部に入り、僕は写真部に入った。

 本当は僕もスポーツをしたかったが、女子専用のユニフォームをどうしても着る気になれなかった。

 女生徒の制服を着る僕がそう言うのも変だが、これが精一杯なのだ。

 和弥とは一年と二年の時はクラスが違ったが、相変わらず僕達は仲が良かった。

 僕が初めて他のクラスの男にラブレターを貰った話をすると、腹を抑えて大笑いしていた。

 クミと敬子は学校の帰り道が途中まで一緒だったので、よく一緒に帰ったが、ふと気付くと、五十メートルくらい後に和弥の姿が見える時がある。

 そんな時は、クミと敬子に手を振った後、さりげなく彼を待っていてやったりもした。

 クミの進めで少しだけリップを塗ったり、コロンを着けたりする僕を、和弥だけが昔のままの「僕」として対等に付き合ってくれる。

 僕はそう信じていた。



 中学三年の夏休み、和弥は僕の部屋に遊びに来ていた。

「あ、これマユが使ってるコロン?」

 和弥は、カラーボックスの上に置いてあるジバンシーのコロンを手に取って言った。

 昔は、よくお互いの部屋を行き来していたが、最近は滅多に部屋に上がる事は無かった。

 互いに男同士、女?同士の付き合いもあったし、和弥と遊ぶ時があっても、自転車に乗って、一緒に買い物をしたりゲーセンに行ったりするからだった。

「随分増えたね」

 和弥は小さなチェストの上に並ぶ、バリ猫の置物に視線を向けて言った。

「あははは、何時もつい買っちゃうから、自然に増えるんだよ。でも、この前敬子が来た時二つ持っていかれたけどね」

 猫の置物もそうだが、僕の部屋にはぬいぐるみの類も多数ある。

 そう言った可愛いものが意外と好きなのだ。唯一、それを見ると母は安心するらしいが、別に男の子がぬいぐるみを好きでもおかしくは無いと、僕は思う。

 だから、それが微かな女心…… とは違うものだと、僕は思っているが。

 その時、何かを指で指そうとした和弥は、カーペットの上に置いた麦茶の入ったグラスを倒してしまった。

「あ、ごめん」

「大丈夫だよ。すぐ拭き取れる」

 僕は急いでタオルとティッシュを使ってそれを拭き取った。

 今思えば、下着が透けるようなTシャツにハーフパンツと言った、僕の無防備な格好も悪かったのかと思う。

 心と身体が同調している健康な中学生の男子に対する認識が、甘かったのかもしれない。



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