入学 07
あの教科書が焼けた事件から1週間、これといって嫌がらせはなく、アルストロメリアに私が入ったことも慣れてしまえばみんな落ち着くもので、日常に溶け込みつつあった。
かく言う私も、キラキラした先輩方とのお茶会にも慣れ、最近は普通に会話が出来るようになってきたと思う。
シリル第3王子はなぜかいつもどこかへ行っていて、お昼ご飯にもお茶会にもいないので、話題はいつも私への質問ばかりになっており、緊張はしてしまう。
「セシルちゃんは何か欲しいものはあるかしら?」
「夏休みの予定はある?よければうちの領地に遊びに来ない?」
「セシルちゃんは……」
興味を持っていただくのは大変嬉しいのだが、私なんかが先輩方の思考領域を少しでも奪ってしまっていると思うと、ほんの少し申し訳ない気持ちにもなる。
今日は珍しく1日の最後の授業の枠にアルストロメリアでの総会があり、少し長引いてしまったため、ポピーちゃんとの放課後勉強会に急いで向かっていた。
教室で待ち合わせだったと思うのだが、ドアを開けても教室には誰もいない。
「あれ……?お手洗いかな……?」
しばらく席に座りぼーっと待ってみたが、ポピーちゃんどころか誰も来なかった。
胸騒ぎがして、何かトラブルでもあったのかと心配になる。
しばらく歩き回って手当たり次第に生徒に声をかけ、ポピーちゃんを見なかったか質問したところ、体育館裏で目撃されたのが最後だった。
嫌な予感がビリビリとし、急いで体育館裏に向かう。
体育館裏に着くと、奥の倉庫の扉がほんの少しだけ開いていた。
扉を開けると、そこには見慣れない男子生徒とロベリアがポピーちゃんの髪の毛を引っ張っていて、縄で縛られたポピーちゃんは苦しみながら横たわっていた。
あまりに酷い光景にめまいがする。
ロベリアがいるということは、私のせいで、ポピーちゃんが。どうして、どうして、どうして、
「やっとおでましかよ、遅すぎてそろそろ皮膚に火傷跡残すところだった」
「そうねえ、私の氷魔法じゃあまり跡はつかないのよね、精々寒いくらいで」
「でも、口と鼻凍らせて苦しんでたのは面白かったな」
「そう……?意外と難しいのよ、殺さないギリギリを責めるの」
そう言ってニタニタ笑う彼女たちと、瞳孔が開き、恐怖にもがき苦しむポピーちゃんとの対比はあまりにもグロテスクだった。
とりあえず救わなきゃ、と思った。
でも、でもどうやって?
今まで人に魔法を向けたこともなければ、コントロールしたこともない。
ポピーちゃんを傷つけず、私1人で2人を倒す方法が見当たらない。
パニックになってはだめだと思いながらも、ポピーちゃんと目が合うたびに、心臓が脈打ち動悸が早まる。
「それでさ、セシル、私たちあんたに1つお願いがあんの」
「それ叶えてくれたらさ、こいつすぐにでも返すよ」
「……願いは、なんですか」
「あんたがアルストロメリアを辞めること、自分が不正をしたと認めること」
「……何を言って……!」
「うるさい!!大体あんたがアルストロメリアになるなんて不正でもしないと出来ないに決まってるじゃない!昔こっそり、一度だけ屋敷であんたの魔法を見たことがあるわ。手のひらでちっさい炎を作ってそれで満足したような顔して」
「……」
「ほら出たいつもお決まりのだんまりね!でもだってそうでしょう!アルストロメリアになるためには、魔力量が一番大事だって誰もが知ってる!なのにあんたは、アルストロメリアなのにこの状況で一般生徒の私たち2人に攻撃さえしてこない!自分の魔力に自信がないって言ってるようなものじゃない!そんなに嘘つきでいたい?早く不正を認めなさいよ!」
「……っ」
「そうやっていつまでも黙っているつもり?いいわよ……わかった。
あんたがいつまでも行動を起こさないっていうなら私たちも考えがあるわ」
そう言って顎をくいっとするロベリア。
呼応したように男が私の髪の毛を引っ張った。
あまりの苦痛に顔を歪めてしまう。
「あんたが1分だんまりするごとに、あんたの身体に1つ火傷跡を増やしていくわ。傷は女の恥ですものね。婚約もできなくなって、捨てられて。そうなりたくなかったら、早く罪を認めなさい!」
「セ、セシルちゃん……ダメ……」
ポピーちゃんの小さい声が聞こえる。
「……っ」
「5,4,3,2,1,0……1分ね……リヒト」
「こんなに綺麗な身体に傷をつけるなんてな……悪く思うなよ」
「……待って!」
「なんだよ、命乞いか?」
「リヒト、黙りなさい。きっと火傷したくない一心で懺悔の覚悟を決めたのよ。なあに?セシル。早く言ってごらんなさい。」
「……私は、確かに魔法をうまくコントロールも出来なくて、戦闘経験もなければ、こうして今だって1人でポピーちゃんを助けることもできない。
でも、それでも!私は不正なんて一切してないの。
何よりアルストロメリアが、私にとっては既に心地よくて大好きな居場所で、その名とメンバーに恥じぬようにいつまでもアルストロメリアとして誇りをもっていたい。
だから絶対に不正は認めないし、この先もずっとアルストロメリアであり続ける!」
「……は?あんた自分で何言ってるか分かってるの!認めない限り、あんたの身体を焼き続けるわ!それで痛みと恐怖で泣き叫ぶのよ!」
「わかってる!わかってるけど!!」
「アルストロメリアのメンバーに恥じるような生き方はしたくない!」
ガシャーンッと大きな音がした。
まるで近くで雷が落ちたような。




