第5話 好きな子の家に乗り込む
数ある作品から本作品を見ていただき本当にありがとうございます。
初連載作品です。
よろしければ読んでいただければ幸いです。
放課後、工藤さんの案内のもと、3人で工藤さんの家に向かった。
「ここです。」
工藤さんの家は一軒家にしては大きく、これぞ豪邸という感じの家だった。広めの庭もあり、玄関にたどり着くまでにも少し歩かされた。玄関に着くと工藤さんが鍵を取り出し、鍵を開け玄関のドアを開ける。
「ただいま戻りました。」
玄関に入り、工藤さんが声を掛けるとパタパタと誰かが走ってくる音が聞こえ、やがて玄関に若いメイドが現れた。
「お嬢様。お帰りなさいませ。」
彼女は俺らを見て一瞬固まるが、すぐに平静を取り戻し丁寧なお辞儀をした。友人を連れてくるという話は聞いていたが、それが男性だとは思わなかったのだろう。
「ご連絡しましたが、彼らが私の友人です。」
工藤さんが俺らを紹介する。俺らはそれに合わせて頭をさげ、メイドさんに挨拶をした。
「初めまして。時見翔です。」
「新藤健吾です。」
「時見様に新藤様ですね。ようこそいらっしゃいました。私はこの屋敷でメイドを勤めさせていただいております沢田と申します。」
沢田さんは俺等に一礼し、頭をあげると、工藤さんに向き直った。
「客室にお連れすればよろしいでしょうか。」
「いいえ。まず恵那に紹介するわ。」
俺がお願いした2つのお願いのうち1つは妹さんと会わせてほしいという事だった。沢田さんは一瞬固まったが嬉しそうに笑った。
「もしかしてお嬢様のいい人でしょうか。」
どうやらいきなり妹に紹介すると言ったので変な誤解をしたようだった。俺と健吾は思わず顔を見合わせる。工藤さんは最初何を言っているのかわからなかったのか、首をかしげていたが、やがて意味が分かったのだろう。いきなり顔を真っ赤にして首を大きく横に振った。
「ち、ちがいます!!ただ友人を紹介するだけです。」
「それは残念です・・・。ではご案内させていただきます。」
「本当に違うんだからね!!」
「はいはい。わかりました。」
沢田さんは楽しそうに笑う。工藤さんとメイドさん達で仲がいいのだろう。まるで仲のいい姉妹のようだ。笑顔を見せつつ、俺らを連れ屋敷の中を歩き出した。沢田さんに連れられていくと、やがて一室の部屋の前に着いた。
「こちらです。」
「ありがとう。後は私達だけで大丈夫です。下がっていて。」
「承知しました。」
沢田さんは俺らに一礼し、下がっていった。しかし去り際に俺らに向かって小さい声で囁いた。
「お二人とも、頑張ってくださいね。」
「もう!!沢田さん!!」
「わあ、怖い怖い。」
楽しそうに笑いながら沢田さんは去っていった。俺らは苦笑するしかできなかった。工藤さんは顔を真っ赤にしつつ俺らを見る。
「2人とも違うからね!!」
「わかっているって。そもそも俺がお願いしたんだから。本来の目的を忘れないようにな。」
「!!そ・・そうね。」
工藤さんは本来の目的を思い出したのか何度か深呼吸した。そしてドアをノックする。すると扉の向こうから「はあい」という声が聞こえてきた。
「恵那。ただいま。ちょっといい?」
「お姉ちゃん?どうぞ。」
工藤さんが扉を開けると、ベッドに寝ていた女の子が体をおこしているのが見えた。年は14歳ぐらいだろうか。顔は工藤さんに似ていたが、身体が細く、病気であろうというのが一目でわかった。工藤さんの姿を見て笑顔を浮かべるが、すぐに咳きこみ始めた。
「大丈夫!?無理しないで。」
工藤さんが妹さんに駆け寄る。そして彼女をそっとベッドに押し戻す。
「お姉ちゃん。ごめんなさい。」
「いいの。私の友人を紹介したかっただけなの。気分転換になると思って。」
そういうと妹さんはぱっと顔を輝かせた。
「お姉ちゃんの友達!!会いたい!!」
「よかった。2人とも入って。」
彼女に言われて、俺らも部屋に入る。妹さんはキラキラした目でこちらを見ていた。
「初めまして。時見翔です。」
「俺は小さい頃あったことあるけど覚えているかな。新藤健吾です。」
俺は妹さんの『履歴書』をすぐ取得する。これで目的の一つは達成できた。妹さんは健吾を見てすぐに嬉しそうな顔をした。
「初めまして。工藤恵那です!!あ、健吾さんは覚えてますよ。小さい頃にお姉ちゃんと一緒に遊びましたよね。」
「あ、覚えていてくれたのか。嬉しいよ。」
健吾が嬉しそうに笑う。健吾と妹さんに面識があることは知らなかった。2人はわずかな時間だが昔話で盛り上がった。だがすぐに妹さんが工藤さんを質問攻めにしていた。
「それでそれで!!どっちがお姉ちゃんの恋人候補なの?」
「ちょっと恵那!!そんなんじゃないってば!!」
「でもお姉ちゃんが誰かを家に連れてくるなんて初めてじゃない!!」
「それはそうだけど・・・」
「わたしが見るに・・・こほっ!!こほっ!!」
話途中で妹さんが咳きこむ。興奮していたのだろう。慌てて工藤さんが背中をさする。
「ごめんね。また今度にしよう。また連れてくるから。」
「・・・・うん。わかった。ごめんなさい。健吾さん。時見さん。」
そういう彼女は悲しそうな顔をしていた。きっと来ないと思っているのだろう。それに加え、彼女も自分の死期を察しているのかもしれない。その姿を見て、健吾が妹さんに近づいて、ベッドの前に膝をつき目線を妹さんに合わせる。
「約束するよ。必ずまた会いに来る。だから指切り。」
そう言って小指を出して妹さんに向けて差し出す。妹さんは最初はきょとんとしていたが、すぐに嬉しそうに小指をだして健吾の指と絡ませる。
「嘘ついたら針千本のます!!指きった!!」
妹さんがそう言い、指をきる。健吾さんも嬉しそうに頷く。工藤さんもその様子を見て嬉しそうにしていた。
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。全員が扉の方向を見る。
「どうぞ。」
工藤さんが扉の方に向かって声をかける。声が聞こえたのかドアが開く。そこには40代頃とみられるスーツ姿の男が立っていた。それは工藤さんに胸糞悪い提案をした執事だった。
読んでいただきありがとうございました。
他にも短編を投稿しておりますので、よろしければ読んでいただければ幸いです。