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第二十四話 やむを得ず ③

 小さく震える冷たい手を握り、真っすぐ少年を見つめ放つ。


「私達に任せて下さい。盗賊団(彼ら)の元へ案内して頂けますか――」


「無理だ!勝てっこ無ぇよ!相手はあの【変応】の魔術師、ダミアーノ・カルカーニだぞ!」


 【変応】――魔術師であれば、その名を知らぬ者は居ないであろう程の高名。

 そう、今世最大の悪、協会の恥として知らぬ者は居ないだろう。


 しかしフランは、その名を耳にしようとも狼狽の一つ見せる事は無かった。それどころか少年に不敵な笑みを見せつけていたのだった。


「これでも私は賢者の弟子ですよ?セシィもトゥリオさんも、頼もしいんです!ホラ!」


 焚火の方へ手を引くと彼は渋々と、足を動かし始めた。


「やっと心を許してくれたか。で?一体全体どうして子供達(オマエ等)がこんなマネを?」


 パチパチと音を立て揺れる火を囲み、セシィとトゥリオへ全容と現状を打ち明ける。

 二人の瞳は焚火を取り込んだかの様に、怒りの炎を灯していた。


「ボウズ、手を汚すのは今日で終いだ。さっさとソイツの所に案内しな」


 今にも爆発しそうな怒気を必死に抑え、徐に腰を上げたトゥリオはラニエリへ静かに放つ。

 だが何時もとはまるで様子の違う彼にフランは待てをかける。まだやるべき事が幾つか残っている、と。


 淡々と目下の課題を上げ続ける内に、トゥリオの怒りも少しは冷めたのだろう。ラニエリを寝かしつけ、いざ仕事に取り掛かろうと言う時には、決まりのものぐさ振りが戻っていた。


「はぁ……どんだけ作れば良いんだよ」


「仕方ないよ。何日間か離れる事になるんだから、食料だけでも置いておかないと」


「そうですよ、あと少しなんですから」


 雪のちらつく空を見上げ、作業を投げ出すトゥリオをよそに黙々と(かじか)む指先を動かし続けるフランとセシィのお陰か、夜が明ける前には課題の一つが完了した。

 残る作業は、今完成したソレを特定の場所へと仕掛けるのみ。


「さぁ、トゥリオさんサボってた分、しっかり働いて下さいね!」


 ボロボロの背負子に満載程の完成品を括り、トゥリオの肩へ。


「足を滑らせて川に落ちないで下さいよ。この寒さでは五分と持ちませんからね!」


 分かってる分かってると、軽く手を振り返しながら先程までの、だらけ様が嘘かの如く軽快に駆け出したのを見送ってから約二時間。

 真っ白な息をモクモクと吐き出しながら、無事に帰還。


「完了だ。全部仕掛けて来たぜ」


「おつかれ。後は待つのみ、だね!」


 ドカッと腰を下ろしたトゥリオへ、熱々のカップを渡すと、何やら物欲しげな視線が降り注ぐ。

 雪雲の間から差し込んだ、陽光にラニエリが起こされた様だ。三人に向く彼の瞳からは数時間前までの、野獣を思わせる警戒は消え去っていた。

 

 具現するように、伸ばした指へ掛かるカップにも躊躇いなく手を伸ばしてくれた。一口、二口と啜るのにも、逡巡は一切無い。


「美味しい?あったまるでしょ?」


 少しばかり高らかになった声で返事をすると、今度は彼から切り出した。

 先程までの三人の行動についてだ。


 どうやら半睡半醒ながら、フラン達の行動を目に留めていたらしい。


「あぁ、アレですか――」


 反対を承知した上でフランは先刻の作業と、それを行った理由を明かす。癇癪の一つや二つ覚悟の上で、恬淡(てんたん)と打ち明けていくが、とうに彼も覚悟はしていた様だ。


「そうだな。アイツ等を連れて行く訳には行かないもんな」


「案外物分かりが良いな。子供達だけで生き抜いて来ただけの事はあるな」


 鷲掴みの様に頭を撫でまわされるのは少々嫌そうで、軽く手を掃い退けられてしまう始末だ。

 

「んだよ、可愛げは無ぇのか」


 不貞腐れ気味に立ち上がったものの、大きく背を伸ばし何らやる気に満ちている。

 そんな彼を見てふと、フランが時計を確認すると丁度良い頃合いだった。


「そろそろ行こうぜ。あんだけ仕掛ければ大漁だろ」


「そうだね。カゴも沢山持って行かなきゃ」


 仕掛けの回収準備へ取り掛かる三人の傍ら、ラニエリも密かに外出の用意を始めていた――しかし、彼に下されたのは待機の(めい)だった。


「お前さんなら理由は分かるだろ?」


 機嫌は斜めを向いてしまったようだが、納得はしてくれた。当然、ご褒美のスキンシップは断固として拒否していた。


「じゃあ行きますか」


 泡雪から見え隠れする白魔の気配は三人の足を急がせる。

 費やしたのは僅か二時間程度だった。集落を中心に上流へ二キロ、下流へ三キロにかけて据えた、魚捕(いおとり)用の罠を全て回収するまでに。


 結果は、と言えば十分……いや十二分と言って然るべきだろう。

 この量があれば、毎日十分目まで腹を満たしたとしても、十数人の子供ならば五日は苦も無く凌げるだろう。


「良いのか、コレ全部?」


「勿論です。アナタ達の為に獲って来たんですから。ただ――」


 フランは一つだけ条件を課した。

 これからラニエリと共にココを離れるのであれば、欠く事の出来ない条件。


 それは、大人がやっと持ち上げられるカゴいっぱいに詰まった魚を自分達で処理、調理する事。カゴ五つ分全てだ。


「大丈夫。それなら妹とロレッタに任せられる」


「分かりました。なら、出発しましょうか……悪逆非道共の根城に向けて」

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