第二十一話 魔術を解する者 ⑤
「自分で受けた時より緊張しますね……」
「大丈夫か?実技の試験で胃が悲鳴を上げるんじゃねぇか?」
どうも落ち着かない様子のフランに追い打ちを掛けるかの一言だったが、ソレに関しては確かな自信を持っていた故、得意気に返す。
「問題ない、って?」
「まるで予め、出題傾向でも分かっている様ですね、えぇ」
「知ってますよ」
表情一つ変えずに放つフランだが、聞いている二人の顔面は青ざめていた。
無理もない。所謂カンニング等の不正行為が発覚すれば、受験者は当然の事、関わった者も厳しく罰せられ、最悪の場合は魔術師の命とも言える術躁格を剥奪される可能性だってあるのだ。
もしそうなれば、越境どころか旅の続行すら困難になってしまうのだから。
「弟子の為とは言え、大胆すぎやしないか?……そうか、だから!――」
「一体お二人は何を勘違いしてるんですか?」
そう、フランは過去の出題からの出題傾向を、あくまで知っているだけの事。外部に漏らしていなければ、セシィにヒントを与えたり等も行っていない。
罰せられる理由は一つも無い。
「まだまだ通常の魔術は未熟ですからね。精霊魔術での応用が難しいのであれば、それとなく伝えていたかも知れませんが……」
またもや受けた衝撃で表情を七変化させている二人。だが、厳重に閉ざされていた扉が軋んだ音は、そんな二人の面様を固まらせる。
「終わったみたいですね」
続々と部屋から出てくる魔術師達に紛れ、セシィも三人の元へ。
悔い?反省?否、彼女が浮かべるは自信に満ち満ちた笑み。
「どうでしたか?えぇ……」
「うーん……自己採点百点かな!」
浮かべる笑顔から察するに、実力を遺憾なく発揮できたのは聞くまでも無いだろう。わざわざ合格を祈る必要も無さそうだ。
となれば――
「合格発表は一時間後だって。ご飯食べに行こうよ!」
「そうですね!確か、食堂がありましたよね?」
フランの記憶を頼りに辺りを見渡せば、大きな人だかりが。
「皆もあそこで食べてるみたいだね」
受験者の多く、そして午前の仕事を終えた魔術師達が集う場へ。
長蛇の列へ並び、ようやく回って来た順番。当然の如くフランとセシィは、注文と同時に徽章を見せ、会計を知らん顔で席へ。
少し遅れて来た二人は憧憬の眼差しをセシィへ、フランへ。
「これぞ、魔術師の特権ですよ」
「三食おかわり自由。最高だよ」
「【結方】でも適用されるのか?」
「おっ、トゥリオさんもしや魔術を目指しますか?えぇ」
少しの優越感、と羨望を抱えながら終えた昼食。時刻は試験終了から丁度、一時間が経過している。
「発表だ!行って来るね!」
再び、扉の先へ魔術師達が消えて行き十五分。扉が開くのを合図に、その場に残っていた全員が息を飲んだ。
笑う者、跳ねる者、涙を必死に堪える者、崩れ落ちる者。そしてセシィは。
「ごうかーく!!点数はぁ?」
勢い良く掲げられた用紙は全てチェックマークで埋められている。それに加え、成績順で振られる番号の欄には一の文字。
「主席って事か?」
「えぇ……えぇ!主席ですか!?」
エヘエヘと照れくさそうに笑うとセシィから、もう一つ重大な報告が。
「実技試験の繰り上げ?」
「うん。想定より筆記試験の合格者が少ないから今日中に受けられるんだって」
試験開始は二時間後、受験の順番は成績順のくじ引きだそうだ。
「じゃあお祝いは次の試験が終わってからだな!」
「そうですね。ではセシィさん、引き続き力を出し切って下さい、えぇ」
激励を背に駆け出した直後、アナウンスが響く。
一つは先のセシィが言っていた通り、試験日程を繰り上げる旨。もう一つは試験を一般に公開する旨だった。
耳にした同伴者達が一斉に次の試験会場へと向かい始める。三人も周りに倣い会場へ。
既に満員は間近。古代の闘技場を思わせる円形を囲う座席は大いに賑わっている。
「急な発表でもこんなに集まるんだな」
「ですが一般人は殆ど居ませんね。九割ほどが魔術師ですよ」
フランの言葉通り周囲の人々は皆、杖を携えローブを纏う者ばかり。
「たぶん繰り上げる可能性がある事を事前に知らせていたんでしょうね」
「フランさんには届いていなかったのですか?」
「協会にあまり顔を出しませんからね……あ、始まるみたいですよ」
試験官であろう厳かな雰囲気に包まれた二人の人物に連れられてきた一人目の受験者。
会場が静かに湧き始めた。
「――なぁ、試験の内容って……」
トゥリオの問い掛けなど耳の入り口にすら触れない程にフランは熟視していた。
物珍しさも当然、しかしそれよりも魔術の世界を後に引いて往くであろう者の業に釘付けであった。
合図が渡った。
小暇の後に炎の渦が立ち上がる。
湧き、静まる会場。再び合図が響いた。
先程よりも短い合間、幾重に重なる光の防壁が術師の前に崛起する。
「展開速度は禁解並みですね……」
「お前並みって事か?」
下手をすれば上回っているかも知れない。興奮気味に返したフランだが、続く言葉は称賛ではなく、この試験への愁いだった。
「条件反射?動物を躾けたりするアレですよね?えぇ」
「そうです。この試験は実戦に必要な技術を量る為の物ですが――」
今の光景から見るに、受験者は言葉を合図に魔術を放っているだけ。素早くかつ正確に。
しかし、実際に魔物やらと戦闘になった際は、予備動作などあっても合図などしてくれない。
つまるところ、実践であって実戦には向かない。
「決闘と試合の違いみたいなモンだな」
「うまいですね、その通りなんですよ。基礎に則るの良い事ですが、私はそれが心配なんですよね」
「と、言いますと?」
フランが抱える杞憂、無論それはセシィの事。
今、ココに居るどの受験者よりも実戦を積んだであろうセシィが、どれだけ技術のみを引き出せるか。
「不得手な部分は精霊魔術でカバーするでしょうからね……それが心配なんですよ」
未だ多くの部分が未解明とされている精霊魔術。試験においての代用は基礎の熟達と判断されるか否か。
「でも殆どが分かって無いって事は、それだけ誤魔化しようもあるって事だろ?」
「……確かにそうかも知れませんね」
トゥリオが放つ通り、そもそも分からないのであれば使った事も、また分からない。フランの杞憂が安堵へと変わり始めた頃、遂にセシィの番が回って来たようだ。




