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【第36話】

(Physical‐Cansel)

 空が一瞬閃光に包まれて、思わずみんなが顔を上げる。直後には地鳴りのような雷鳴が大気を震わせ、内臓まで響いてくる。その間、僅か一秒あるかないか。

 雷はほぼ真上で放電している事になる。

 僕はバイトを終えて家に帰ろうとスタンドを出た所だった。

 何処からとも無くパタパタと何かを叩くような音が聞こえて来たと思ったら、アッと言う間に水煙に覆われた風景にのみ込まれた。

 旋毛に痛みを感じるほどの大粒の雨だった。

 僕は一瞬スタンドに引き返そうかと後ろを振り返ったが、その距離が異様に遠く感じて、目の前に見えたTUTAYAの庇の影に飛び込んだ。

 アスファルトに叩きつけられた雨水が飛沫をあげて、地面全体が白く煙っている。

 カッと空が光った時、稲妻が縦に走ったのが見えた。バリバリッと言う、空を切り裂くような物凄い音と共に大地が震えた。

 何処かに落ちただろう。と、僕は心臓の鼓動が速まるのを感じながら遠くを見つめた。

 目の前を足早に歩く制服姿の女子高生は部活か何かの帰りだろうか、降りしきる豪雨に傘が役目を果たしていない。

 その二人は互いに悲鳴を発しながらTUTAYAの店内に駆け込んでいった。

 クラクション、と言うには品のある、聞き覚えのある優美な音色が二回鳴るのが聞こえた。僕が俯いていた顔をあげると、赤いレガシーが目の前の路肩に止まっている。

 それが千夏だと言う事は直ぐに判った。しかし僕とレガシーの間は、激しい滝のような雨で仕切られていた。

 携帯の着メロが鳴る。車の中の千夏も携帯を手にしていた。

「もしもし……」

「凄い雨ね。乗せてあげたいけど、チョットでもそこから出たらずぶ濡れね」

 千夏は何時もの明るい声で話しながら、車の窓越しにこちらを見ている。

「自転車積んでもいい?」

 僕がそう尋ねると「いいよ」と言って、彼女はリヤゲートのハッチをオープンにした。

 既にずぶ濡れの僕は、構わずリヤゲートを自分で全開まで開け、マウンテンバイクを押し込んで素早く後のドアからリヤシートに滑り込んだ。

「とっくにずぶ濡れだったから」

 僕は千夏にそう言って、髪の毛から雫を垂らしながら笑った。

「そこのタオル使って」

 彼女に言われるまま、リヤシートに置いてあったバスタオルで頭や顔を丹念に拭く。

「助かっちゃった」

 僕がそう言って笑うと、彼女も笑い返した。

「うち、寄っていきなよ。ご飯まだでしょ。あたしもこれからなんだ」

 彼女は僕の家が母子家庭で、母親が忙しい事を知っている。

「じゃぁ、喜んで」

 僕はそう言って笑った。



 千夏は、料理が上手だ。一見派手そうに見える彼女の外観からは、想像出来ないくらいに家庭的なのだ。

 彼女の家は、自分以外に兄弟が3人いて、みんな男の子だったそうだ。だから千夏は、自営業で忙しい両親に代わって、中学の頃からよく食事の仕度をしたのだという。自然に身に着いたものだから、その料理も家庭的で、それが僕には心地よかった。

 兄弟のいない僕には、その面倒を見るという事自体が、あまりピンとこなかったが。

 僕達は、駐車場から全速力で、彼女の部屋へ駆け込んだ。

 彼女の部屋へ入ると、濡れた上着を脱いで乾かした。履いていたジーパンも、まるで河へでも飛び込んだように濡れていたので、一緒に乾燥機に押し込んだ。

「乾くまでこれ」

 そう言って千夏は自分のTシャツとスエットパンツを渡してくれた。彼女も車から降りる際にかなり濡れたので、着ていたシャツを脱ぐ。

 三分の二カップの淡いピンクの下着がかわいらしかった。

 やっぱり僕より大きいみたいだ……



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