第十六話 楽園への道程、果ての再会 ①
苦悩、葛藤の末、答えを導き出したフランと二人の友。
違わぬ思いを胸に村を発ち、長く夢見た楽園への道程を行く最中、閑静な牧場で足を止めていた。
「良いか?フラン頼むぞ。俺とセシィじゃ役不足だからな」
「はぁ、分かりましたよ」
真剣な顔で綿密な打ち合わせを終え、フランは深呼吸を一つ、母屋へと踏み入れる。
出迎えは口髭とつば広帽子が似合うツナギ姿の壮夫。疎まれてこそいないが、歓迎もされてはいないようだ。
「なんの用だい?」
少し不機嫌そうな口調ではあるが、構わずフランは返す。
「翼獣三匹を四日間、それと野営道具を一式で三千ラル!どうですか?」
壮夫は口をポカンと開けたかと思えば、ニカッと眩しい笑顔を見せる。
「料金も聞かずに値段交渉とは、嬢ちゃん中々図太いねぇ。良いぜ気に入った!取引成立だ」
固い握手を交わし、二人へ報告。加えて何度目かの補足をトゥリオへ。
「わーってるって。翼獣で行けるのは麓の管理小屋までだろ?だとしても、何日間と歩くよりマシだ!なっ?セシィ」
「うーん……今回はリオ兄に賛成かな」
ここぞとばかりのキメ顔をフランへ見せつけた所で壮夫、もとい牧場主が三匹の翼獣を引き連れて現れる。
ありがたい事に野営道具は既に、荷鞍へしっかりと括りつけられていてすぐにでも出発出来そうだ。
「コイツらの飯も荷物の中に入れておいたからな。時間をキッチリ守らないと問答無用で振り落としてくるから気をつけな」
「躾がなってねぇじゃねぇか……どうりで閑古鳥が鳴いてる訳だ」
「トゥリオさん、心の声が漏れてます」
主人曰く、そういう躾をしてるらしいのだが……。
「そんなだから、誰一人立ち寄らないんですね」
「フラン、お前も人の事言えないぞ」
「お前さんたち中々に辛辣だな……とにかく、シッカリ頼むぞ」
「うん任せて!ちゃんとお世話するからね!」
「あぁ、くれぐれもな!」
「じゃっ行って来るね!」
挨拶代わりの握手を交わした三人。
鞍へ飛び乗り手網を握りしめ、ひとたび合図をすれば、澄んだ空気を、真っ白な雲を切り裂き大空へ。
「なぁセシィ、フラン、コイツらの飯の時間って何時だ?」
「さぁ?……聞いてなかったね」
「まぁ、振り落とされる寸前になれば分かりますよ」
長い移動時間、スリルという名の退屈しのぎを得た三人。それでもまだ不十分と、トゥリオの“弱点”をフランがつつく。
「ヒィィ……何が綺麗だよ……て言うか俺に下を見させるなよ」
「せっかく綺麗なのに勿体ないですね。ねぇセシィ?」
「うんうん。この景色は楽しまなきゃ損だよね!……でもこの高さから振り落とされると考えたら……」
「想像させないでくれ!」
景色を、スリルを、恐怖に耐える者を楽しみながらの飛空旅行はあっという間で、三人は退屈を覚える事無く、リピルンド山脈は〈チレアト山〉へと到着。
トゥリオとセシィが管理小屋の傍らへ翼獣を繋ぎ、食事を与えている間にフランは入山の手続きへと向かう。
「――三人ですね。ではコチラの申請書に記入をお願いします」
出された書類を手早く書き終え、提出すると注意事項の説明と共に小さな金庫が差し出される。
「留意点は以上となります。よろしければ、捜索依頼の預かり金として、こちらに六千ラルを」
フランがズッシリと重みのある革袋を手渡すと、中身の確認――不足は無い様だ。
「確かにお預かりしました。予定通り明々後日、ここへアナタ方が見えられなかった場合は早急に捜索を開始いたしますので」
事前の手続き、大量の説明、注意事項が踏破の厳しさを物語っている様だが、フランの心は芥程も揺るぐ事は無く、受付の青年へフランは力強く頷き返し、いざ挑まんとした時だった。
青年の一変した声が彼女を呼び止める。
魔術師の一行が行方不明になっているとの事だ。
二日前、既に捜索も打ち切られているが、遭遇もしくは発見した時は、ぜひ一報をとの事であった。
「分かりました。では行ってきますね」
「お気を付けて……再会をお待ちしております」
再会を誓い二人の元へ戻ると、踏み入る準備も覚悟も万全。三人は最後の確認と、瞳を重ね合わせる。
「大丈夫そうですね」
「当たり前だ!」
「ここまで来て引き返すわけ無いね!」
時を同じく縦に振られた三つ首。上げた面が次に見据えるは彼方の頂。気迫を放つ一歩一歩は其処への道程を着実に縮めていく。
決して平坦とは言えない道が続く中、両脇に目の前に広がる万緑の景色を収めながら、早めず遅めず淡々と進み続ける三人の退屈を忘れさせるは今日に至るまでの思い出話と魔物の襲撃。
「――よしっ……もう少し魔物には苦戦すると思ってたが、蛙の魔物ばっかりだな」
「強いのがいっぱい出て来るより良いんじゃない?」
「食料にも困りませんしね。さっ、そろそろ食事にしましょうか、今夜はグレーナのフルコースですね」
「え?コレ食うの?食えるの?」




