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第二十九話 二度目の相対 ③

「さてと、どうしてやるかな」


「閉じ込める以外、なにも考えて無かったの?」


「ほんっとうにトゥリオさんは……まぁ良いですよ。先ずはあそこに誘導しましょう」


 フランが示した先は都市の中心部に位置する憩いの場〈万年氷の噴水広場〉だ。周りの建造物の多く倒壊しているが故の良好な視野、壁上砲台の射程圏内と戦闘を行うにはもってこいの場所だ。


「トゥリオさん申し訳ありませんが、囮頼めますか?」


「良いだろう。二人は?」


「トゥリオさんに竜が目を付けた時点で二方向から追い立てます。確実に広場まで誘導しましょう」


 策を練っている間にも破壊は止まらない。これ以上議論に費やす時間は無さそうだ。

 三人は必ずの生存を約束し散開。背後へ、正面へ走り出した。


「セシィ、アナタの精霊魔術が頼みです。ここぞと言う時までなるべく温存して下さい」


「うん分かった。じゃあ、ココから一旦別行動だね」


「危険と感じたら直ぐに離脱を」


 各人が配置に付き、一瞬の静寂を挟みトゥリオが吼える。

 作戦通りだ。一直線に噴水へ向かうトゥリオの背を竜が追い始める。背後からの攻撃を避け、受け流し順調に広場までの距離を縮めて行くが、当然竜の羽ばたきに人間の足が敵う筈も無く、あっという間に追いつかれてしまう。


 しかしココからが残る二人の本領発揮だ。

 トゥリオへ喰らい付く竜の身体へ光線が注ぐ。一本や二本では無い、両手両足を使っても数え切れない上に絶え間も無い。

 

 止まない攻撃に我慢の限界を迎えた竜が向きを変え、フランとセシィを睨み付けた。想定外?いや未だ全て作戦の内だ。

 姿見えないままフランとセシィは呼吸を合わせ杖先を標的へ。二つの魔拡石から放たれた氷塊(ひょうかい)は真っすぐ竜の眼球へと向かい、命中。


 瞼を閉ざし咆哮を上げ暫し悶えたのも僅かな間、増幅させた怒りを宿し目を開く。

 

「ウスノロ!コッチだ!」


 怒りで我を忘れた竜には見え透いた挑発も効果てきめんらしい。怒り声を上げながら、また駆け出したトゥリオの追跡を開始した。


(これなら作戦通りに――)


 フランが思い描いた通りに事は進んで行く。

 一先ず、大きな被害を出さずに目的の場所へ誘導は成功。問題はこの先だ。


 広く戦いやすい場なら他に幾らでもでもあったが、わざわざココを選んだ理由は良策であると同時に、一つの懸念点があったのだ。

 しかしフランが壁上に視線を移した時、それは杞憂に終わった。


 壁の上に並ぶ移動砲台、計三十門の照準全てが竜へ定められている。何かの合図を送った訳でも無く、申し合わせた訳でも無かった。


「後は砲撃のタイミングだけ、ですね」


 フランは物陰から飛び出し、セシィと合流。続けてトゥリオに声が届く所まで接近。下手に近づけば踏みつぶされるなり、噛み砕かれるなりの未来は明らかだが可能な限り近づき、竜から距離を取るよう叫ぶ。


「了解だ!向こうへの合図は任せるぜ」


「合図って言ったって!」


 ぼやいている余裕は無い。

 頭をフル回転させ、コチラの意図を伝える方法を模索している間にトゥリオが距離を取り終えている。余り時間を掛けてしまうと、攻撃のチャンスを逃してしまう焦りに駆られながらも、あくまでに冷静に――古い記憶から一つの方法を導き出した。

 

燭光、灯セ(ルーメ・センブレ)


 上空へ向けた大杖(スタッフ)からフヨフヨと光の球が浮上。家屋の屋根を越え、竜の頭を越え、壁上の者すら見上げる高さで一際強く光を発した。

 砲撃開始。砲手達が光球(こうきゅう)を合図だと認識するまでに時間は掛からなかった。


 雷鳴も霞む様な砲声が重く鳴り渡り、怒暴の竜の身体は爆煙に包まれる。


「やったか?」


「そんなにヤワなら苦労しないよねぇ」


「ちょっとは考えてみてくださいよ」


 何時の間にか合流していたトゥリオに総ツッコミ入った所で煙が晴れる。

 予想外?否、予想通りの健在だ。


 しかし無傷では無い。鱗は剥がれ、肉は抉れ、爪牙は欠け。されど憤怒は衰えない。


「さぁ、こっからどうしてやろうか」


「どうもこうも、ココで倒すと決めたんです。私達が隙を作るので」


「セシィがぶっ飛ばしちゃえば良いんだね!」


「なんとも簡単な仕事だな。で、肝心な隙はどうやって作る?」


「そうですね……」


 暫し考え、フランがトゥリオへ投げた問いはまだユラユラと煙を吐く大砲について。


「次の装填まで?」


「はい、おおよそで構いません」


 瓦礫の山へ身を隠し遠目に砲台を観察したトゥリオから返って来た答えに、フランは可もなく不可もなくと言った所だ。


「まだまだ現役だが最新式じゃあなさそうだ。砲撃の熟練度だけから見ればそんなモンだろうな」


「それなら次の砲撃までココに留めましょう。斉射と同時に、セシィの魔術で仕留めます」


 現状、作戦と呼べるほどの精密さを求めている暇は無い。急繕いだろうと策があるだけ幾分マシだ。


 三人は互いに背中を預け合い三方へ散る。あわよくば丁寧に一人ずつ相手にしてくれればと一縷の望みを抱えながら。


「――まぁ、そう簡単には行きませんよね」


 フランはボソッと漏らしながら、見上げるばかりの高さへ飛翔した竜に追撃を仕掛ける。

 火炎の暴風に氷礫(こおりつぶて)の嵐、瓦礫の束から成る小隕石程の質量爆弾。ついでのもう一手には満を持してのとっておき。


 拾い上げた砲弾の破片を手の平に広げ、赫赫(かくかく)とした熱鉄に。辺りの景色を揺らす陽炎(かげろう)を纏い、変貌した姿は螺旋の鉄杭。

 杭を頭上へ放り、目を閉じ深く息吐く様に唱える。


「弾ケ、飛翔、上天へ赴ケ《ポル・ラーレ・チェッロ》」


 自由落下の最中だった杭はピタリと動きを止め、竜の頭部目掛けて突貫。

 過剰なまでの猛追が功を奏し剥げた鱗の下部に覗いた真皮を貫き骨肉、神経に触れる。


「――オマケです!」


 悶え苦しむ間にもう一度打ち出した杭は、長細い瞳孔に風穴を穿つ。

 降下、墜落、地でのたうち回る巨体に注ぐは千の剣撃、万の流星。竜の沈黙が生んだ静寂をトゥリオが破る。


「フラン今だ!合図を!」


「はい!」


 間を空けずに打ち出した光弾に砲声が応えた。

 射角は良好、全弾命中。飛散した砲弾内の油に炸裂弾が着火し、立ち上がった火柱が竜の身体を包む。


「セシィ、止めを!」

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