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第二話 強襲、そして新たな出会い ④

 正直な所フランの思いは“どちらも正しい”のでは?と言うものだった。やむを得ない状況が故の越境、しかし大陸に敷かれる規律を守る法の番人(衛兵)としての立場と民への示し。治安を守ると言った点ではアモスが正しいが、その反面に民を守ると言った点ではトゥリオの判断が正しかった。

 以降配慮する、今回はそれで済んでしまうのではないか?と考えるフランだが、どうもそうは行かないらしい。


「一体何度目だと思っているんだ?」


「十八回……今回で十九回目……」


「はぁ、確かに民の命と代え難いのは分かる。しかしな、その後の処理と言う事も考えてくれんか?」


「越境税は納付してるんですから別に……」


 段々とお互いがヒートアップしていく。次第に言葉が荒く……遂に雑言が飛び交い始める。見兼ねたフランが仲裁に入るも、最早声が届かない。


(どうしましょうか?)


 大の大人二人、止める術が無い訳では無いが“こんな事”に魔術を使うのは、と躊躇する彼女の耳に三人目の声が届く。


「師匠?まだー?」


「セシィ……ちょうどいい所に!あの二人を止めるの手伝って貰えますか?」


「もちろん!どうする?魔術で吹っ飛ばす?」


 自身が躊躇っていた手段を一番に提案した弟子に、顔を引き攣らせながらフランは一先ず平和的な制止を求める。

 結果、安直ではあるが二人で呼び掛ける事にしたフランとセシィは早速、今にもお互いに掴み掛りそうな二人へ――


「「二人とも、いい加減にしてください!」」


 届かない、それどころか既に二人は取っ組み合っている。


「駄目そうだね……しょうがないよね師匠!」


 頬を膨らませ、少し悔しそうな表情を浮かべたセシィが杖を構える。


「えーい、炎嵐荒べ(フィアペスタ・フーリ)!」


「ちょっ、セシィ!」


 制止も虚しく、争う二人を炎の渦が包み込む。威力を大幅に下げている様だが、再び確認できた二人の姿は煤に塗れている。


「ゴホ、ゴホッ……なにが……トゥリオ大丈夫か?」


「ゴフッ、(あち)ぃ」


「二人とも、少しは頭冷えたかな?」


 まるで悪びれていないセシィの代わりに、二人へ駆け寄り必死に謝るフラン。そんな彼女に先程まで言い争っていた二人が口を揃える。


「「いや、水の魔術だろ」」


「は?」


 怒っていないのは確かな様だが、これは振りなのか、それとも丸焼きにされた事で冷却を求めているのか?フランが悩んでいる間に、二人は服をはたき立ち上がる。


「まぁ良いや、恥ずかしい所を見せちまったな嬢ちゃん。少し付き合ってくれるか?そっちの嬢ちゃんもだ」


「トゥリオ……」


「隊長、少し頭を冷やしてきます。また後で」


 物言いたげな面持ちでトゥリオがフランとセシィへ手招く。夜の静寂が広がる中、壁上を辿り暫し歩く三人。そろそろ、叫んでもアモスへ声が届かないであろう場所、トゥリオが静かに口を開いた。

 何と無しに、かげりのある表情へ神妙さを浮かべながら放つのは、意外な真実とアモスへの感謝。


 幾多にも及んだ、手続き省略の越境を許可した理由には思わず二人もトゥリオに擁護の言葉が漏れる。

 貧困にあえぐ老夫、分娩を間近に控えた産婦、急を要する者や越える事が叶わない者達への計らい。叱咤しながらも、それを不問としてくれていたアモスに対する謝意。


「俺がしたい事で、他人に迷惑を掛けるってのはなぁ……あぁは言ったとて隊長もお叱りは受けてるだろうし……」


「人助けをしたいのですか?」


「んー、何と言うかなぁ……目の前で困ってる人を見過ごせない……違うなぁ」


 ――俺はものぐさだから。

 ポツリと呟かれた言葉にフランは、クスリと笑う。それでも、今まで沢山の人を助けて来た事実は変わらないのだからと、放つフランの奨励をトゥリオは悲哀を帯びた声で否定する。


「後の事を考えちまうんだよな。後悔なんてメンドくさいし時間の無駄だろ?」


「メンドくさいから、メンドくさくなりそうだから、後悔したく無いから。セシィと師匠もあんまり変わらないよ!ねっ師匠!」


「確かに大差はありませんね。あの時、助けていれば……何て思いたくないですから。で、私達を呼んだのは相談役ですか?」


「まぁ、そんなところだ。悪いな時間取らせて。パゴット領(門の先)で待っててくれるか?」


 かげりの晴れた顔で駆けだしていく彼に続き、フラン達は遂にパゴット領へと足を踏み入れる。また、怒号が飛び交うのではないかと僅かながらに抱えていた心配も杞憂に終わり、暫くして少しラフな装いに着替えたトゥリオが戻って来る。


「待ってろ、との事でしたが、どうかしましたか?」


「あぁ、それなんだがな……お前さん達の旅に同行する事にした!隊長に迷惑かけるのも悪いからな、衛兵業も今日で仕舞いだ!」


「……?はい?」


「ダメか?」


 唐突な提案、と言うよりまるで決定事項かの様に口から出て来たその言葉。ダメな訳でも、嫌な訳でも無いが彼女達が目指すのは過酷な旅路の果てにある楽園。計り知れない危険が伴う事を説明するも――


「良いぜ!楽園って事は嬢ちゃん達旅隊(パーティー)だろ?なら前衛は必須だ!」


 どうにもトゥリオは考えを曲げない様だった。であれば、最早断る理由も止める理由も無い。二人はトゥリオの同行を快く受け入れ、次の目的地へと歩を進め始めた。


「――あっ、越境税払い忘れましたね」


「大丈夫だ!代わりに払っておいた!」


「トゥリオさんアナタ懲りてますか?……とは言え、ありがとうございます」


「オウ!これからよろしくな!」 



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