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【第19話】

(Dark Sky)

「髪切ったんだね」

 家の前まで来た時、声を掛けて来たのは和弥だった。

 ウチの門柱に寄りかかるようにしてしゃがんでいた。

「あ、うん。けっこうイイだろ」

 僕はシャギーの入ったサイドの髪を軽くかきあげて見せた。

 和弥は今日、一年後輩の前原朋子と言う、見るからに可愛らしい娘とデートだったはずだ。二日前に昇降口で彼女と話しているのを見かけた。

「最近彼女とよく話してるね」僕が和弥に尋ねると

「ああ、今度の日曜日にデートの約束させられたよ」

 そう言って、少し困った笑顔を見せていた。


 僕は、和弥に彼女が出来て欲しいと思っている。それが彼の為になるような気がしてならないのだ。

 中三の夏に起きた出来事以来、そんな風に思うようになった。

 彼が何時も男らしい瞳で僕を見つめる時、いくら僕が男らしく見つめ返しても、彼には少女の瞳に映ってしまう。

 それが、最近無性に腹立たしいのだ。

 しかし、その反面、最近彼が他の女性と親しげな笑みを浮かべて話している姿を見かけると、胸の奥になんとも言い様の無い、まるで食道を押し潰したような苦しさと憂愁がさ迷う。

 それは、僕の中に微かに残る女性の自認が起こす悪戯なのかも知れない。

「もう、デート終わったの?」

 クイックシルバーのアロハシャツを着て、しゃがみ込んでいる和弥に僕が尋ねると、彼はスクッと立ち上がった。

「まぁね」

 それだけ言って近づいて来た和弥の、手に持っていたアクエリアスを奪い取って、僕はごくごくと二〜三口飲んだ。

「浮かない顔だけど、何かあったの?」

「いや、楽しかったよ」

 彼はそう言って僕のマウンテンバイクに跨った。

「乗れよ。少し走ろうぜ」

 僕は、リヤタイヤの軸を止めている、長いステップ状のボルトに足を掛けて立ち乗りすると、和弥の肩を軽く叩いた。

 和弥は勢い良く走り出し、加速するスピードに合わせてギヤを一段づつ上げていく。

「海見に行かない」

 彼は不意に大声で言った。

「海?」

 僕は思わず訊き返した。

 海までは、一番近い工業港でも4〜5キロはある。

「別にイイけど、遠くないか」

「大丈夫。俺、足腰鍛えてるから」

 和弥はそう言ってスピードを上げた。

 僕達の高校の前を通って国道へ抜ける。日曜日の学校は閑散として、周りに高い建物が無い為、巨大なオブジェのように聳え立つ。

 国道を渡って、運河に掛かる大きな橋を渡ると産業道路に入る。

 片側三車線の大きな通りが、1キロくらいの直線を、永遠に続くかのように感じさせる。

「替わろうか」

 僕は後ろから覗き込むようにして和弥に言った。

 ハイペースで飛ばした為、和弥の息がだいぶ上がっている。

「全然平気だよ」

 彼は息を弾ませながら、笑って応えた。



 今日の空をそのまま映し出したような灰色の砂浜。

 ウミネコの群れに混ざって時折飛来するカラスが、誰かが駐車場に捨てていったコンビニ弁当の残飯をあさっている。

 間近で見るカラスは、意外と大きい。

 僕はわざと足音を立てて、小走りにカラスに近寄るが、ソイツは全く動じる様子が無い。

 防波堤によじ登って二人並んで腰掛けると、途中のコンビニで買ったコーラを飲む。

 走り通しで喉が渇いていたのだろう。和弥は殆どイッキに揉み干していた。

 少し湿った潮風が二人の間を吹き抜けていく。

「海なんて久しぶりだよ」

「俺も」

 和弥はそう言って防波堤の上に寝転がる。

「雨降るのかな」

 僕の腰元に頭を置いた和弥が、空を眺めて呟いた。

「今日は降らないような事言ってなかった?」

 僕は、今朝のテレビで見た天気予報を思い出して言うと、和弥を見下ろして

「彼女と来れば良かったじゃん」

 彼は額にシワを寄せて、少し上目遣いで僕に視線を向けると「うんん……」と煮え切らないリアクションで、再び真上に広がるダークグレーの低い空を見上げた。

「なんだよ」

 僕がそう言って、和弥の頭を手の甲で軽く叩くと、彼は「いてっ」っと小さく呟いて、ポケットから取り出したラッキーストライクを口に咥えた。



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