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第6話 事件です

異世界での暮らしも慣れてきた。


一日のルーティン。

ストレッチー朝食ー騎士訓練の見学ー散歩(ガーデン、畑)ー休憩ー読書ー昼食ー昼寝ー護身術見学又はダンスの見学ー休憩ー文字の練習ー夕食ー入浴ー異世界の勉強ーストレッチ

見学する内容は時々変わるが、概ねこんな感じだ。

騎士の訓練も毎日隊が変わるので、見ていても飽きない。

ガーデンも知らない花が沢山あるので楽しい。

畑の野菜も地球では想像も出来ない色や形があるので見ていて面白い。


着替えを億劫がる私に、エプロンの枚数も増えた。

ズボンの申請はいつ頃しようかと画策中である。


騎士の訓練も、私が見学に行くと、なぜかテンションが上がるらしく訓練に身が入るようだ。

時々、騎士がする剣の振りを真似している。

上段からの振りおろし、横に薙ぎ払う、斜めからの振りおろし、下からの切りあげ、突き。

もちろん、木剣などは持たない。素手の練習だ。

指導者は型通りに教えているはずだが、個人の癖が出る。

得意、不得意の型があるのかも知れない。

三歳の真似事など、他者から見ればお遊びに見えるだろうが、本人は真剣である。

「やぁー、とぉー」と言いながら、短い脚と手を動かしている。

数分もすれば疲れてしまうので、練習・休憩の繰り返しだ。

きっと、身になっていると信じている。

一通りやり満足すれば、ガーデンに移動する。


花の名前を教えて貰いながら、歩いていく。

『鑑定』をすれば分かるのだが、教えてもらったという実績を作らないと、なぜ知っているのか不審に思われてしまうから。

ガーデンは広い、一通り見て最初の場所に戻る頃には、もう違う花が咲いている。

三歳の一日の移動範囲は狭いのだ。

カレンに抱っこされては、カレンが疲れてしまうので、抱っこも出来ない。

いつも、騎士に護衛を頼むのも気が引けるしね。


畑にいくと、トムさんが居た。

いつも会えるわけではない。彼も忙しい人なのだ。

「こんにちは、トムさん。今日も見学に来ました」

「やあ、こんにちは、アリシアお嬢様」

「毎日見に来て飽きないかい」

「はい、毎日成長しているのを見るのは楽しいです」

「そうか、そうか。だが、ガーデンも畑も虫がいるから気をつけるんだよ」

「はーい」


「さっき収穫したトマトを食べてみるかい」

「はい、食べたいです」

「アリシアお嬢様」

「大丈夫じゃよ。きちんと洗ってある」

「いえ、そういうことでは・・・」

「問題ない。お館様にも許可は取ってある」

「さようでございますか」

「ほら、食べてごらん」

パクリ。

「あー美味しーい。トマトの味が濃い」

「ハハ、アリシアお嬢様は、野菜の味をよく分かっておりますな」

「やっぱり、取りたてだから美味しいの」

「そうじゃ。朝の取り立てが一番じゃ」

「あーなるほど。朝摘みなんだ」

「朝摘みって、何時にしているの」

「そうさなぁ。季節と野菜の種類にもよるが、トマトやきゅうりは5時6時じゃな」

「えー、そんなに早い時間なの。起きるのが大変じゃない」

「もう、慣れてしまっておるからな。それに収穫したら部署ごとに仕分けしないとならんしな」

「そうなんだ。収穫して終わりじゃないんだね」

「でも、引き取りに来てくれるから、そこまで大変じゃないんじゃ」


「トムさん、何か手伝えることはないですか」

「アリシアお嬢様がですか」

「そう」

チラッと、カレンを見る。

頷いている。

「危なくないことでしたら大丈夫です」

へぇー、そうなんだ。

「じゃあ、収穫の体験でもしてみますか」

「やってみたい」

「ホホ、小さな物ならば大丈夫じゃろう」

「手袋をはめるといいのじゃが、小さいのは無いからなぁ」

「手袋ならご用意しております」

「えっ、いつの間に」

「はい、ご主人様から渡されております」

さすが、お父さま。準備がいい。

小さくて生地の厚い手袋が用意されていた。

「これならば、きゅうりも収穫できますぞ」

「きゅうりは、小さな棘がありますからな」

あー、そうだった。昔のきゅうりには棘があったな。スーパーでは見かけなくなったけれど。

「実を両手で持って、茎は侍女さんがハサミで切ってください」

「はい、分かりました」

トムさんに収穫できるトマトやきゅうりを選んでもらい、どんどん収穫する。

最後の美味しいとこどりだね。

やっぱり、育てて収穫する時が一番楽しいだろう。

「アリシアお嬢様が収穫なさった野菜は、料理長に渡しておきますからな」

「はい、お願いします」


部屋に戻り、お茶休憩する。

「アリシアお嬢様、疲れてはいませんか」

「はい、大丈夫です」

「果実水と果物をどうぞ」

今日はケーキではなくて、果物がおやつらしい。

運動してお手伝いをしたからかな。


休憩後は、読書の時間だ。

「カレンは、好きな本ってあるの」

「そうでございますね。今は冒険の本を読んでいます」

「そうなんだ。楽しい本なの」

「そうですね。幼馴染と故郷から出て、冒険をしていくお話です。とても、楽しいです」

「私が絵本を読んでいる間は、カレンも本を読む」

「いえ、仕事中は読めませんので」

「そうなの」

「はい、本に集中してしまうと、アリシアお嬢様の様子を伺えませんので」

「そっか。残念だね」

「寝る前に読みますから、問題ありません。その時が楽しみでもありますから」


絵本も読んでもらい音読してクリアできれば、次の絵本と読み進んでいく。

あと少しで、三歳の本を読み終える。

男の子向け、女の子向けの本があるので、それなりの数がある。

まだ、可愛らしい話し、面白い話しが多い。

残酷な話しは、これからなのかな。

日本の昔話や世界の童話なんかも、以外と原作は残酷だったりしたよね。


エレノア姉さまは、午後にダンスレッスンがある。

今日も見学するのだが、一緒にステップの練習をしていいか聞いてみるつもり。

一人でステップの練習なら出来そうじゃない。


「こんにちは、シャーリー先生」

家名のクリークソンが言いにくかったので、名前を呼ぶ許可がでたのである。

「こんにちは、アリシアお嬢様。今日も見学ですか」

「はい、あのステップの練習を一緒にしてもいいですか」

「えっと、アリシアお嬢様がですか」

「はい、邪魔にならないようにしますから」

「アリー、我儘を言ってはダメよ」

「えー、ダメですか」

「そうねぇ。エレノアお嬢様の邪魔にならないように、離れた場所ならば構いませんよ」

「先生いいのですか」

「ええ、アリシアお嬢様は、いつも大人しくきちんと座って見学していたし大丈夫でしょう」

「先生、ありがとうございます」

「アリー、先生の言うことを聞いて、大人しく邪魔をしないようにしてね」

「はい、分かりました」

「ワン、ツウ、スリー」のテンポで進んで行く。

ここで、問題が発覚した。

先生のテンポと合わないのだ。いや、正確にはエレノア姉さまと合わないのだ。

今、気がついた。足の長さが違うからテンポが合わないのだ。

歩幅の短い私の方が先に足がついてしまう。

困ったぞ。こうなると一緒に練習できない。

仕方がないので、ゆっくりと進み一歩ずつ足を止めて待つことにした。

こうなると、リズム感はなくなるがステップは覚えられる。

これが、年齢によって教え方が変わる一つでもあるのかも知れない。

無理に全部覚える必要はない。簡単なステップだけ覚えるのでも勉強になるのだ。

「はい、今日はここまでにしましょう」

「エレノアお嬢様もステップが上手になってきました」

「本当ですか。ありがとうございます」

「アリシアお嬢様も頑張りましたね」

「はい、掛け声に合わせるのが大変でした」

「そうですね。年齢が違いますからね」

「先生、エレノア姉さま、ありがとうございました」


「今日は、よく動きましたから、お疲れでしょう」

「長めに休憩をしましょう」

三歳の運動内容や時間は難しい。

やり過ぎたら、成長に影響が出るだろうし、適度な範囲が分からない。

『鑑定』してみれば、分かるかも。

『自分の健康・体調を鑑定』


アリシア・K・スティール

三歳(享年92歳)

健康 : 良好

体調 : 良好


希望した鑑定内容だけが表示された。

健康・体調も良好だから、このくらいの運動ならばしても問題ないのか。

あまり酷使する内容だと、足腰にも悪いだろうから、注意しないとね。


それからも、畑に行ってトムさんの手伝いをした。

ある日は、苗床に種を蒔いた。

小さな種だと難しいので、大きな種だけを任された。

どんな芽が出て花が咲くのか楽しみである。

トムさんにとっては、幼い少女の手伝いなど邪魔だろうに、邪険に扱うことは無い。

それは、この屋敷のお嬢様だからではなくて、毎日楽しそうにやってくる少女が可愛いのだ。

息子や孫たちは男ばかりなので、女の子が余計に可愛く思えてしまう。

普通の貴族令嬢ならば、土で汚れてしまうことなど嫌がるのに、アリシアはいつも楽しそうにしているので、自分の仕事が好かれているだと思い嬉しくなるのは当然だった。

水やりはカレンに手伝ってもらった。

ジョウロは重くて持てないから。

トムさんは、密かにアリシアでも持てるような、小さなジョウロを作ろうかと考えている。


エレノア姉さまの護身術レッスンにも参加した。

人混みから逃げるのは、得意だ。

伊達に都会暮らしはしていない。

街中や駅構内など、人が多い場所で人を避けながら歩くのは慣れている。

犯人から一対一ではすぐに捕まるだろうが人に紛れると違ってくる。

逆に、エレノア姉さまは、人混みが苦手だ。

当然だ。人混みの中などは行ったことがないのだから。

この訓練の時は屋敷から手すきの人に来てもらう。

レッスン室が人だらけになる。


大声で助けを呼ぶ訓練もする。

あまり大きな声は出せないが、幼児特有の高い声が遠くまで届くようだ。


そんなある日、事件が起きた。

外で過ごす時間が増えたので、護衛が付くようになった。

小隊長か副隊長が護衛してくれることが多かったが、この日は都合が悪かったようで、そのすぐ下の部下が来てくれた。

玄関に向かうと、初めて見る顔の人が居た。

なんだか、嫌な気分になった。

鳥肌がたち背中がゾクッとした。

これは、ダメなやつじゃないか。


近くに家令がいたので、思わず声をかける。

「家令さん、おはようございます。この前はお菓子をありがとうございました」

「今日もあのお菓子がいいので、料理長に頼みたいのですが、いいですか」

家令もカレンもポカンとしている。

「ああ、あの時はキャサリンと一緒だったかも」

「家令さん、案内してくれませんか」

「騎士様、すぐに戻りますから、お待ちください」

「ああ、あの時のお菓子ですね。では、ご一緒に行きましょう。さあ、カレンもですよ」

「すみませんね。すぐにアリシアお嬢様を連れて戻りますので、少々お待ちください」

「分かりました」


カレンは、私の意図に気がついたのか、硬い表情をしている。

廊下を歩くが、誰一人として声を出さない。

調理場に着いた途端、「はあー」と大きな声を出してしまった。

「どういうことですか、アリシアお嬢様」

「お水をください」

緊張からか喉がカラカラだ。

一気に水を飲みほした。

「いや、分からないけれど、あの人に着いて行ってはダメだと思ったの」

「そんな、曖昧な」

「そんなことはない。あの人を見たら、気分が悪くなったし、背中がゾクッとしたんだから」

「アリシアお嬢様、それは、とても大切なことです」

「カレン、お嬢様は、勘が働いたのでしょう。それを無視してはいけません」

「さて、でも、困りましたね。まだ、何も起きていないのですから、捕まえるわけには参りませんし」


そこに、料理長がやってきた。

「おい、こんなところで雁首揃えてどうした」

「あ、料理長」

「お嬢様も一緒に、どうされましたか」

「いや、実は・・・・・」

家令が今までの事を説明してくれた。

「奥様をお呼びしましょうか」

「でも、それではバレてしまいませんか」

「お茶をお持ちする振りをして、伺ってきましょう」


玄関からは調理場は見えないので、侍女が急ぎ足でお母さまのところに行ってくれた。

トントン「奥様、お茶をお持ちしました」

「入りなさい」

「紅茶とクッキーをお持ちしました」

ティーカップのソーサーに小さなメモを置いてある。

一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐに何事もないように振る舞う。

周りに気がつかれないように、そっとメモを読む。


『今日の護衛、アリシアお嬢様が不審に思う。調理場にいる。指示を待つ』

「今日の夕食の相談をしたいから、料理長のところへ行きましょう」


「アリシアちゃん、どうしたの」

「お母さま、今日の護衛の人は、たぶん、悪い人だと思う。顔を見たら気分が悪くなって背中がゾクッとしたの」

「そうなのね。すぐに話しをしてくれて良かったわ。そう感じたことは大事にしなさい。けして、甘くみてはいけませんよ」

「でも、どうしようかしら。まだ、何もしていないのよね」

「奥様、そうなんです。ただ、悪い感じがするだけでは捕まえることは出来ませんから」

「捕まえて、尋問するわけにもいかないわよね」


「奥様、私が一緒に行きましょうか。野菜を取りに行くと言えば、不自然ではないでしょう」

「それでは、アリシアお嬢様を囮に使うことになるではないか」

「私ならば、背も低いし相手も油断するんじゃないですか」

「そうねぇ」

「奥様 !!! いけません。まだ、幼いお嬢様を危険にさらすなんて」

「それもそうなのよねぇ。トムに先に連絡すればいいかしら」

「ああ、そうしましょう」

「誰か先回りをして、トムに連絡してくれ」

「畏まりました」

「それから、旦那様にも連絡してちょうだい」

「はっ」


「アリシアちゃん、これは訓練でも遊びでもないのよ。頑張れる」

「はい、頑張ります」

「カレン、アリシアちゃんを守れるわよね」

「はい、お任せください」

「えっ、カレンがどうして」

「あら、知らなかったの。カレンは可愛らしい見た目だけれど、武道派なのよ」

「えー、うそぉー」

「ふふ、以外でございましょう」

「わたくし、だから、この仕事についているんです」

「はあ、なるほど」


「さあ、いつまでもここに居ては怪しまれるわ。お菓子を持って行きなさい」

「アリシアちゃん、充分気をつけるのですよ」

「はい、分かりました」


「騎士様、お待たせしました。ケーキが焼けるのを待っていたら遅くなりました」

「いえ、構いません。それで、そちらの方は」

「ああ、俺は料理長をしてます。丁度いいので、一緒に野菜を取りに行くんですよ」

「そうでしたか」


料理長とは、あの料理がおいしかったとか、あのお菓子が美味しかったとか不自然にならないように会話しながら畑に向かった。

畑に着くと、すでにトムさんが作業していた。

「こんにちは、トムさん。今日もお願いします」

「アリシアお嬢様、おはようございます」

「おや、今日は料理長もご一緒でしたか」

「そうなんだ。調理場で合ったら畑に行くっていうから、一緒に来て夕食用の野菜を貰おうかと思ってね」

「そうかい。適当に取って構わないよ」

「ありがたい。何かお勧めの野菜はあるか」

「今日は、葉物なんかもいい出来だよ」

背中を向けて話しをしている二人に、騎士が近づいて行く。

剣を抜いて切りつけようとした時に料理長が振り返り短剣で切りつけた。

トムさんは、投げナイフで腕と足を狙い、見事に命中。

あっという間の捕縛だった。


「アリシアお嬢様、大丈夫でしたか」

一瞬の出来事で、あっけに捕らえていた。

「やっぱり、怖かったんですよ」

ハッと我に返って、二人を褒めたたえた。

「すごい。すごいですよ。二人共」

「料理長も振り返り返り討ちにするし、トムさんも投げナイフなんて凄いです。同時に腕と足を狙うなんて」

パチパチと拍手しながら、飛び上がって喜んだ。

「トムさん、私にも投げナイフを教えて」

「いや、お嬢様、怖くないんですかい」

「えー、どうして。トムさんカッコよかったあ」

「そ、そうですかい」


「アリシア !!! 」

「お父さま !」

お父さまにきつく抱きしめられる。

「あ~、アリシア、心配したんだよ。無事でよかった」

「アリシアが危ないと聞いたときは、心臓が止まるかと思ったよ」

「どこか怪我をしたところは無いか」

「はい、大丈夫です。料理長とトムさんがやっつけてくれました」

「料理長は振り向きざまに短剣で、トムさんは投げナイフでかっこよかったんです」

「カレンも守ってくれました」

「そうか。料理長もトムもカレンもありがとう」

「「「いえ、とんでもございません」」」


犯人の騎士は取り押さえられて、縄でぐるぐる巻きにされている。

「こいつか。じっくり聞いてやるからな。連れて行け」

「待って、お父さま。私も聞きたいわ」

「ダメだよ。アリシア。聞く必要はない」

「でも、狙われたのは私だよ」

「しかし・・・」

「ちょっと、聞くだけ」

「分かった。少しだぞ」


「ねえ、騎士様。どうして、こんなことをしたの」

「はっ、お前のようなお嬢様には分からないさ」

「それは、私でなくても分からないと思うわ」

「何不自由なく暮らしているお嬢様になんか、俺の事がわかるはずがない」

「当り前じゃない。わたしじゃなくても、あなたの事なんて分からないわよ」

「他人の事が分かるなんて言う人は、図々しい人だわ」

「面白いな。お嬢は」

「ギャンブルだよ。ギャンブルにのめり込んで負けが溜まったのさ」

「チャラにするかわりに、ここの子供を攫ってこいと言われたのさ」

「それは、私でなくても良かったの」

「ああ、誰でも良かったのさ。ただ、あんたが幼いから攫いやすかっただけだ」

「なんだとぉー」

「あなたは馬鹿ね」

「ああ!!!  ギャンブルなんて誰でもやっているさ」

「ギャンブルの事じゃないわ。もちろん、身の丈に合わないほど、のめり込んだのも馬鹿だと思うけれど、その事じゃないわ」

「なんで、誘拐を誘われた時に、お父さまに相談しなかったの」

「馬鹿を言え。そんな事お館様に相談できるわけないだろ」

「どうして」

「どうしてって、これだからお子様は」

「だって、こんな馬鹿な事をするならば、恥を忍んでお父さまに相談すれば良かったのよ」

「そんなことをしても、ギャンブルの負けはチャラにならないだろう」

「あなた、誘ったその人の言うことを信じたの。それこそ、馬鹿よ。そんなのあとで殺されるか、逆に犯罪者になったから脅されるんじゃないの」

「そんなわけあるか。ちゃんと約束したんだ」

「あなた、誘拐を誘う人を信用するの」

「お父さまに相談すれば、悪い人を捕まえる手柄が貰えたかも知れないのに」

「チャラには出来なくても、ボーナスくらいは出たかもしれないじゃない。それに騎士だって辞めなくて済むし」

「今はどう。犯罪者になって借金もある。騎士も辞めるしかない」

「判断を間違えたのよ」

「そんな・・・。おれは、おれは・・・」

「もういいだろ。連れて行け」


「「アリシアお嬢様、この度は申し訳ございません」」

小隊長と副隊長が土下座して謝ってきた。

「部下の監督不行き届きです。お詫びのしようもございません」

「やだ、土下座なんてしないでください」

「私が悪い事したみたいじゃないですか」

「お館様、申し訳ございませんでした」

「・・・・・」

「お前たちの処分は、追って沙汰をだす」

「「はっ」」


「アリシアお嬢様、次こそは、この命に代えてもお守りいたします」

「いやよ」

「えっ」

「自分の命を大切にしない人は信用できないわ」

「騎士は、命にの代えても主をお守りするものでございます」

「その考え方が嫌なの」

「どうして、自分の命を大切に出来ない人が他人を守れるの」

「命を軽く見ているか、粗末にしているように聞こえてしまうわ」

「そんなことはございません」

「私はそう感じるの」

「だって、自分の命を捨てたら誰が主を守り続けるの」

「どんな手を使っても、泥水を啜っても生き抜いてこそ、主を守れるんじゃないの」

「そんなことして助けてもらっても嬉しくないし、逆に罪悪感で一杯になるわ」

「一生後悔して生きていくなんて辛いじゃない」

「第一、家族にも顔向け出来ないわよ」


「ハハ、これはアリシアの勝ちだな」

「命は大切にしろ」

「これからは、生きて守り抜くんだ。そして、生きて勝ち抜くんだ。いいな」

「はっ」


「アリシア。帰ろうな。母様が心配しているからな」

「そうだね。早く帰ろう。なんだか、お腹も空いてきちゃった」

「料理長もトムさんもありがとう」

「いえ」

「じゃあ、皆帰ろう」


玄関に着くと、お母さまが待っていた。

「アリシアちゃん、無事だったのね」

「はい、お母さま。料理長とトムさんとカレンが守ってくれました」

「そう、よかったわ」

「料理長もカレンもありがとう」

「「はっ、有難きお言葉」」

「お母さま、お腹空いちゃった」

「あらあら、すぐにお茶にしましょうね」


「「「アリー !!!」」」

「大丈夫か」

三人に取り囲まれる。

「怪我は、怪我はないのか」

「はい、怪我はありません。料理長とトムさんとカレンが守ってくれましたから」

「そうか、カレンよくやった」

「ありがとう、カレン、アリーを守ってくれて」

「ありがとう、カレン」

「はっ、有難きお言葉」

「しかし、母上、どうして、アリーを囮にしたのですか」

「危ないでは無いですか。もしもの事があったらどうするつもりだったのですか」

「そうですよ。お母様、あんまりです」

「そうです」

「母上は、アリーが大切ではないのですか」

「あら、酷い言われようね」

「当然ですよ。母上はアリーを見捨てたんですから」

「人聞きの悪い事言わないでちょうだい」

「私は、料理長やトムにカレンを信じただけですよ」

「それでも、万が一ということがあります」

「そうね。絶対安全とは言い切れないわね」

「それでも、あの騎士を捕まえるには必要な事だったのよ」

「今回見逃せば、次はどんな手を使ってくるか分からないもの」


「その辺にしなさい」

「でも、父上」

「母様だって、仕方なくこの方法を選んだんだ」

「次は、お前たちだったのかも知れないんだぞ」

「それでも、アリーが狙われるよりはましです」

「相手は、どんな連中なのかも分からないんだ」

「判断を下すときに次なんて無いんだ。覚えておきなさい」

「いつだって、決断を下すのは一瞬なんだよ」

「母様を攻めるのは筋違いだ」

「お前もその決断をしなくてはいけない時がくる」

「一瞬の迷いが命取りになるんだ。普段からすぐ決断出来るようにしておきなさい」

「はい、分かりました」

「エレノアもエリックもそうだぞ」

「「はい」」


「じゃあ、お茶を飲みながら、説明してもらおうか」

「カレンいいかな」

カレンが玄関に向かった時から説明した。

「アリー凄いわ。護身術のレッスンが上手に出来たのね」

「はい、おかしいと思ったので、すぐにそばにいた家令さんに話し掛けました」

「でも、助けてー、止めて―は言う機会がありませんでした」

「いやだわアリーったら、訓練ではないのだから、言わなくて済んでよかったのよ」

「アリーすごいな。訓練をすぐに実行できるなんて」

「はい、先生のおかげです」

「そうだな。先生には褒美を出さないとな。アリーにも分かるようにレッスンしてくれたんだ。ありがたいよ」

「私も先生のレッスンをもっと真剣に受けるわ」

「僕もそうします。今度は僕が助けに行けるように頑張ります」

「僕も」


「さあ、アリシアも疲れただろう。少し休みなさい」

「今は、興奮しているから寝られないだろうが、気持ちは疲れているはずだからね」

「それとも、父さまと一緒に寝るか」

「うーん、どうしようかな。とりあえずは、一人で寝てみます」

「そうか、カレン頼んだよ」

「はい」


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