魔王(魔王ではない)
「あっっ、お、起きた!!」
目を開けると、目の前に上下逆の若葉の顔があった。
「おはよう」
俺はそうあいさつすると、体を起こした。今までの疲れなど消えてずいぶん気持ちがよかったが、どうやら今まで若葉が膝枕をしていてくれてたらしい。
「だ、大丈夫、なの?」
若葉がおどおどしながら俺をしないそうに見つめてくる。
敬語を使わないでほしいというかなり前の俺の願いがようやく届いたのか、彼女は縮まった距離を埋めるように親しげな口調を使っていた。
だがそれもかなりぎこちなく、先ほどまでかなり打ち解けていたのに信頼度が戻っているように感じる。
「まあ、無理しなくていいよ」
「!?」
「最初のはすごい自然だったけど、なんだか今のは無理してる感じがする」
「……………すみません」
「いや、仕事モードも残念モードもどっちも君だろう」
「ざ、残念!?」
まあ、長く人と話していないと、人との接し方が分からなくなるのも仕方がない。
それも、二百年もボッチだったんだ。そこは大目に_____
「ちょっ、そんな目で見ないでください!!」
「あ、自然な感じになったじゃん」
「え…………」
「ま、これからもそんな感じで行こうか」
「…………………わ、分かった」
納得していない様子の若葉だったが、不満げな表情の中に、この状況を楽しんでいるような感情が見えた。
「ってそ、そうだ。右腕、生えてきたんですね。後、仮面外して見ちゃったけど、目、綺麗でしたよ?」
「え?」
俺は言われるがままに右腕を見ると、何事もなかったかのように生えていた。
あと目が何だって?
俺は目を確認するために仮面を外すが、その時に違和感を感じる。
「ん?」
片目ずつ隠してみると、なんと、どっちでも見えるじゃないか!!
「おお!右目がある!!モモがめっちゃプルプルしてる!!」
俺は立体感のある両目で初めて見たスライム二匹に感動した。俺が両腕を広げると、二匹は大はしゃぎで飛び込んできて、俺は倒____れなかった。モモたちだけ吹き飛んでいった。
「やっぱりその目、綺麗ですよね?」
「ん?どゆこと?」
俺は至近距離で俺の目を見る若葉に聞いた。
「だから、金色になってるんですよ。黒龍みたいに」
「まじで!?」
俺はなんだか嫌な予感がしてステータスを開いた。すると、
ミサキ
Lv.1339
種族:亜人(吸血鬼・黒龍)
称号:世界を■■者 悲■の勇者 龍の瞳 真祖 絶対防御 魔王
スキル:ブレス クロー
「何だこれ……………?って、俺魔王になってんじゃん!!」
レベルが上がりすぎていることにも驚いたが、それよりもなぜか一緒についてきてしまった魔王の称号を見つけ、俺はつい叫んでしまった。
だが、解析魔法で効果を見てみると、この世界にあだ名すことを示したものではなく、術式を介さずに魔力をすべての属性に変換することができるという強力な称号だった。俺は第二の黒龍にならなかったことに安心するが、それよりもその効果が強力すぎて驚いた。
というか、魔王と効果がかぶったから賢者が用無しになって消えちゃったじゃん。俺のあの時の努力は?
そして黒龍の時にはなかった俺の右目である龍の瞳の能力は、すべてを見通す、という解析魔法の上位互換みたいなものだった。ということはつまり、今まで解析魔法でも分からなかった例の二つの称号が見れるのでは?そう思い見通してみるのだが。
「はい、ダウトー」
何も分からなかった。龍の瞳の使い方はなんとなくわかっているものの、発動しているのかがよくわからない。もっと集中すればできるのか?
ということで、読み取れる部分が多い“悲■の勇者”をじっくり見てみた。すると、何かがつながったような感覚とともにその称号が読めるようになり、効果もついにわかるようになった。
“悲嘆の勇者”:茨の道に嘆くことなかれ、その願いは成就する。
という意味が分かりそうで分からない効果だった。
まあでもあまり悪い効果じゃなさそ____いや、茨の道って書いてあるよな?
もしかして、俺が今まで女の子になったり厄介ごとに巻き込まれてたのも、この称号のせいだったってことか?
知らなかったころよりも深く知ることでさらに不安になってしまった。
そしてその流れでもう一つも調べようとするが、どう頑張ってもわかりそうもない。まあ、いつか暇な時間があったら挑戦してみよう。
「あの……………起きてますか?」
「あ、ごめん、いろいろとステータスを見てた」
少しの間黙っていたことに、また心配をかけてしまったかもしれない。
「よし、黒龍に勝ったら森を案内してくれるって約束してもらったからな。早速行こう!」
俺はその心配を吹き飛ばすように、若葉の手を引っ張った。だが。
「あの、そのことなんですが…………………」
「え?」
若葉は俺についてきてくれなかった。一体どうしたというのだろうか?
「その、私、あまりこの近くから離れたことがないないので、分かりません!」
「え?」
何かあるのかと思って心配したけど、よかった。分からないだけか。
いや、よかったのか?
「それに、今日はもう暗いので私の家に行きませんか?」
「え?家?一カ月ぶりくらいの屋根のある生活?」
だが、その後に出てきた、家に招待というお誘いに心を奪われ、案内ができないことなどどうでもよくなってしまった。
「ふかふかのベッド、雨風がしのげる、ちゃんとした料理………………あ、気にしないでくれ」
「いろいろと苦労をされてたんですね……………それじゃあ、行きましょうか」
そういった若葉が、クレーターの外へとゆっくりと歩き始める。




