夏に舞う雪
おじさんは、あまり話さない。
話せない訳ではないと思う。家族と一緒にいる時は、お母さんとも、お父さんともよく話しているのを見る。
でも、こうして2人きりで一緒に車に乗っている時は、ほとんど声をかけてくれない。
1時間くらい一緒にいて、唯一の会話は、
「エアコン効きすぎてないか?」
「いいえ、大丈夫です。」
「暑がりだからガンガンかけてるので、寒かったら言ってね。」
「はい。」
である。
おじさんは、僕のことがあまり好きではないのだろう。
つまらなく、窓からぼうっと外を見ている。辺りの田んぼは夕暮れ間際でオレンジ色に染まっている。
「エヌくん。ちょっと寄り道してもいい?」
珍しく、おじさんが口を開いた。
「いいですよ。」
「ありがとう。今の時期だけだから。面白いものを見せてあげる。」
おじさんは、脇道に入ると小さな橋の近くに車を停めた。
「橋の上、見てご覧。」
「橋の上・・・ですか?」
見ると・・・夕暮れに染まった橋の上で、雪が降っていた。
「・・・雪だ。」
「おお、確かに。雪に見えるかも。」
「もっと近くに行ってもいいですか?」
「いいけど、虫とか苦手じゃない?」
「え、虫!!!」
「・・・うん。」
おじさんは説明を始めた。
「あれはね、カゲロウっていう虫なんだ。幼虫の頃は川の中で過ごして、この時期になるとああやって一斉に成虫になる。」
たしかに、よく見ると。羽が生えて羽ばたいている。真っ白な。透き通るような姿だ。
「あと、道路が真っ白になっているのは分かる?あれはね、全部死体。可哀想なのはね、2年近く川の中で過ごして、ようやっと川の外に飛び出したと思ったら、その命は2週間もないんだ。
それに、大人になった彼らには口がない。ものが食べられない。生殖器がないから交尾ができない。・・・エヌくんにはちょっと難しいかな。そうだな、つまり・・・恋愛が出来ないみたいなものかな。」
ボクはポカンと口を空けていた。
おじさんは一通り説明を終えると、車のエンジンをかけ、ひと言
「おじさんも似ているよ。」
と言った。
意味は分からない。ただ、ボクはその時おじさんが好きになった。




