詩小説へのはるかな道 第105話 寂しがり屋の沼の主
原詩: 夕方に沼に行ってはいけないよ
村の婆さま 沼のほとりで語ってくれた
村のはずれのこの沼には
寂しがり屋の主がいて
子供を闇へ連れていく
夕方に沼に行ってはいけないよ
ああ 日が沈んできたな
ほら お前の足元
泥の中から 冷たい手が
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詩小説: 寂しがり屋の沼の主
夕暮れどき、村の外れにある沼は、まるで息を潜めて誰かを待っているようでした。
「夕方に沼に行ってはいけないよ」
幼いころ、村の婆さまがそう言って聞かせてくれました。
寂しがり屋の沼の主が、子どもを闇へ連れていくのだと。
大人になった今でも、その言葉だけは妙に胸に残っています。
だからこそ、私は確かめに来たのです。
日が沈みかけ、空が紫に染まります。
沼の表面は風もないのにわずかに揺れ、まるで誰かが水面の下で息をしているようです。
「……いるのかい」
足元の泥がぬるりと動き、冷たいものが足首に触れました。
泥の中から、白く細い手が伸びてきています。
心臓が跳ね、逃げようとしましたが、手はまるで「行かないで」と言うようにそっと触れてくるだけでした。
恐怖よりも、奇妙な哀しさが胸に広がりました。
――寂しがり屋の主。
「でも大丈夫よね。もう子どもじゃないもの。連れてなんかいかないわよね」
そう言って足を引こうとすると、泥の中からかすれた声が響きました。
「……子ども、だよ」
ぞくりとしました。
「わたしは二百歳、百歳だってまだ子ども」
白い細い手は、さっきよりも強く確信を持ったように絡みついてきました。
そして泥の中から、嬉しそうな声がしました。
「……お前、まだ二十代だろう」
沼の水面が、夕闇の中で静かに笑ったように揺れました。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌: 寂しがり屋の沼の主
一 紫の刻
夕暮れの
息ひそめたる 沼の面
待つものありと
胸だけが知る
二 婆さまの声
「行くでない」
幼き日の戒めが
大人の足を
なおも引きとめる
三 揺らぐ水面
風もなく
揺れる水面の その奥で
名もなき呼吸が
わたしを見ている
四 白い手
泥よりも
静かに伸びる 白き手は
恐れよりまず
哀しみを呼ぶ
五 寂しがり屋
「行かないで」
触れた指先の ぬくもりに
孤独のかたち
そっと知りたり
六 子ども扱い
「子どもだよ」
二百年の時を
生きしものには
わたしも幼し
七 確信の手
絡みつく
その細き手の 確かさに
逃げる気持ちが
ふいに揺らいだ
八 嬉しき声
「二十代」
泥の底より 弾む声
夕闇の沼
笑みをひそめる
九 境界の揺れ
連れてゆく
つもりはないと 言いながら
境界線は
水に溶けゆく
十 沼の主へ
寂しさを
抱えたままの その声に
応えたくなる
夕暮れがある
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




