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【第30話】

(Vision ― 幻影)

 試験休みから、正式な夏休みに移行する際、終業式と言うものがあり、一度学校へ行かなくてはならない。成績表などと言うものが配られる日でもあるが、母は何も言わないし、そこそこの成績は取っている僕は、特に憂鬱と言う訳でもない。

 学年女子の中で三分の一以内に入っていれば、自分の中では「良し」としている。

 それとは別に、今日は、久しぶりに腰が重くて非常に辛い。二日目とはいえ、こんなに酷いのは久しぶりだ。しかし、今朝二錠半飲んだ鎮痛剤が効いたらしく、学校に着いてしばらくすると具合は良くなった。

 終業式の放課後、掃除当番を終えて帰る準備をしていた僕は、クラスメイトの加奈に呼び止められた。彼女は一年生の頃から、仲の良い女友達だ。

「ねぇ、マユ。ちょっと付き合ってよ」

 加奈は少し困った顔で言った。

「どうしたの?」

「なんかさぁ、三年生の男に呼び出されて……」

「リンチ?」

「ちがうよ、もうっ!」

 僕の冗談に笑い返す余裕もないようだ。

 加奈は、彼女に好意を持っている上級生の男子に呼び出されたらしく、用件は間違いなく告白だろう。

「そんなの一人で行きなよ。その男に失礼でしょ」

「そんな事言わないでさぁ、何処かに隠れて見守ってて」

 勝手な事を言っている…… しかし、加奈は、僕より一回り大きな体格をした健康的な身体をしていて、その割におっとりとしていて何処か憎めないのだ。

 僕は小さく溜息をついて肩をすくめると、そのまま、彼女が呼び出された場所までついて行った。



 この学校の屋上には、小さな天文台が在って、一つのウリになっているが、授業でも殆ど使った試しが無く、時々活動している天文部の為にあるようなものだ。

 屋上に続く階段は途中で別れ、片方は直接天文台に繋がっている。勿論、屋上から天文台に入る事もできる。

 彼女が呼び出されたのは、屋上から入る天文台の入り口だったので、僕は屋上に出る手前の踊り場から少しだけドアを開けて、彼女の様子を見守る事にした。

 加奈を呼び出した三年生は先に来て彼女を待っていた。

「あの、あの、あの………………あ、あ、あの……」

 緊張しているのか気が弱いのか、上級生らしい風格がまるで無く、ただ背がデカイだけのその男子生徒は、どう考えても加奈のタイプではなさそうだと、直ぐに見て取れた。

「あ、あ、あの……俺と…………俺と、付き合ってくれませんか」

「ムリ!」

 加奈は愛想笑いを浮かべるでもなく言い放った。

 僕は、その光景を見て思わず目を丸くした。

 告白に3分、返事が1秒といったところか……

 彼女は二つ返事で断りの言葉を発すると、身体の向きを変えてそそくさとこちらへ向かって来た。

「ちょっと、もっと優しく断れないの?」

 僕達はそのまま階段を足早に駆け下りた。

「だって、気持ち悪いんだもん。そんな余裕ないよ」

「わざわざあたしがついて来る事無かったじゃない」

「だって、どんな男か判んなかったし、マユが近くにいたから、強気で断れたんだよ」

 彼女なりに緊張していた事は、額に薄っすらと浮かぶ汗で判った。勿論、暑さのせいかも知れないが……

 女二人?、きゃっきゃと階段を駆け下りて、三階に差し掛かった時、

「刑部先輩」

 僕は突然誰かに呼び止められた。

 振り向くと朋子が立っていた。

 三階は一年生の教室が在るのだ。因みに、二年生は二階、三年生が昇降口に一番近い一階部分に陣取っている。

「ちょっと、いいですか」

 朋子は僕と話したいと言うので、加奈は「じゃあ」と笑って手を振ると、先に一人で階段を下りて行った。

 僕と朋子は四階に在る音楽室に向かった。

 いったい何の話だろうと、胸の奥で心臓の鼓動が高鳴る。彼女が僕に話しと言えば、おそらく和弥に関係することなのだろう。

 四階まで戻る階段が、やけに長く感じた。



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