入学 08
「待たせてごめん」
耳元でリオン王子の声がしたと思うと、
私の横を颯爽と駆け抜けそこからは一瞬だった。
あまりにも圧倒的な氷魔法で2人を拘束していく。
「くっ……こんなもの、俺の炎で溶かしてやる……っ」
「無駄だ。リヒトごときが俺の魔法に勝てると思ってるのか?」
リヒト、と呼ばれた男子生徒の抵抗は虚しく、必死に吐いた炎も表層を少し湿らす程度だった。
これがこの国の第2王子、リオン様……
いつの間にか気絶していたポピーちゃんの縄をほどいてくれたリオン様は、拘束して身動きの取れない2人と向き合う。
「お前たち、これがどれだけの罪になるのか分かっているのか」
「リオン様、違いますわ。これは我が学園の不正を正そうとしたまでで_」
「……黙れ」
「もしもーし、あれ、色々終わっちゃった?」
「アデル、遅いぞ」
「ごめんね、これでもリオンに言われてから急いだんだけど」
「それで、お前たちは先ほどからセシルが不正を働いたと主張していたな」
「そうです、王子_」
「アデル」
「はーい、これは国宝級にレアな魔力量測定器の、にゃぼっとちゃんです!」
「この魔力量測定器は見た目はこれだが優れもので、この国に1つしかない。そして、手を口につっこむと魔力量が正確に彼の中に刻まれ、誰もそれを改ざんできない。王宮魔術師でさえもだ。」
「それではにゃぼっとちゃん、セシルちゃんの魔力量はどれくらいだったの?」
「うーんと、……1260にゃ」
「は……!?」
「失礼ながら王子、そのにゃぼっと壊れているのでは……?魔力量が1000を超えるなんて聞いたことがありません」
「確かに、俺も880程度だしな。しかしながらこれは、紛れもなく国家が定めた方法での正式な記録だ。この結果を愚弄することは国への愚弄でもある。もう二度と不正などふざけた主張をするな」
「はい……」
「アデル、罪人の引き渡しとそこの気絶している女子生徒を保健室まで運んでくれ」
「いいけど、にゃぼっとちゃんは後でリオンが返してね」
「わかってる」
「さてと、立てるか?」
「あっ、はい……」
リオン王子にそう聞かれ、立ち上がろうとするけれど安心して腰が抜けてしまったようで、上手く立ち上がれない。
「悪いな」
見かねた王子がぐいっと両手で抱え、お姫様抱っこの形で運ばれた。
魔法も使えず、友達も救えず、腰が抜けて歩けず王子に抱きかかえてもらうなんて、恥ずかしくて消えてしまいたかった。
「保健室まで連れていく。我慢してくれ。」
「ありがとうございます。……リオン王子には、お恥ずかしいとこをお見せしてしまい、申し訳ありません」
「何がだ」
「アルストロメリアの一員なのに、不甲斐ない姿を見せてしまって……」
「……俺は、かっこよかったと思う」
「……え?」
「かっこよかった、と言ってるんだ。セシルのような志高い仲間に入ってもらえて、うれしく思う」
「……」
「アルストロメリアにようこそ。これからも仲間としてよろしく頼む。」
「……っ、はい!ほんとに……嬉しいです……こちらこそ……よろしくおねがいします……」
身も震える怖さからの解放と人肌のぬくもり、トクトクと聞こえる心音……
いつの間にか意識が遠のいていった。
◇◇◇
「ぅん……」
「セシルちゃん!みんなセシルちゃんが起きたわ……!」
「ごめんなさい、私いつの間にか寝ちゃってたみたいで……。あっ、ポピーちゃん!ポピーちゃんは無事ですか……!」
「あなたのお友達は無事よ。ただ……そうね、ちょっと受けたことがショッキングな内容だったの。その後も苦しんでいたから、王宮魔術師の方を呼んで、その部分だけ記憶を消させてもらったわ。今はその反動で寝ているの。起きたらすっかり、放課後の記憶だけないことになるわ。」
「そうなんですね。それなら私は私の中だけに今日の出来事を留めておきます」
「えらいわね。それじゃ、私たちは事後処理が残っているから」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
「色々あったからな、ゆっくり休め」
「セシルちゃん、怖かったら僕がいつでも添い寝してあげるからね」
「それはちょっと……遠慮しておきます」
こうして、ロベリア騒動は幕を閉じた。
その後アデルさんから聞いた話によると、
リヒトさんとロベリアは3か月の停学処分となったそうだ。
私の家はというと、さすがにアルストロメリアという地位についた私に強くは出られないようで、義父からも、ロベリアがすまなかったとだけ告げられた。
ちなみに私が寝ている間に、事件のあらましをアデルさんがソニアさんに伝えたところ、リヒトとロベリアにそれはもう怒っていたらしく、2人を仕留めに行くのを止めるのが大変だったらしい。
心から怖くて苦しかったのに、アルストロメリアが大好きになった1日だった。




