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【第40話】

(Spirit)

 僕の心はボクノモノ、彼女の身体もボクノモノ。

 ちがう、この身体はアタシノモノ、この心もアタシノモノ。

 朝、目覚める一瞬前。眠っているのと起きている事の中間ぐらいの、まどろみの意識に半分浸っている時だろうか。時々声が聞こえる。

 それは、僕である刑部真夕の声のようでもあり、違うようでもある。

 それとも、それは目覚める直前に見る、ただの夢なのだろうか。



 二週間で退院した秀雄は、お盆があけた頃、ようやく外を歩きまわれるまで回復した。それでも、当分バイクは乗れないらしい。

 何度か電話で話したが、退院してから会うのは今日が初めてだ。

「よかった、元気になって」

 秀雄の家が在る、最寄の駅の喫茶店で僕達は待ち合わせをした。

「まぁ、俺も元気が取り得だからね」

 秀雄はそう言って、アイスカフェオレを飲んでいる。

「和弥には会ってるの?」

 秀雄がさりげなく訊いて来た。

 正直なところ、最近は殆ど会っていない。特に用事も無いし、バイトと千夏に会うのが忙しかったから。

「ううん。バイト忙しいし、和弥は部活が忙しいから」

 僕はそう言って、首を横に振った。

 僕は、千夏と身体を合わせる事によってどうやら心のバランスを取り戻したようだ。秀雄に会っていても、以前、時折起こる静かなときめきのような不思議な感情が全く現れない。それは、一緒にバイトをしていた頃と同じ感覚だった。

「カートのレース出るの?」

 秀雄はストローの袋を指先で小さく折り畳みながら言った。

「うん。一般の部で」

 僕は、レンタルカートカップと言う、レンタルカートのワンメイクレースと同日に行われる、競技用カートのサンデーレースに出る事にしたのだ。

 中には競技用カートをレンタルして出る人もいるくらい気軽なレースだが、表彰台に立つのはかなりの実力者達だと言う。

「俺も応援に行こうかな」

 秀雄はタバコを咥えながら笑った。

 そんな時、僕の携帯電話の着メロが鳴った。着信モニターを見ると、母からだ。

 どうせまた、急な出張か何かだろうと思いながら通話ボタンを押す。

「もしもし」

「あ、マユ。今晩からちょっと、東京に行って来るから」

「うん。仕事?」

 僕の問いに、母はしばらく沈黙していた。

「お父さんが亡くなったらしいの」

 お父さん…… あの勇次という男が死んだ。会った事も無い僕の父親。

「あ、あたしも行っていいかな」

 僕は父という男の顔が見てみたくなった。勿論、遺影でしか見れないのだろうが。運がよければ、火葬前の本人に会えるかもしれない。

「いいけど……」

 母の声は少し困惑しているようだった。

「大丈夫だよ。何となくお父さんてどんな人だったのかなって」

 僕はわざと明るく応えた。

「そう。じゃぁ、今、家で仕度してるところだから、帰ってらっしゃい」

 母はそう言って電話を切った。

「悪い、なんか父が亡くなったらしくて」

「あ、そうなんだ。大丈夫?」

 秀雄は心配そうな顔で僕を見つめる。

「うん。父って言っても、一度も会った事無い人だから。でも、葬式には行って来る。帰ってきたら電話するから」

 僕はそう言って喫茶店を出ると、マウンテンバイクに乗って帰宅した。



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