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【第11話】

(KAZUYA MIURA)

     2

「マユ、こっちにあるぞ」

 陳列棚の影から和弥の呼ぶ声が聞こえた。

カー用品店の中をうろつく制服姿の高校生二人を、直ぐ近くにいた茶髪の男が怪訝な表情で見ていた。

 僕は和弥を誘って大きなカー用品店に出向いていた。

カートに乗る為のグローブとヘルメットを購入する為だ。

 ところが、和弥の呼んだ場所に行って見ると、そこに吊るされているのは、手の甲が茶色のメッシュで出来ていて指が途中で無くなっている手袋だった。

「これ、違うんじゃない」

「そうなの?でも、俺のおじさんが昔、これ着けて車を運転してるの見たよ」

「これは、きっと普通の車用なんだよ」

 そう言って僕は別の棚を物色した。

 一番奥へ行くとRECAROと書かれたシートが素で置いてあるのが見えた。

 なんだかカートのシートをデカくしたような感じだ。

 きっとレース用なのだと思い、その周辺の棚を見渡すと

「あった!」

 グローブが数種類陳列してある。

「あー、これかぁ」

 和弥が僕の後ろから覗き込むようにして言った。

 SSのサイズのグローブを迷わず手にした。

 何気なく横を見ると、白地に赤とブルーで鮮やかにペイントされたヘルメットが飾ってある。その下に吊るされたカタログを見ると、真白なヘルメットでも値段は五万八千円もする。

「……高っ」

 おそらくは、ペイント代は別なのだ。

「うわっ、たっけー」

 僕が開いたカタログを覗き込んだ和弥が、思わず声に出した。

 僕は近くにいた店員に、もっと安いヘルメットは無いか尋ねた。

「自動車用は強度や機能面の関係でどうしても高いんですよね。カートだったらバイク用でもいいんじゃないですか?」

 なるほど。バイク用なら、一万円前後から在るそうだ。が、しかし、この店では二輪用は取り寄せになると言う。

 とりあえず僕は、グローブを買って店を出た。

「そう言えば、前に智弘達と行ったバイクショップに沢山ヘルメットが売ってたよ」

 店の駐車場で和弥が思い出したように言った。

 さっそくそのショップに案内してもらい店内に入った。

「気に入ったのがあったら被ってみてね。サイズはあるから」

 屈んで在庫整理をしていた店員が言った。

 僕は、Araiと描いてある赤いフルフェイスのヘルメットを買った。結局三万円以上の出費だったが、店員の男性が、サービスでスモークシールドを付けてくれた。

「俺もバイクの免許取ろうかな」

 店頭に並ぶバイクに触発されたのか、帰り際に和弥が呟いた。



 バイパスの大通りの歩道を和弥と並んでマウンテンバイクを走らせる。

 歩道の段差でジャンプする和弥に負けじと、僕も立ち上がって、ペダルを停止させて車体をホップさせる。

 短いスカートが跳ね上がり、一瞬、股間を風が吹き抜ける。

 対抗して走って来た自転車の、大学生風のリュックを背負った男の目が「ラッキー」と言った具合にニヤケても、別に大した気にはならない。

 中三の夏、不安で眠れなかった夜はウソのように和弥とこうして一緒に自転車を走らせている。

 彼が僕の身体に覆い被さったあの後も、僕はそれまで通りの自分を変えなかった。

 僕は、あくまでも僕らしく生きるしか方法は無いと思ったから。

 和弥も次第に、「今日は女っぽいんだな」とか、「たまには私服でもスカート履けば」などと冗談交じりの事を言うようになった。

 制服のミニスカートを履いている時に「パンツ見えてるぞ」と言う事も、平気で言ってくるようになり、

「マユ、制服でジャンプしたら、パンツみえちゃうぞ」

 ほら、和弥が言った。

「別にいいよ」

 その応えが僕の口癖だった。



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