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第十三話 思い出の地 ④

「セシリアさん、今のはアナタが?……それはもしかして……


 一驚、混迷、高揚、千変万化するフランの表情とは裏腹に何食わぬ顔を浮かべるセシリアだが、彼女自身は今起こっている事を理解できていない様だ。

 しかし、そんなセシリアのが背に据えている幾重と重なった光の輪はまさしく――


「精霊魔術……セシリアさん、アナタ一体どこでそれを?」


「うーん、わかんない!……お姉ちゃんを助けたいって思ったらいきなり、パァって光り出したの!」


 フランの記憶に存在した言い伝えが蘇る。

 

 ――強く清き願いは精霊を導き、その力を斯の者に与えん。


(私を助ける為に、魔術の能力を開花させたって事でしょうか?)


 感慨深くも、未だに疑問が残るフランだったが精霊魔術と呼ばれる分野はその大部分が未知であるが故、幾ら思案に明け暮れようとも謎が解ける事は無い。それならば出来る事は一つと、フランはセシリアへ深々と頭を下げる。


「もうやめてよ、お姉ちゃん!助けてくれた人を助ける、当たり前だもん!それよりお腹空いたよ、早く帰ろう?」


 圧倒的な力を呈しても、尚変わらぬ無邪気な笑顔を見せられたフランも思わず口角を上げ、セシリアの手を引く。


「セシリアさん、その綺麗な心を忘れてはいけませんよ?……では帰りましょうか」


「うん!」


 こうして家路に就いた二人。その時間は一方にとっては刹那の如く短く、一方にとっては永遠の様に感じる時間だった。


「ただいまー」


「ただいま戻りました」


 家に到着すれば、初めて訪れた時の様な食事の用意と共に二人が出迎えてくれた。それは嬉しくもあり、寂しくもある物であったが、フランとセシリアの中では既に決心が着いていた。

 だからこそ、四人で囲う食卓はいつもと変わらぬ優しく暖かな空気に包まれ――いつも通りの終わりが訪れる。


「ふぅ、お腹いっぱい!それじゃ――」


 満腹でご満悦なセシリアは一通り片づけを終えると両親、フランへ向き直す。少々不自然に身なりを整え、一つ咳ばらいをし満を持して口を開ける。


「セシィ、魔術師になりたい」


 驚き、不安、声にならない声が上がる中、表情を固めたまま口を閉ざし続ける者が一人。やがて静寂が訪れようとも、沈黙を貫き、次の言葉を待ち続ける。


「だけど魔術師って誰かの弟子になったりしないといけないんでしょう?アテはあるの?」


 待ち続けていた言葉が放たれ、フランとセシリアの視線が重なる。互いに頷き合い、見せる瞳は真剣そのもの。


「お姉ちゃん……ううん、フランチャスカ師匠、セシリアを弟子にして下さい!」


 フェニチア、アウグストの眼がフランへ集まる。彼女の覚悟もとうに決まっていた。


「良いでしょう。ですが、あとは――」


 言葉は要らない様だ。

 了承をと、フランがセシリアの両親へ向くと、二人は静かに頷いた。娘の新たな門出に悲喜こもごもな面持ちを見せながら。


 ◇◇◇◇◇◇


「――師匠、その先は言っちゃダメだよ!」


「何でですか?」


「お、もしかしてやっぱり親元を離れるのが寂しくてぇ……とかか?」


 セシィは真っ赤に染まった顔を隠す様に足元へうずくまる。


「何だ図星か?」


「えぇ、もう大変で大変で」


 セシィの両親から許可を得たフランは、その後グランオリバへ戻り、任務完了の報告後再度迎えに来る予定だったのだが、急な仕事が重なってしまい再びセシィと会うまでに一月程の期間が空いていた。断じて決心が揺らいでしまっていた訳では無いが、十二と言うまだ幼さの残る年齢で親元を離れるとなれば。


「もう大泣きでしたよね。出発までに何時間待たされた事か……」


「もうやめてよししょー!」


 重苦しかった馬車上の空気が一瞬にして和やかなモノへと入れ替わる。響く笑い声や不服、喧騒が陰鬱な気分を吹き飛ばすが、この馬車の向かう先は、赴く理由も分からなぬ皇帝住まう地。


「盛り上がってる所悪いが……到着だ。降りろ」


 冷たい声が三人の不安を蘇らせる。

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