暖気
田舎道を車で走行中、やけに身体が寒くなってきた。これから山道を通って帰宅するためには、まだ2時間以上かかりそうである。
「温かいものが飲みたいし、トイレにも行っておきたいなあ。」
ちょうど山に入る手前の場所にコンビニがあった。
「お、フードコートみたいなのもある。」
東京のコンビニでは見かけない、ちょっとした飲食スペースが店内に見えた。慣れない土地を長く走るということもあり、コンビニ内で少し休むことにした。
車の外に出て、驚いた。
「う、寒すぎ!」
車内も冷えるわけだ。雪でも降りそうなくらいに、外はキンキンだ。
一方で、コンビニの店内の温かいこと。ホットコーヒーと肉まんを買い、フードコートに向かう。ペロッと平らげた後に、急な睡魔に襲われた。
「まあ、少しくらい大丈夫か・・・。」
机に突っ伏すようにして、少し仮眠をとることにした。
―――――
「おにいさん、おにいさん!」
誰かが肩をトントンたたいている。
「おにいさん、起きて!」
それはおばあちゃんの店員だった。
「あ・・・はい。すいません。」
「いえいえ、別にいいんだけどね。もう3時間はここにいるから心配になっちゃって。」
「3時間・・・そんなに・・・。」
アラームをかけておけばよかったと、今更後悔するが、当然のことながら後の祭りだ。
「おにいさんはこの辺の人?」
「いえ・・・仕事の用事でこちらに来たもので。」
「・・・だと思った。だったら尚更に早く帰った方がいいですよ。・・・本降りになる前に。」
「・・・本降り?」
窓の外を見ると、白くてふわふわしたものがチラチラと舞っていた。
「うわ・・・雪だ。久しぶりに見たなあ。・・・ってそんなこと言っている場合じゃないか。すいません、失礼します。ご心配、ありがとうございました!」
急いで支度をして車へ向かう。
「明日の仕事のこともあるし、早く帰らないとな。」
エンジンをかけて、急いで帰宅しようとするが・・・。
「あれ、前が見えないんだけど。」
フロントガラスが真っ白に曇って、何も見えない。
「どうしよう、危なすぎる。・・・ひらめいた。ウォッシャー液とワイパーで曇りを取り除けば・・・。」
しかし、これが逆効果だった。
「こ、凍るんだけど・・・。」
フロントガラスだけでない。頭の中も真っ白だ。
落ち着いて、スマートフォンで対策を調べる。なるほど、デフロスターというものを使えばいいらしい。
「お、だんだんと前が見えてきた。」
普段使わない機能である。いや、今まで一度も使ったことのない機能である。こんな情報をすぐに知れるのだから、文明の利器はありがたいものである。
曇りが取れてから、急いで車を山道へと走らせた。
―――――
山道を走れば走るほど、辺りの景色は真っ白になっていった。降る雪が激しさを増している。
周りも走行速度を落としており、数珠繋ぎの状態になっていた。
「おっと・・・。」
長い坂道を走行中のところである。ついに、止まってしまった。車一台一台のランプが坂の上まで続いており、赤い2本線になっている。そして、全く動かない。
「この状況で事故かよ・・・。このタイミングで!くそ!どんな初心者だよ!全く!」
ボンネットに積もる雪のように、イライラが蓄積していく。当然追い越すことはできないし、後ろに引き返すこともできない。身動きが、取れない。
「お、少し動いた。」
体感、一時間は経過したような気がする。ようやっと、前方の車が動き出した。
「よし、これでようやっと家に帰れる。」
サイドブレーキを下ろし、ブレーキから、アクセルへと右足を移し、思いっきり踏み込んだ。
『ブウウウウン』
タイヤの回転音が聞こえるが・・・車は一瞬後退した。
慌てて再度、ブレーキを踏む。
「あっぶねええええ。スリップしちゃったよ・・・。」
ルームミラーから見える、後続車の運転手の顔。驚きで、目がまんまるだった。
ただでさえ車間距離が短い状態。あと1mでも後退したら、衝突事故になるのは明白だった。
落ち着いて、もう一度アクセルを踏もうとした時、俺は分かってしまった。
「・・・この車、ノーマルタイヤだ。」
読んでいただき、ありがとうございました。




