辛い道のり
結論から言うと、血を操ることはできた。
訓練をする必要なく自身の魔力を操作するように動かすと、手のひらの上にある血は俺の思い通りに動いた。
「条件はあるけど、結構便利かも」
空中へと細く伸ばすことはできても、伸ばした血の根本は俺の手のひらから離れることはできないようだ。とはいえ、血を凝縮して固くすることができたり、霧状にして範囲を広げることができたりと、かなり応用が利く。
「でも…………………」
本来であれば魔力を血に変換し、それを操作することを踏み台にして自分の体にある血を操作しようと思っていたが、それはできないらしい。
「…………………魔力が足りないな」
今回俺が操った血は俺の体の血よりも多くの魔力が含まれているため操作することができたが、それによって血に含まれる魔力が多ければ多いほど血を操りやすいということが分かった。
そのため、できないと言っても、今はできないだけで後々できるようにはなるのだろう。
「魔力を集中させれば体の中にある血のほんの少しだけなら動かせるけど、意味ないしなあ」
そう、意味ないのである。
たとえ体の中の血を操ることができるようになったとしても、その血を体の外に出した際に戦いに全く役に立たないレベルの量しかない。それを敵に遠距離から当てようとしても体から離れれば操作できなくなり、投擲武器に使おうものなら、出血多量どころか魔力の消費がとんでもないことになってしまう。
今回血を操ろうとしていたのは、“今”戦いに使いたかったためであり、将来使えるようになることを模索することではないのだ。
「指の皮に切り込みを入れてそこから血の武器を作り出す_____みたいなことがやりたかったのに」
恐らく、それができることには、魔力を血に変えて、その血を武器にした方が効率がいいほど魔力量も増えているだろう。
まあ、それはそれでかっこいいけどね。
「地道にレベルを上げろってことか……………………はぁ」
俺は後ろから忍び寄ろうとしていた魔物を、魔力を込めた突きで戦闘不能にし、長い道のりになりそうなことを憂いてため息をついた。
「いただきま~す」
とはいえ、血を飲むことは苦行ではないどころか、文字通り美味しい思いができそうではあるため、長い道のりながらも辛い道のりにはならずに済みそうだった。
「こいつは……………………スライムか?」
そして、レベル上げに勤しんでいたのも束の間、適当に空を飛んで魔物のいそうなところを探し回っていた時、ソレを見つけた。
目の前でぽよぽよ揺れている2匹のスライムは、前の世界で見たドロドロした毒々しい色とは違い、水滴のような楕円形のきれいなカタチをして、透き通ったピンク色をしていた。
「それに、結構でかいな」
前の世界はほとんど潰れているような形をしていたというのもあるかもしれないが、目の前のスライムたちはひざ丈くらいまであり、全く別の生き物のようだった。
「でも、解析魔法ではスライムって出てるしな……………………」
この世界の植物や魔物も前の世界で似たようなものを見たことがあるため違いはないと思っていたが、亜人など前の世界ではいなかった種族もいた。前の世界と全く同じとは考えない方がいいのかも知れない。
というか、こいつら2匹そろってレベル110もあるのかよ、強いな。
「………………………なんか、恐ろしい魔物に思えてきたな」
俺を襲おうとする気配もなく、何やら楽しげに体を揺らすスライムたちだったが、レベルを考えると微笑ましい光景も、俺を襲う準備か何かに見えてしまう。
「……………………………襲ってこないな」
だが、俺がいつ奇襲を仕掛けられても問題ないように構えてしばらく経ったものの、襲ってくる気配はなかった。
それどころか、微動だにしない俺を見て心配そうに近づいてプルプル震えていた。
「……………………本当に何もしてこないのか?」
そう思った俺は足元にいる2匹を触ろうと沿って手を伸ばすと、“ぬるり”と躱されてしまう。
それも、自身の体をへこませ、受け流すようによけられたのだ。つまり_____
「ダメージを与えにくいってことか」
こいつらの強さは、どうやらその柔軟な体にあるらしい。大きな力でつぶしたり切ったりすれば倒せそうだが、なんだかんだそこからも復活してしまいそうな“柔らかさをしていた”。
「ひんやりしてて気持ちいいな………………………おっ?」
俺は魔力使って水をつかむように2匹を触っていると、急に弾力を持ったような感触に変わった。
「硬度も変えられるのか。なら、石みたいに固くなれるのかな?」
そう思いながら2匹をバスケットボールのようにバウンドさせてみたが、それ以上固くなることはなかった。
「これが限界なのか?」
そう思い、2匹から手を離すと、楽しかったのかもっとやってほしそうに俺の近く度ぴょんぴょん飛び跳ねていた。
あれ以上固くならなかったのは、バウンドするのが楽しくて、バウンドしていたかったからなのか?
そう思いつつ、俺は2匹のスライムたちを先ほどよりも低く素早くバウンドさせた。
それにしても_______
「こいつら、俺を手を溶かそうとしないな…………………」
俺が散々2匹を触っても、俺の手を溶かそうとする気配が全くない。前の世界のスライムは触れたものを一瞬で溶かすことができていたため、溶かされるのを警戒して手を魔力の膜で覆い防御力を上げていたのだが、最初に2匹の体に手を突っ込んだ時も、警戒して弾性になっても溶かされることはなかった。
「溶かすことができないなら、どうやってここまでレベルを上げたんだ?」
どんな攻撃も受け流すくらいの防御力を持っていれば、この森で生き抜くことはできる。だが、それだけでは魔物を殺すことはできないため、レベルが高いことがおかしい。
幼女神(黒)の作ったシステム的に、生まれた時からレベルが高いなんてことはありえないし、こいつらも生まれた時はレベルが1だったのだろう。
「う~ん…………………………何にせよ、襲われる心配もないし気にすることはないか」
この2匹のスライムがどうやって戦おうが、俺が危害を加えられることはなさそうであるため、それを考える必要はないだろう。
そう思った俺は、なぜか俺に懐きつつある2匹を引き連れ、食j_______じゃなくて狩りをしに森を進んだ。
「いや、めっちゃ溶かすじゃん」
その後すぐに鹿のような魔物を見つけ、それを難なく殺して血を飲み終えると、おもむろに近づいた2匹が魔物の死骸を溶かして食べ始めたのだ。
「………………………」
どうやら、俺が血を飲んでレベルアップするように、こいつらは死骸を溶かして食べるため、ここまで強くなったらしい。それでだけで腹も満たして(腹がどこにあるか分からないけど)ここまで強くなれるため、戦う必要すらなかったのだろう。
この森で群れる魔物はまだ見つけておらず、たびたび魔物同士の衝突を見かける割に死骸が少ないと思っていたが、殺した魔物が食べてただけじゃなくて、余った死骸とかをこいつらみたいなスライムが食べていたのか。
もしかして、こいつらが懐いているのって、俺が今まで適当に放置してた魔物を食べて、それが間接的な餌付けになってたからか?
いや。もしかして、俺が小さくて弱そうに見えたから、すぐに魔物に殺されて俺を食べることができると思ったからか?
「………………………………」
俺は足元にすり寄ってきた2匹のスライムの愛嬌のある見た目と動きに、死神の影を見たような気がした。
「………………………お、俺を食べるつもりならさっき触った時に溶かされてるはずだし、大丈夫だよね?」
それに、さっき餌付けみたいなこともしたし、なんかご飯をくれる存在として懐いているだけだろう。
「………………………溶かされないよね?」
不安に駆られつつも後ろをぴょんぴょん跳ねてついてくる2匹から逃げようとしなかったのは、森の中でのたった一人の生活が寂しかったからなのだろうか。




