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復讐と願い

「多分メアリーは、アンのことを恨んでいなかったんだと思う」

「…………………!」

 数分の時間をかけてようやく立ち上がることのできた俺は、いまだにふらつく足取りでうつむいたまま動く気配のないアンのもとへと近づきながらそう言った。

「最後にメアリーは、自分の願いが叶ったかのような様子だった」

「……………」

 だめだ。まだ少しふらついてうまく歩くことができない。もう少し休んだ方がよかったのだろうか。

「俺はメアリーじゃないからただの予想になるけど、メアリーはただ、消えてなくなりたかったんじゃないのか?」

「……………?」

 これは、彼女の立場になって考えただけのただの想像に過ぎない。だがこの想像は、細かいことまではわからないものの、真実に近いものだということだけは確信している。

「メアリーは“こうなった”原因が、アンだけのせいじゃなくて自分のせいだってことを自覚していたんだと思う」

「いえ!あれは私の______」

「普通だったらそう考えるかもしれない。実際、メアリーもそう考えていただろうし、あの仮面を被るまでは、復讐をするためだけに動いているように見えた」

「ぇ………………?」

 俺がようやくアンのもとへとたどり着くと、アンは俺のことを見上げ、縋りつくような視線を送ってきた。俺はその視線を、一つしかない目でまっすぐに見返す。

目の前の現実を受け入れることができないのだろう。彼女の目には、涙は浮かんでいなかった。

「そう考えること以外の想いがあったからこそ、復讐じゃなくて自身の消滅というというのを選んだのかもしれない」

「その、想いというのは………?」

「アンを恨むに恨みきれない程の、友情なんじゃないのか?」

「は?友情???」

「だから、メアリーはアンを恨んでいたけど、アンを恨めない気持ちが____」

「そんな気持ちがあったから、メアリーは自ら死を選んだと?」

「そうなんじゃないのか?まぁ、ただの予想だ。でも、結構真実に近いと思うぞ?」

 うまくごまかせるだろうか。

俺は今、アンにメアリーの願いをぼやかして話している。もっと詳しく話そうとすると、アンは“暗い方の願い”を受け取ってしまうだろう。だからこそ、メアリーを救えなかったのならせめてアンだけは救おうという俺なりの贖罪をしようと考えていたのだが。

 もし本当にこの仮面が本当に願いを叶えるものだったら、この嘘は絶対にばれる。そして、この後に続く会話の中で俺は、メアリーの“復讐”に加担してしまうことになるのだろう。

 俺は倒れこまないようにゆっくりとしゃがみ込み、仮面を拾い上げ、この予感が当たらないことを願いながら仮面を見つめた。

「人はどうしようもないほど辛いことがあったとき、自ら命を絶つものです。ですが、私は、私は!メアリーがそれくらいのことで自ら命を絶つ人ではないことを知っています!

それに、私は他人のために自ら死を選んだ人を見たことがある!!だから、メアリーが死を望むことなど、絶対にありえない!!!ありえないんですよ…………!!」

 やっぱりこうなるか。

 アンは近くに立っていた俺にしがみついた。それはどこか助けを求めているようであり、許しを求めているようだった。

「だから、これは私への復讐なのです。もう少しで、私は謝ることが……………」

「まぁ、俺の言っていたことは結構ぼやかして伝えてたけど、核心はついていると思う」

「…………………」

「メアリーは、アンを恨む気持ちと、恨むことができない気持ちを持っていたんだ。この仮面は、本当の願いを引き出して叶えるものだし、表面上はアンへの復讐をしたがっていたのかもしれないけど、やっぱりどこかでアンを恨むことのできない気持ちもあった。それに、あの炎もアンを一切傷つけることはなかったし」

「……………………」

「でも、その矛盾する願いは絶対に叶えることはできない。それでも、メアリーはどちらか一つを選ぶことはできなかったし、迷い続けた結果、諦めてしまった。メアリーはアンにどちらとも受け取れるようなことをして、それをどう受け取るかどうかを、アン。

君に委ねたんだ」

「………なんで、ですか?私はメアリーにずっと謝りたかった。なのに、なんで謝ることができなかったんですか?私に復讐すること以外の目的があったのなら、なんで、私は_____!?」

「だから、それもどっちとも受け取れるからだよ。メアリーに謝れなかったのは、アンに贖罪の機会を与えないという復讐のため。そして、アンは悪くないから謝らなくてもいいというメッセージでもある。ほら、どっちでも受け取れるだろう?」

「……………………………なら、私は復讐を受け入れる方を選びます」

「…………だと思った。だけど、それじゃあメアリーの本当の願いはかなえられない。」

「だったら………どうすればいいんですか……………………」

「難しいだろうけど、アンはその両方を選ぶべきなんじゃないのか?そして、メアリーの諦めたことを、どうか最後までやり遂げてみてほしい」

「…………………」

「メアリーが自分で死ぬことを選んだのは多分、自分を責めすぎたせいだと思う。結局メアリーは、これに対して誰のせいにすることもできなかったんだ。

 そして、アンも自分を責めすぎている。いつかメアリーと同じ道をたどることになるだろう」

 だからこそ、俺が仮面を壊す直前にメアリーはずっと「お前さえ(・・・・)いなければ」と言っていたのだ。

「…………………私にそれが、できるでしょうか?」

 さあ?俺にはわからないな。

 そう言おうとしたが、なぜか言葉が出なかった。

 だが、その代わりに。

「できるよ、アン。君ならできる」

「メ………アリー…………?」

 アンを励ます言葉を、俺は口にしていた。

 俺はそれに戸惑いつつも、優しく微笑み、アンの頭をなでていた。

「メアリー…………!あぁ、メアリー!!」

 これも、仮面の効果なのだろうか。それとも、俺が同情した結果、このような行動を無意識に選んだのだろうか。

「うぁああぁぁぁああああ!!!ごめんなさいメアリー!!ごめんなさい………ごめんなさい_________」

 だが、どちらにせよ俺は正しい選択をしたはずだ。

「俺に向かって言っても意味はないぞ」

 俺がそう言ってもなお、アンは俺を抱きしめ、泣いて、謝り続けていた。

 あぁ、思い出した。

 どこかで聞いたことがあると思ったら、俺が牢屋にいたとき、アンが俺に抱き着いて最初に言った言葉だ。

 結局この言葉は、メアリーのもとへ届くことはなかった。だが、もし届いていたとしたら何か変わっていたのだろうか。

 考えても無駄なことなのに、アンが泣いている間ずっとその後悔が頭から離れることはなかった。

 結局悲劇で終わってしまったものの、彼女の未来が少しだけ明るくなることがなんとなくわかり、俺は少しだけ安心していた。

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