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【第28話】

(Summer Dream)

 川沿いの道を河口へ向かって走り、途中で右折して古い住宅街を通り抜ける。

 しばらく松原が続き、そこを道なりに通過するといきなり視界が開け、長い海岸線に出る。道路を挟んで海岸の反対側には、永遠に松原が続いている。

 緩く湾曲した海岸線は、かなりの距離続くが、遊泳できる区間は決まっている。波の荒いこの海岸は、遊泳禁止との仕切りが紙一重で、毎年水死事故が起きるのだ。

 海開きして間もない平日の割には、思った以上に人出があるのは、この狂ったような暑さのせいだろう。

 佐々木が乗ってきた軽トラには水上バイクが積んであった。ジェットスキーと言うやつだ。遊泳区画では危険なので、当然遊泳禁止区域へ持ち込んで走らせる。が、はたしてこの場所でジェットスキーを走らせていいのかも僕には判らなかった。

 海岸線を一度通り越して、岩場の影から突き出た船着き桟橋からジェットスキーを下ろす。

 小さなクレーンの着いている軽トラは、本来カート場の持ち物であるが、そのお陰で、ジェットスキーを海面に降ろすのに、あまり手間はかからなかった。


 波を蹴って走る風は、陸を走るのとはまた別で、飛び散る波しぶきが身体や顔に跳ねる度に爽快感は倍増する。常に上下に揺れる浮遊感は、何処となく不安定で地面をグリップして走るような安心感は無い。ただ、常に横滑りをしながら旋回する感覚は、何処となくカートに似ている。

 千夏と二人乗りをして水面を走った。ターコイズブルーのビキニを着る彼女の素肌の腰に手を回した。

 細くて柔らかいウエストから直に彼女の体温を感じる。

 彼女は巧みなアクセルワークで右に左に大きく波しぶきを立てながら、急旋回を繰り返して後ろの僕を楽しませる。

 激しい挙動に大笑いしながら、僕は彼女を抱きしめるように背中から強く腕を回した。

 彼女の滑らかな素肌の背中からは、日焼け止めオイルのまったりとしたムスクのような香が漂っていた。

 途中で運転を交代して、僕が前に千夏が後へポジションをとる。

 彼女は布と薄いパッドのみに包まれた胸を、遠慮無く僕の背中に押し付けてくる。自分で自分の胸を触るのとは全然違う感触は背中で感じているからなのだろうか。

 僕は今年、何年ぶりかで水着を買った。いや、学校水着以外を買うのは初めてだった。

 試着室が空いていたので、これ見よがしにいろんな水着を試着した。ビキニも何着か着けてみたが、さすがに人前で着る気にはなれなかった。

 僕は、鮮やかなオレンジ色のワンピースタイプを選んだ。

 それでも、背中が大きく開いている為、千夏の胸の感触は直に背中で感じた。

 秀雄は痩せ型の割には意外と筋肉質で、スタンドで金髪の男に飛び掛った勇ましい姿を思い出させる。

 バイクに乗っているだけあってか、初めてのジェットスキーを意外と上手に扱う。

 熱い太陽が真上に来る頃には、僕達は遊びつかれて焼けた砂浜にマットやタオルを敷いてゴロゴロと取立てのトウモロコシのように横たわる。

 ビーチパラソルの下に敷かれたマットに横たわって休んでいた僕の横に、秀雄が来て無言で腰掛けた。

「本当に、また会いに来るとは思わなかった」

僕は彼に聞こえるように呟いた。

「あの時、松島の駅で言った言葉は本当だよ」

 彼も呟くように、ただ海を見つめて言った。

「だから、当分は友達として普通に接するよ。希望はその先だけどね」

「どうして…… 他にも女性らしい本物の女の子なんていっぱいいるじゃん」

 僕は、上半身を起こして、彼と同じ海を見つめた。

「俺にも判んない。俺、変なのかもな」

 秀雄はそう言って肩をすくめて笑うと、クーラーボックスからコーラのミニペットを取り出して蓋を開け、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。

 佐々木は周辺に人影が無のをいい事に、バーベキューの準備をしている。

 遊泳区間では海岸での煮炊きは禁止されているが、ここなら誰も注意はしないし迷惑も掛からないのは確かだ。

 千夏が連れてきた友達は二人共ノリの良い女性で、一人は白、もう一人はグリーンの花柄の鮮やかなビキニを着ていた。

 真っ赤なペディキュアはそのまま二人の性格を現しているようだった。

 彼女らは三人共21歳だと聞いて、僕はその時千夏が21歳なのだと始めて知った。

 佐々木は終止女性に囲まれ嬉しそうだったが、秀雄は年上の女性を相手に少々苦戦していた。

「高校生の彼氏もいいよね」

 白いビキニのカナエが言った。

「最近年下狙いが流行ってるもんね」

 そう言って、ひときわ胸の大きいグリーンのビキニを着たナナミは、秀雄の肩を抱き寄せたりする。

 秀雄の腕が、彼女の大きな胸に食い込んで、彼はどうしたものかと目を泳がせる。

 彼女達には、高校生の秀雄が初々しく見えるらしい。そう考えると、男も女も年下を見るときの感覚は似たようなものだ。

 シャワーを使う為に遊泳区画にある海の家までみんなで歩いた。

 サンダルの底から砂浜の熱が伝わってきて、まるでフライパンの上を歩いているようだった。

 有料のシャワーを浴びた後、まだ出てこない連中を待って海の家の、座敷の隅に腰掛けていた。

「マユ」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには和弥の姿があった。



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