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第二十五話 【変応】の魔術師 ①

 集落から北東へ進み続けて約三時間、殿から陰鬱な雰囲気が漂っていた。

 トゥリオが尋ねるも返事は無し。フランが尋ねるも、また返事は無かったが、無言を貫き更に一時間、根城である朽ちかけの城を前にした時、やっと口を開いた。


「あのね、ちょっと考えてみたんだ」


 再び声が出たのは良い物の、内容に関してはまったくの意味不明であった。

 同様に尋ねてみると、今度はまともに、やや深刻そうに返答があった。


「どうしてそう思ったんですか?……魔術が無ければ良かった、なんて」


 道中、ずっと考え込んでいたらしい。

 一体どうすれば、子供達に“この様な”仕打ち受けさせずに済むのか。一体どうしていれば、こんな悲劇を生まなかったのか。


 考えた先で行き付いたのが――魔術の無い世界、だそうだ。


「魔術が無ければ、魔術を嫌う人も居ないでしょ?だったらそんな物なくしちゃえば、って思ったんだ」


 この時初めて、フランの胸に怒りの焔が灯った。

 だがぶつける先はセシィでは無い。この先の根城へ住み付く悪党共でも無い。


 ならば誰に?ならば何処に?ぶつける先など無い。あってはならない。


「セシィ、例え魔術が無くとも人は何かを好いて、何かを嫌う生き物です。ですから――」


 正しい知識を、正しい技術を広め、負の思いに勝る有用性を示す他は無い。魔術の根絶、新たな問題の種を蒔くのではなく、既に芽吹いた芽を正しい方向へ育てる、それこそが魔術師の努めである。


「後ろを向くのではなく、怒りを誰かにぶつけるのではなく……導く事が努めです」


 影は晴れていた。

 陰鬱、暗澹(あんたん)は消滅し、新たな希望()に輝く(まなこ)は、古城を確と納めていた。


「うん。それならまずは、ラニ君を正しい方向にだね」


「そうですね。なら、先ずは作戦でも立てましょうか」


「と、その前に一つ聞いて良いか?」


 【変応】の魔術、そう呼ばれる人物についての詳細。

 魔術協会との関係が浅いトゥリオであれば、知らないのも妥当である。通り名すら耳にした事が無くても頷ける。


 理由は一つ。


「協会は【変応】の情報をなるべく外部へ漏れないように色々と工作してきましたからねぇ」


 嘆声(たんせい)で吐き出し、フランは続ける。

 彼の人物が変応の名を冠する理由(ワケ)


「――昇格試験で対人科目を廃れさせた張本人。応用で変貌する魔術が、二つ名の由来、か」


 古くから特定の魔術師に与えられてきた“二つ名”は術躁格とは別けて、その者が残した功績や魔術の特性を表し、繁栄や技術の向上をもたらした人物に送られる栄誉ある称号だ。

 しかし、彼に至っては特例中の特例。危険人物として存在を忘失させない為として名が刻まれた。


「もう一つ聞いても良いか?」


 フランが首を縦に振り返し、飛んできた問いはコレを聞いた者全てが抱くであろう疑問だった。

 隠し続けて来た理由だ。


 協会は当然の事、各領の衛兵団や民衆の力を以てすれば、今日(こんにち)まで野放しに等なっていなかったのではないかと疑問を抱くのは必然である。

 だが魔術を存続させるにはこの方法一つしか無かったのだ。


「反魔術思想の後押しになるのは明らかですからね。彼等が恐れるのは未知と危険、ですから」


 もしかすると、彼の存在を早くに明かしていれば腕に枷を掛ける事も叶っていたかも知れないが、魔術協会の中心人物に博徒が不在だった事に加え、当時は組織自体が密教かの如く閉鎖的であった為に秘匿と言う判断が下された。

 

「その頃既に反魔術の動きは各地でありましたからね」


「で、数年経った今、何の因果か俺達がその悪党を退治しようとしてるって訳だ。そんじゃあチャッチャと――」


 嘲笑混じり、罵倒しながらラニエリがトゥリオの手を引き止め、二言目は彼の身を案ずる様に。


「考え無しに突っ込む気かよ?」


「……ほう、何か良い作戦でもあるのか」


「そもそも作戦会議の為にココで隠れたんだろ?」


 尤もが過ぎるラニエリの返し。トゥリオの顔面はみるみるうちに真っ赤に染まっていた。


「……だな、そうだったな。何か案は?」


 ラニエリは傍らの茂みから枝を折り、積もった雪をなぞり始める。

 四角や円が連なり出来上がった地図にも似た図形群は、どうやら古城の内部を表している様だ。


 階層は四つに分かれ、各層には平均六つ程の部屋。全ての部屋が回廊に面している為、侵入は容易に見えるが一筋縄にはいかないそうだ。


「侵入者でも来ない限りは全ての部屋に警備が居る、もちろん内廊下にも。それに上へ行けば行くほど警備が厳重になるんだ。アイツが居るからな」


「んー、ココから見た感じだと、外にも沢山いるよね?」

 

「そうだ。姿でも消せない限り中に入るのは難しい」


 きっと彼にとっては何気ない一言だったのだろうが、フランにとっては作戦を決めるに等しい一言だった。


「ラニエリさん、アナタは最上階まで……ダミアーノが居る所まで通れますか?」


「……大丈夫だ。でも俺だけ行ってどうするんだ?」


 余裕に、大胆に笑みを見せたフランは杖を構え、再度ラニエリへ尋ねる。

 姿が消せれば問題無いのか。


 戸惑いながらも顔を下へ振ったの目に、小さく唱える。


黒暗纏イテ、(サレブ・)光ヲ吸イ込ミ(リディ)捻ジ曲ゲヨ(フィカ)

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