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第二十三話 三つ巴 ①

「イヤぁ、皆さん本当にありがとうございました、えぇ」


「いえいえ、こうして飛空艇を利用させて貰う以上は、ですよ」


 無事に蜘蛛の魔物(テゾーニヤ)の尾針を入手した一行はサンツィオと共にレンディールを発ち、トランテ平野上空で優雅な空の旅を楽しんでいた。

 見渡す限りの蒼空に見惚れ、穏やかで柔らかに吹く風を受け、時に微睡む……そんな筈だった。


 突如、艇内に緊張が立ち込めた。船員たちは駆け、艇体は大きく高度を下げている。

 

「サンツィオさん何が?」


「緊急事態、でしょう。一先ず甲板へ、えぇ」


 激しく揺れる艇内から、フラン達はサンツィオと共に甲板へ。するとすぐさま船員達がサンツィオへ我も我もと駆け寄る。

 その状況はまさに事の深刻さを物語っているかの様だ。


「チロさん、何があったの?」


 一匹の鷹の魔物(ファベロ)が届けた一枚の文に記された内容、それが慌ただしさの理由らしく、文を受け取った彼の顔面もまた蒼白となっていた。


「オイ、何が書いてあるんだ」


「……お三方もどうぞ」


 低空高速で飛行を続けろ、との内容。当然理由も記されている――三領境にて戦闘が発生している為、と。


「三領境で戦闘……か」


「トゥリオさん、どうかしましたか?」


 低く、抑揚の無い声でトゥリオはサンツィオへ一言。

 関所の手前に着陸しろ、と。


「え、えぇ、ですが文には低空高速でと……」


「恐らく三領境の三勢力が戦闘の原因だ。関所ギリギリを通過しても撃墜は避けられないぞ」


「三勢力?」


 尋ねるとサンツィオは、推測ながらに口を開いた。思い出したくない過去の話を呟く様な表情で――


 三勢力、それは大陸衛兵団と反魔術思想、そして竜崇(りゅうすう)思想の三つを指す。この三つは古くから三領境、即ちトランテ平野はトラスキア湖付近で火花を散らし続けていた……思想の違いと言う理由の下に。

 始まりは(わらべ)の喧嘩の様に小さなものだった。しかし時が流れるにつれ、魔術が発展するにつれてソレを嫌う者達は、魔術の真祖である竜を崇める人々に対して刃を向け始めた。


 そうして一人また一人と命が奪われれば、当然領主が皇帝が黙っている訳もなく、争いに歯止めを掛けるべく武力を行使する。

 その甲斐あって一時的に争いは落ち着いたが、己が信じた祖を否定された者達の怒りは収まる事など無かった。


「次は怒りを抑えられなくなった竜崇派が反魔術派に対して、攻撃を仕掛けた……それからだ、ココが今の様な戦地になったのは」

 

 全容を聞いたフランには、とある記憶が蘇っていた。

 それは、飛び散る肉片と紅の飛沫を前に、全を知ったあの日の記憶。残酷で凄惨な景色を前に、ただ師の隣で立ち尽くししか出来なかったあの日の記憶が鮮明に。


 フランは強く拳を握り込んだ。遠目に見えるあの日と同じ景色を前に。

 全てが一緒に見えていた。人が逃げ、人が弾け、人が叫ぶ光景はまったくと言っていい程に。


 だが違う点もあった。

 今の自分には立ち尽くす以外の選択肢があり、共に駆ける仲間が居ると言う事。


「サンツィオさん、着陸して頂けますか?きっと何か出来る事がある筈です」


 返事は即答だった。

 甲板から号令が響き渡り、降下を始めた艇体は関所より紙一枚の高さからみるみる内に地面へ。


 すると一人の衛兵が駆け寄って来た。


「さっき飛ばしたファベロの文を受け取った飛空艇か?」


 経緯を含めサンツィオが答えると、衛兵は迷う事無く状況への参加を許可した。


「んじゃあ行くとするか」


 剣を空に一振り、再び鞘に納めたトゥリオは振り返りフランへ一言。セシィは飛空艇に留まらせる様にと。

 無論、フランも惨状と分かっている場所にセシィを連れて行くつもりなど毛頭なかった。だが醜い物をその目に焼き付ける事もまた成長へ繋がる、そう実感していた故に一つ命じた。


「セシィ、サンツィオさんとココに残って負傷者の手当てをお願いします。可能な限り……助けてあげて下さい」


「うん、了解だよ師匠!」


「フラン、そろそろ不味いみたいだぜ」


「はい。ではセシィ、頼みましたよ」


 ポンと叩いたセシィの肩は小さく震えていた。

 戻り抱きしめてあげたい、そんな思いを押し殺し、轟音響き硝煙の漂う草原へと駆け出した先は想像を遥かに絶する凄惨が広がっていた。


 死体(ヒト)で築かれた丘、朽木と見紛うは烈火に巻かれた人の果て。同じ生物が作り出したとは思えない惨状に込み上げる虫唾を飲み込み走り続け、行き付いた先は一つの村。

 

「トゥリオさん!民間人の逃げ遅れが!」


 頷き一つ、トゥリオが刃を抜き飛び出す。

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