道路を舐める人
ほとんど車の通りがない山道にしては、除雪が進んでいた。でも、日影になっている場所は、やはり雪が残っており、念の為に冬用タイヤにチェンジしておいたのが功を制す。
「それにしても、絶景だなあ。」
つい、目が車窓の外へと向いてしまう。山中の木々は落葉しているが、ふわふわの白い花を満開に咲かせていた。
「おっと!」
山の景色に気をとられている余り、前方をよく見ていなかった。
慌てて急ブレーキを踏む。
おばあさんが道路上で倒れていたからだ。
「大丈夫ですか?」
道路わきに車を止めて、救急車を呼ぶ準備をしつつ、おばあさんに声をかけた。
「ほえ?」
「あ・・・大丈夫ですか?良かった!生きていて!」
「何ーあんた。ワシが死んでいたと思ったんかね?」
「ええ。だって、倒れているように見えたもので。」
「はっはっは。そうかい、そうかい。それはしょうしいなあ。」
おばあさんは、泥で汚れた手で、ぼさぼさに乱れた白髪をかいた。
道路に這いつくばっていたせいで、服も溶けた雪で濡れている。
「おばあちゃん、それにしても危ないですよ。こんなところで横になっていては。」
「ただ横になっているんでねえよ。舐めているんでよ。おいしいんでよ、しょっぱくて。」
「舐める?この道路をですか?」
「そうでよ。」
「でも、ここだと轢かれちゃいますよ。」
「いんや・・・ここじゃねえといけねえんだ。」
「せめて、車の通らない道路脇にずれた方が・・・。」
「だから、ここじゃねえといけねえんだ!」
おばあさんは、語気を荒げた。
「おめえバカじゃねえの?融雪剤が撒かれるのは車道に決まっているでねえか!」




