第2話 未来の書換
数ある作品から本作品を見ていただき本当にありがとうございます。
初連載作品です。
よろしければ読んでいただければ幸いです。
「なるほど・・・。直視した人の過去・未来を視ることができるし、個人情報を知ることができると。かつ、一度でも視た人は、資料化されてストックでき、何時でも映像や情報確認可能か。また過去・未来を視ることで、資料が更新されて情報量を増やすことができる。能力というより異能だな。」
「俺はストックしたデータを『履歴書』と呼んでいるけどな。というか信じるのか?こんな突拍子もない話・・・。」
俺の問いに健吾は肩を竦める。
「お前じゃなかったら信じないよ。妄想はやめろと一蹴する。ただお前だと逆に納得いった部分も多い。過去に俺を助けられたのも、詩織を時々助けられたのも未来を視たんだろ?」
「・・・・ああ。」
未来を視て健吾が困りそうな時や、工藤さんが怪我しそうだったり危険な目にあいそうなとき、先回りして助けるようにしていた。
「やっぱりお前はお人好しだよ。自分のためじゃなく他人のために使うなんて。」
「そんなことないさ。自分の未来は視ることができないんだ。だから暇つぶしに他人の情報を収集していただけだ。」
「でもそれでやったことは他人を害することじゃなく、他人を助けることだろ。いいやつだよ。」
「健吾・・・・・。」
健吾の言葉に思わず涙が出そうになった。普通はこんな話をすれば頭がおかしいと思われる。無条件に信じて貰えるのがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
「情報を収集できるのはわかった。じゃあ次だ。どうやって未来を変えるんだ?」
「近い未来を変えるのは簡単なんだ。例えば俺と健吾がじゃんけんをする。俺がパーを出そうと思っている時に、健吾の未来を視ることによってチョキをだすのが分かる。それで俺が出す手をグーに変えたら未来は変わるだろ。」
「それはそうだな。だがそれだと遠い未来は変えられないんじゃないか?」
「そうだ。これは遠い先の未来を思い通りに変えることは出来ない。」
遠い未来というのは現在の連続だ。5秒後の未来は思い通りに変えることができるかもしれないが、10年後の未来を思い通りに変えることは不可能だ。
「なるほど。完璧というわけではないんだな。」
「そうだな。ただ1日先までという限定ではあるが、未来を変えることは可能だ。」
「ほお。」
健吾が興味深そうにこちらを見る。そう。未来を変えられる唯一の方法だ。
「未来を視ている人の周囲に俺がいる場合に限るんだが、未来を変えたい時、俺がその時の行動方針を強く思うことで、その前提の未来に書き変わるんだ。」
健吾が首をかしげる。確かにこの辺りは分かりづらいだろう。
「よくわからないな。こうしたいって思うだけでいいのか?」
「さっきのじゃんけんを例に出すが、俺と健吾でじゃんけんを3戦するとするだろ。1戦目は目の前の未来だから健吾の少し先の未来を視れば予測可能だ。ここまではいいよな?」
「ああ。」
「だけど2戦目、3戦目で出す手は、1戦目、2戦目の結果で手を変える可能性があるよな。」
「ああ。言われてみれば確かに。」
じゃんけんで相手がグーを出したから今度はパーを出すはずと考えが変わる可能性はある。
「だから3勝したいときは、毎回未来を視るんじゃなくて、まず1戦目勝つという結果を固定して2戦目の出す手を視る。そして2戦目も勝つという結果を固定して3戦目の未来を視るんだ。俺の行動を固定化することで未来を固定化できるんだ。」
「固定?」
「ああ。俺が視ている未来を固定することができる。じゃんけんの場合なら1戦目は勝てる未来を固定できる。変化する未来をピンで止めるみたいなイメージかな。」
「ほう。じゃあそのじゃんけんの場合だと1戦目勝つ未来を固定して、翔が2戦目にチョキを出す場合、パーを出す場合、そしてグーを出す場合とそれぞれ見れるのか。そして2戦目も勝つパターンを見つけたら、それも固定した状態で3戦目もそれぞれ視る事ができるのか。」
「その通りだ。ただどんなに頑張っても今は1日先の未来しか固定できない。それ以上は脳が耐えられなかった。」
どれだけ分岐をするのかは関係なく、1日先までが限界だった。2日目に入ると頭痛が酷くなり強制的に能力は解除されてしまった。そして反動でしばらく能力が使えなくなった。
「つまり簡易のシミュレーションみたいなことができるのか。かなり万能じゃないか。それ。」
「いや、そんな万能じゃないんだ。さっきのじゃんけんのようであればわかりやすいんだが。未来を見るのは真っ暗な道を歩いているに近い。道は一本道だが、俺が行動を変えようと強くと思うことで別の道が出てくるんだ。変えるタイミングが1秒違う、とる行動を少し変えるだけで全く違う道になるんだ。変えようとしないと道は出てこないし、逆に色々な行動を考えるとそれだけ道ができるから迷う。」
「うーん。じゃんけんのところはわかったが、違うパターンだと分かりづらいな。」
「例えば、朝、工藤さんが俺の隣を通るとするだろ。通り過ぎる1秒前に声をかけた場合と、通り過ぎた1秒後に声をかけた場合で工藤さんの行動は変わるだろ。かつ俺が小声で声をかけても気づかれないだろうし、大声で声をかけた場合はびっくりするだろうし。」
タイミングが1秒ずれる、表情・行動がわずかに違うだけで未来は変わってしまう。先ほど例にあげた声をかける件については、大きく未来は変わらないかもしれないが、場合によっては人の生き死にまで影響する可能性がある。健吾もようやく理解できたように頷いた。
「なるほど。タイミングと行動内容が結構シビアなのか。」
「そう。だいぶ先まで視ていて、望む未来じゃないと分岐点まで戻らないといけない。下手に行ったり来たりすると現実の時間が未来を見ている時間まで来ちゃうこともあるしな。さっきの例だと俺が色々考えているうちに工藤さんが隣を通り過ぎたら何の意味もないだろ。」
視ている間も時間は止まらない。だから直近すぎると現実の時間が視ている時間を過ぎてしまう場合がある。
「なるほど。なんでもできるわけじゃなくうまく使わないといけないわけか。」
「ああ。もし1日先の未来を視ようとすると道は長くなるし分岐だらけになる。道の分岐点にピンのような目印をおくことで、決めた未来を辿れるようにできるが、それを維持し続けるのはかなり疲れる。そして何より重要なのは、過去は変えられない。変えられるのは未来だけなんだ。」
健吾は内容を咀嚼するように考え込む。やがて何か疑問に思ったのか顔をあげた。
「俺に詩織が死ぬ事を話したのは未来をみたからか?」
「いや・・・・正直言う気はなかった。工藤さんが死ぬと知った時のパニックと絶望でポロっとこぼれた。」
「そうか。ちなみに詩織は何で亡くなるんだ。」
「・・・・それは言えない。できるだけ未来が無秩序に変化する可能性を減らしたいんだ。未来の話をするだけで健吾の行動が変わり、未来は変化する。制御できる未来に変化するのならいいんだが、話を聞いて健吾が怒り狂って行動した場合、俺の話を聞いてくれなければ未来を制御不可能になる可能性が高い。」
「まあ、確かに理不尽な死に方だったら怒り狂うかもな。」
「だろ。それに俺が未来を変えられると知ると、警戒される可能性がある。だから健吾も俺の能力の事は他の人には言わないでほしい。」
工藤さんの未来と死因を知ったら、健吾は確実に激昂するだろう。それで俺が制御できなくなったら未来を変えることは難しくなる。工藤さんの未来は俺の中だけに留めておきたい。健吾は不満げだったが、諦めたように頷いた。
「・・・わかった。まあ他人に言っても信じられる話じゃないけどな。だが詩織の原因を教えてもらえないのなら、俺は何をすればいいんだ?」
「都合のいい事だとはわかっているが、工藤さんを助けるのを手伝ってほしい。自分の未来を視ることができないから、身近に未来を視れる人がいてくれると、俺の行動が具体的に見えて固定化しやすくなる。言葉だけじゃなく身振り手振りとかも視えるからな。」
「ふむ・・・・。」
健吾は手を顎に当てて考え込む。やはり都合の良い提案すぎるだろう。荒唐無稽な話に加えて、隣にいて俺のサポートをしてほしいと言っているのだ。
「やっぱり信じられないし都合がよすぎるよな。今の話は忘れて」
「いや、何勝手に完結しようとしているんだよ。手伝うのは全然問題ない。というか同じことを何度も言わせるな。信じるって言っただろ。」
「でも・・・。」
「その顔だよ。」
「顔?」
「嘘をつく人間がそんな泣きそうな顔をするか。」
「え・・・。」
思わず自分の顔に手をあてる。一筋の涙が流れている事に気づいた。
「あの時と同じだな。初めて俺に話しかけてきた時と。泣きそうな顔をしながらも必死な顔で俺に話しかけた。別にそんな顔しなくても信じていたけど、より確信したよ。」
「健吾・・・。」
「ただ一つだけ不満がある。未来を変えることしかできないんだったら動けるうちに動かないと駄目だろ。だからまず動こう。」
「それはそうだが・・・。具体的に何をするんだ?」
「とりあえず、詩織を呼ぶ。」
「は!?なんでそうなる?」
驚いて健吾を凝視する。健吾はにやりと笑った。
「とりあえず本人がそうなるきっかけがあるんだろう?その死を防げるのか、本人に確認しないと。」
「いやいやいや。いきなり工藤さんに話をもっていっても信じられるわけが・・・。」
そんな俺の言葉を無視し、健吾は携帯を取り出して電話をかけ始めた。
「あ、詩織か。突然すまんな。今学校か?・・・・・それはよかった。全部終わったらでいいから、教室に来てくれないか。いつまでも待つから。・・・・おう。頼むわ。」
健吾は電話をきって俺に向かってピースサインをした。
「詩織来るってさ。」
「いやいやいや!唐突すぎるだろう。まず信頼して貰う未来を探さないといけないのに・・・・。」
「そうやって、探していると時間ばかり過ぎるだろ。それで詩織を助けるのが間に合わなかったら本末転倒だ。」
「!!」
確かにその通りだ。これで俺が未来を視るのに時間を使い過ぎたら手遅れになる可能性がある。
「俺もいるからいきなり逃げられはしないさ。それに限られた時間の中で未来を誘導する訓練をした方がいいだろ。」
「・・・・・そうだな。ありがとう健吾。お前に相談してよかった。」
「なに。俺も助けられているからな。」
健吾は嬉しそうに笑う。本当にこいつが友人で良かった。
「詩織さんが来るまでに説得する材料を探す。ちょっと未来を視るのに集中するから、少し待ってくれ。」
「わかった。」
工藤さんと健吾の『履歴書』を取り出す。俺は工藤さんが信用してくれる未来を必死に探し始めた。
読んでいただきありがとうございました。
他にも短編を投稿しておりますので、よろしければ読んでいただければ幸いです。