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第二十話 身体を蝕む快楽 ⑤

 少々複雑そうな表情を浮かべるトゥリオよそに、嬉々として飛び乗ったセシィへサンツィオが何かを握り締めた手を伸ばす。


「魔映石です。連絡方法は、そうですねぇ……石に向かって光を放つので、それを合図に合流しましょう」


「うん分かった!でも、二人はどのあたりに居るの?」


 セシィの質問も想定済みの様だ。

 魔術師を見掛けた地点に印が打ってある地図をセシィへ見せながら、集団が向かった方角へ矢印を引く。


「オッケー!じゃあ何かあったらそこに向かうね。コッチは……村の看板を映すね」


「頼みますよ、えぇ」


「セシィ、無茶はしないでくださいね」


 言わずもがなと拳を掲げるセシィ、空路での移動を前になんとも頼りない表情のトゥリオは翼獣に連れられ大空へと飛び出した。


「用意周到、でしたね」


「コレでも商人ですから。不測の事態に対する勘と言うヤツですかね」


 少し鋭さを帯びた瞳で空を仰ぎながら放つサンツィオからは、言い知れぬ迫力が溢れていた。


「自己満足、と思うでしょうが……ワタクシにとっては贖罪でもあるんです。奪った未来を返せる訳ではありませんがね」


「……ですが、今奪われようとしている未来を守る事は、新たな悲劇の芽を摘む事は出来ます。行きましょう!」


 良い具合に暖気が済んだ魔動力車を唸らせ、目的地へ到着する頃、辺りはすっかり深い闇に包まれていた。

 周囲にまだ人の気配は無く、冷たく乾いた風が吹き抜けるばかりの草原地帯で二人は腰を落とし、息を殺す。


(索敵魔術を展開したい所ですが、相手の力量が計れませんからね……)


 みるみるうちに気温は下がり、体力が奪われ流れる時間の感覚が狂い始める。それでも耐えて、耐えて一時間、また一時間刻々と進んでいく時計の針が真上を指した頃、茂る身の丈程の草が動く。

 獣が駆けるでもなく、風が揺らすでもなく。


「サンツィオさん……」


 小刻みに身を震わすサンツィオの肩を揺すり、フランが示した先には昼間に見た魔術師と他の数名。

 二言三言交わし、西へと彼らは再び歩き出した。


「フランさん、追いましょう」


「えぇ、ですがその前に――」


 魔映石に光を放ち、セシィとトゥリオへ合図を送る。ついでに移動先を伝えるべく紙切れに“西へ”と記し、石へかざす。


「問題無いでしょう。ではくれぐれも慎重に行きますよ」


 集団との距離を空けすぎず、しかし詰めすぎず絶妙に慎重に後を()ける。

 運が味方したのか、進むにつれて生い茂る草木は深くなり、二人に少しばかりの余裕が生まれていたのも束の間、瞳へ飛び込んできた景色によって再び緊張へと塗り替えられる。


「廃村ですかね、えぇ」


「それより見てください!あれって……」


 見開いたフランの瞳が向く方には、衛兵が二人。尾けていた魔術師達と親し気に会話を交わしたかと思えば、小袋と金銭の受け渡しを始めた。


「まさか衛兵が絡んでいたとは、えぇ」


「こんな“面倒事”だとは……何かいい案はありますか?」


「……そうですねぇ、彼等に下ると言うのはどうでしょうか?少なくとも命の保証くらいはしてくれるでしょうから」


「アナタが言うと冗談に聞こえませんね」


「失礼、緊張を解そうと思いまして、えぇ。一先ず二人の到着を待ちましょうか」


「ですね。合流次第、サンツィオさんは衛兵を呼んで頂けますか?」


「ワタクシ程の適任はいませんね!」


 解れつつも適度な緊張を持ったままの二人は、大胆にも会話が聞こえるまで魔術師達との距離を詰め始め、耳を澄ます。

 傍から見れば和気藹々(わきあいあい)とした会話。しかし耳を傾ければ、聞くに堪えない下衆で私欲に塗れた卑劣な内容。


 フランは今すぐにでも飛び出し声を張り上げたい気持ちを噛み殺し、ジッと二人の到着を待った。

 先程よりも更に遅く感じる時間の流れを必死に堪え数分、集団に三つの人影が歩み寄る。反応、振る舞いを見るに三人が彼等の仲間である事は確か。


「大規模な組織の様ですね……これ以上人数が増えると厄介です……」


「えぇですが、万が一にもヘマをすれば、です。二人の到着はもうすぐの筈ですよ」


 杖を握る手を闘気で震わせながら浮かせたフランの腰をサンツィオの言葉が、しっかりと再び地面へ引き戻すと同時に、草を踏み均す足音が二つ二人の背後へ。

 振り向けば夜闇に光る、金色と碧色の瞳。

 

「師匠おまたせ!」


「状況は?」


 手早く手短にこれまでの状況を、これからの策を説けば、各々が獲物に手を伸ばす。


「やるしかねぇな。サンツィオ、途中で捕まるなよ」


「え、えぇ勿論ですよ。三人も必ず無事で居てくださいよ」


「よぉし、はじめよっか!」


 覚悟は整い、意気込みは十分。大きな深呼吸を重ね、茂みから飛び出す。

 談笑が止み、訪れた静寂はトゥリオの怒声で破られる。


「お()ぇら、何の目的が、何の大義があってこんな事してやがる!」


 一人の人物が出した合図と同時に返って来た答えは言葉では無く、切っ先と光を帯びた魔拡石だった。

 合図と言うには僅かな所作だったが、ソレを出した瞬間をトゥリオは見逃していなかった。故に出す事の叶った彼の指示を皮切りに三人と、集団の間合いが重なる。


「フラン!赤い線が入ったローブの男、アイツが頭だ。頼むぜ!」


「任されました!」

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