第二十話 身体を蝕む快楽 ④
それぞれが獲得した様々な結果が飛び交うも、意外な事に一つの結論に辿り着いた。
「って事は、俺達が辿り着いた組織と、お前達が見た魔術師の集団は同組織……」
「二人が耳にした“角狩り”と言うのを、私達が見たモノとするのならば間違いないでしょう」
「じゃあ、その悪そうな魔術師をやっつけちゃえば解決だね!まずは隠れ家を探さなきゃ」
作戦会議は順調に進んでいたかに見えたが、ここで問題が判明する。
魔術師達の隠れ家を如何にして探し出すか。
彼等が獣の角を欲している事が既に分かっている為、同地点もしくはチナツィーストの生息域でじっくり時間を掛けて待ち構えいれば、そこからの尾行は容易なのだが、サンツィオの商人観点からそれは得策ではない理由がある様だ。
「あの魔術師達がどれ程のパイプを持っているか分かりませんがね、えぇ」
サンツィオが持つ懸念点は、既に辺りの村落が壊滅状態にある事から生まれているらしい。
「時間を掛ける……既に三つの村が、と言う事はソレを実現するだけの供給ルートがあると言う事」
「つまり、時間を掛ければ掛けるほど、周りに被害が広がる可能性があるって事だな?」
「その通りです、えぇ。」
「でも、ほかに探す方法って……チロさんの情報網を使ってもムズカシイでしょ?どうしたら……」
行き詰まりかけ、交わる言葉が消えて凪ぐその場、誇らしさと少しの不安が混じった面持ちで、夕焼け空を指しながらフランが口を開く。
「方法なら一つ。私からすればコチラも得策とは言えませんが」
「もったいぶらずに言っちゃいなよ師匠!」
セシィの催促に、決行するか否かは三人で決めてほしいと加えつつ、打ち出したのは正に今この瞬間から行動を始めると言う単純な策だった。
「なるほどな、夜闇に紛れて動けばって事か」
「それもありますが――」
フランの真意は別の所にある様だった。
当然彼の言う通り、暗がりに潜み追跡すればリスクを小さく出来る利点はあるが、フランがこの策を出すに至った理由は一つ。
「今日、角獣の角を調達したのなら近い内、必ず取引が行われる筈です。それこそ今日にでも……」
この策をより確実な物へ近づける為にフランはサンツィオへ、とある質問をぶつける。
「いつ頃から、ですか?」
「はい。アナタも被害が広がってから訪れている筈なので分かる範囲で構いません」
サンツィオは難しい顔をしながら手帳に目を通し始めた。
「えぇ……ワタクシがココへ来たのが……それで、あそこが……次ぎにココか」
千切り取られた手帳の一頁が机の上に置かれる。
「ワタクシが来た時既にココ、セーナ村は壊滅的でして、えぇ。あとの村はソレに記した通りです」
三人の視線が一気に集まった紙切れには今日に至るまでの詳細が記されている。
セーナ村壊滅の三か月後にヴォーラ村が被害に。そしてその約一か月後にはコッソーレ村で急激に被害が広まり、村としての機能を果たせなくなるまでに凡そ一週間。
「村の規模って分かりますか?」
「そうですねぇ……このセーナが一般的な規模だとして、ヴォーラは比較的小規模、コッソーレはかなり大きな村で、辺りでは最大規模でしょう」
「最大規模の村が一月程で……皆さんどう思いますか?」
漏れなく全員の表情に影が掛かかってから数分、トゥリオが発した一言は、フランへ確信をもたらした。
「コッソーレの村へ被害が広まる前に、薬の製造法が確立され一気に流通の速度が上がった……か?」
「セシィはよくわかんないかなぁ……」
「同感です、えぇ」
「どっちにだよ」
「勿論トゥリオさんの見解にですよ、えぇ」
「もしそうであれば、本当に今日にでも何らかの接触がある筈です。そしてそれが行われた暁には恐らく、この近辺以外でも被害が……」
考察の結果に立った予測は、策を実行へ移すには十分だった。
「だったらこうしちゃ居られないな。で、フランどうする?」
「そうですね、今日の目撃地点から探ると同時に、もう一つくらい手を打ちたいですね……」
「では付近の村にある雑貨屋や、薬屋を張るのどうでしょうか、えぇ」
「壊滅寸前だってのにか?」
サンツィオがニヤリと口角を上げ放ったのは、悪党が取りそうな手段故の理由だった。
「確かに、一つのリスクも面倒も無いですからね」
「材料や道具が不足すれば現れるかもしれねぇな。じゃあ後は配置だ」
「相手が魔術師って事は、手分けするなら師匠とセシィは別れた方が良いよね?」
「先程同様のペアで良いでしょう。あともう一つ問題が――」
近辺と言いつつも村間の距離は短くても十数キロ。問題とはその間を如何にして二人で監視するか。
「ワタクシの出番ですね!えぇ!」
バッと立ち上がり、着いて来いと手招きをし、飛空艇へと走り出すサンツィオ。
何事かと追った三人を待っていたのは彼と、彼が従える一匹の翼獣。




